第4話 三つ巴

 火力が1万分の1にまで弱化している。


 RPGにおいて攻撃ダメージが減少するという事は、敵を倒すまでの時間に直結する問題だ。

 敵のHPが1億を超えるゲームアプリでは、その影響は計り知れない。


「久々に見たな、2桁ダメージ。20かぁ。」


 『防御力 100万』の敵を倒すまでに叩いてね? と言われて喜ぶ輩はいないだろう。1体を倒すために、1日以上かかるなんて……さじを投げるレベルだ。

 攻撃スキルを3つ装着する前提で作っていた事が、裏目に出るとは。


「どうしたもんか。攻撃スキルの倍率を『回復スキルの種類も加味した倍率』に変えれば。」


―――――――――


「おっも。」


 追加した結果、テキストデータが倍になり、さらに重くなった。

 攻撃スキル、回復スキル、そして回避率。ちょうど良い設定が空からでも降ってきてくれたら……と、背もたれに背中を預け、天井を見る。


「攻撃をしなければ敵を倒せない、回復をしなければHPが持たない、回避率を上げなければ避けられない。どれかを上げると、どれかが犠牲になる、か。」


 まぁ、試行錯誤する敵は必要だろう。テキストの量さえ解決してしまえば、あとはプレイヤーの周回数で、どうにでもなるはず。実際、周回プレイによってステータスは上がり続けるのだから。


「問題があれば、修正するかぁ。」


 重い、と感じなければ続けてくれる人もいるだろう。まずはカクつかない事、次にバグを無くす事、そしてクリアできない難易度の調整だ。


「やることが増えた気がする。」


 なけなしの意欲を、黒い暇鳥カラスの間抜け声が嘲笑っているようだった。


――――――――――


「腹減った……よし。」


 クリアできない難易度については、広告を視聴した報酬としてステータスアップとした。

 安直だが、分かりやすいだろう。10回戦闘分+視聴回数×10%アップ……まぁ、見てくれた御礼と割り切ろう。腹の虫が、また鳴った。


 バグについては、累積したバグレポートから書き直していった。簡単ではないが、一から作るよりも簡単だった。最近の家庭用ゲームやオンラインゲームなどでは、もっと大変なのだろう。

 私には関係ないな。カップ麺食いたい。


 カクツキについて。

 数時間を要した。途中で諦めかけ、他の作業に移ったほどには面倒な作業だった。

 そもダメージ表示だけで重いのだ、画像やステータスの調整では微塵も軽くならなかった。




「3分。匂いに耐える待ち時間も、あっという間……あ、これ4分じゃん!」


 たまにある待ち時間の違い。普段はイライラする事なのに、今日に限っては天啓だった。

 重い表示に0.01秒というを与える。

 表示されるダメージの総数は数個減り、数回重くなるものの1秒以内に収める事に成功した。


「とは言え、魅せるつもりのダメージ滝が……少し軽くなっちまったなぁ。」


 正直に言えば、ダメージ間隔や桁に妥協したくない、上げ続けたい。しかし、現状では仕様が無いだろう。はぁ。

 カップ麺をすすりつつ、戦闘画面カクツキを検証する。


「うん、順調。」


 クエスト、ステータス、そして戦闘。問題ない。口を動かし昼食を終えると、午後の日差しが私を襲った。

 ああ、焼ける、焼けてしまう。


「……あ、!」

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