ただ、それだけ……

仲咲香里

ただ、それだけ……

 たまたまクラスが同じだっただけ

 偶然席が隣だっただけ


 得意教科が国語で

 差し出したお菓子がカブってて


 好きな漫画が一緒で

 好きな音楽が一緒で


 君が好きで


 君は違うってだけ




「何書いてんの? ラブレター?」


 不意に上から掛けられた声に、私は「ぎゃっ」って変な声が出た。その低く響く声は、聞き慣れてるけど予告なしはだめ。

 もう遅いだろうけど、慌ててノートも閉じてみる。


「ち、違うよっ! 詩。文芸部の課題なの」


 これはホント。


「ふーん。ただの妄想? それともリアル?」


「妄想に決まってるでしょ! フィクションだよ。フィクション!」


 もうっ、自分から言っといて妄想って言葉に爆笑しないでっ。

 でも、リアルって言ったらどんな反応したんだろ?

 試しに、言ってみれば良かった。

 なんて。


「女子ってそういうの好きだよなー」


 いつものように隣に座って、イヤフォンを取り出して、今日もあの曲を聴くのかな?


 あのコが、迎えに来るまで。


「……違うよ」




 二人だけの教室

 陽が沈む時間

 いつか一緒に読んだ、漫画の一場面みたいだね

 三年間の想いが実る、少女漫画だったけど


 だから、ねぇ


 気付いてよ

 私がただ、君が好きなだけだって




 もう一度開いたこのノートに、どこまで書いたら、君は気付いてくれるかな。

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ただ、それだけ…… 仲咲香里 @naka_saki

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