第5話 私が見た『向こう側』

 保存しておくハードディスク以外に、フラッシュメモリにも焼いておく。データの総量はギガにも満たないので、ハードディスクを持ち出すまでも無かった。

 本当に、いつデータが吹っ飛ぶか分からないからなぁ。


「アカウントはあるから、apk形式に変換っと。」


 スクリーンショット(2枚以上)と高解像度きれいなアイコンを用意して。

 リリース作業は終わり、インストールが可能になった。

 収益は気にしても仕方がない。広告を見る回数なんて微々たるものだろう。


 そもインストールされるか、という問題もある。


「気にしても仕方ないな。とりあえずインストールしてみて……お、良い感じだ。」


 形になった、今は事実を喜ぼう。作った本人が広告を見たら加算されるのだろうか、という疑問が浮かぶ……考えても詮無せんなき事だな。


 バグも無く進行していくアプリを見ながら、序盤ならではの、いじらしい時間をこなしていく。サクサク感は無いんだよなぁ、RPGの序盤は。

 敵を数回斬り、倒していく。戦闘時間は10秒程度か……ステータスが1上がる。

 次のクエストも数回で倒して、あれ? やられた? マジか。

 画面に『CONTINUEコンティニュー?』と英字が浮かび、自キャラは倒れて足をピクピクさせている。


「あれ、序盤の難易度ミスったか?」


 少しパソコンでデータを確認するが、「この位がちょうど良い。」と設定した難易度だった。ステータスは1ケタ。『広告を見て、ステータス1000UP』は、やりすぎかもしれない。

 まぁ、今回は見ないままで周回して育ててみよう。スキルも出てないしな。


 1つ前のクエストに戻り、地味な周回作業を開始して2回目。初めてのスキル取得だ。効果音も鳴っている。

 キラキラエフェクトでも追加すれば良かったかなぁ。


『つき:つく 攻撃力の80% 1回攻撃』


 ……まぁ、序盤だしな。いきなり強くは、ならない。

 だからこそ隠しステータスとして、ディレイ計算式を入れている。


が一定値を超えた時、計算される』という特殊なモノ。あえて素手で通す気骨のあるプレイヤーなんて、まずいないだろう。10回負けた時、条件が開示されて……怒る人もいるかもなぁ。


『ディレイ短縮:倒れた回数10回ごとに0.01%短縮(1日1回の累積)』


 毎日10回やられてね(ハート)。わざわざ5ヵ国語で表示し、10秒表示親切設計。うん、私なら殴ってるな。


 よくあるスマホの時間を進めてしまう行為に関しても、少しだけ対策がある。

 倒した敵の数やインストールされた日時も、ディレイ短縮の計算に含めているのだ。

 早めただけでは逆にノロノロ攻撃する羽目になる、という。


「まぁ、普通にやっていれば100日で……ディレイが1%短縮、だな。」


 正直、たった1%の誤差など体感できないレベルだろう。しかし、解禁されたという事実は、他にもあるかも、と思わせる布石だ。わざわざ解析する馬鹿は、いないよな。


「あれ、このアプリ……続編あるのかな。」


 不意に、要らん事を考えてしまった。

 次作への引継ぎ要素があれば意欲に繋がる、次世代のスマホには諦めたエフェクトやBGMも盛り込める。そして——


 ——


「良いな、すごく良い。100桁ものダメージが乱れ飛ぶ戦闘、綺麗なエフェクト、聞き入るBGM……あぁ、キャラも動かせるよな。」


 夢は広がるばかりだ。尽きる事は無い。


 高揚した私のスマホのキャラクターは、今まで以上に生き生きと動いているように見えた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

ダメージ滝の向こう側 あるまたく @arumataku

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ