第23話 退鬼師と花剣


 この世界には、生きるもの全てにとっての脅威が、“彼岸”と呼ぶ異世界から侵入してくる。

 『鬼』と呼ばれるそれは、突如として現れ、破壊の限りを尽くしていた。時に生物や自然などに憑依して。

 そんな鬼に対抗すべく、日夜戦いを繰り広げる者達がいる。

 鬼を退治する彼らを、人は『退鬼師』と呼び、畏敬の念を抱いていた。



「ほらほら、ぼさっとしてるとまた鬼が逃げるよ」


 出現した鬼は、討伐に駆けつけた桜と柊矢を見るなりすぐさま逃げ出した。

 今はそれを追っている最中だが、柊矢には戦う意欲が一向に見受けられず、桜はたまらず不満の声を上げた。


「ちょっと待ってください、柊矢さん! 私を使ってくれるんじゃないんですか!?」

「使ってるじゃん。あんた自身を」

「意味が違うんですけど!」


 桜が言っているのは、神威として桜を使ってほしいということだ。決して、神威である桜に戦わせろと言っているのではない。

 しかし、柊矢は面倒くさそうに溜め息を吐いて言う。


「あんな低級に、『最強』と謳われる俺がわざわざ出るまでもないでしょ、めんどくさい。はい、頑張ってー」

「神威に戦わせる退鬼師って何なの……!」

「あんたは俺のなんだから、あんたが戦うのは俺が戦うのと同じだよ」

「この、横暴怠惰退鬼師め……! 絶対、更正させてやるんだからー!」


 桜は、得意げに笑みを浮かべた柊矢に怒鳴りながら、その怒りをぶつけるかのごとく地を蹴る足に力を込めた。

 対する柊矢は、対して気にも止めていないが。


「更正の前にまず退治」

「分かってます!!」

「煩い。黙って討伐する」

「――っ、鬼畜!」

「鬼はあっち」

「知ってます!」



 退鬼師が表舞台に立ってから、二百十数年。その数は当初よりも倍以上に増えているが、失われる数もまた多い。 

 これは、そんな退鬼師の中でも『最強』と謳われる一人の退鬼師と、彼に救われ、鬼を討つ力の源である神威となった一人の少女の――



「あ、いた。桜」

「っ! ――退鬼、霊刃!」

「――退鬼、雷銃」



 ――更正と鬼退治の物語。







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退鬼師の花剣 村瀬香 @k_m12

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