第3話 回復と回避の回音

 回避率。


 読んで字のごとく、敵の攻撃等を回避する確率である。

 オンラインゲームでは、初期状態でも5%程度の回避率が設定されていたりする。

 100%回避できる状態にしてしまうと、途端に面白くなくなるだろう。95%を上限として設定しておく。調整次第だが、敵の攻撃が苛烈になればなるほど、回避率が活きてくるはず。

 食らわなければ何とやら、というやつ。


 中盤まで、敵の攻撃回数は1ターンに1回。後半は複数回攻撃としている。

 ラスボスは、ステータスALL9999万9999でさえ「10回に1回倒せない」程度の難易度にしておきたい。ただの作業じゃ、つまらんしな。


 回避成功時の音を追加するか、を考える。

 「音」は複数回攻撃の処理同様、重なってしまう。1つの音声を再生中に、重複しないようにしても良いが……。他の音まで消えないか、をあとで検証しよう。


 テキストをポップさせよう。英語表記でも良かったが『ミス』という表記にした。表記自体のアニメーションは削除した。0.5秒表示し、消えるようにする。同時に100回の回避に成功しても、重くなる事はない——


 ——訂正。重くなる状況に、心当たりがあった。

 



―――――――――――


「やっぱりかぁ、カクカクだ……。」


 プレイヤーキャラが複数回攻撃をするならば、敵キャラも同様に、という安直な理由で設置した『修羅の道』マップの『アフラ』。その攻撃回数は、最高336回にも及ぶ。


 1ターン毎に攻撃回数が増え続け、8ターン目に初期の回数に戻る仕様。


 問題となるのはダメージ量ではない。データ処理だ。

 ダメージのテキストデータが表示され、消えるまでの時間は0.5秒と設定している。

 『アフラ』の攻撃間隔は0.5秒なので、2回分の攻撃ダメージが表示され……。


「6回目の攻撃で288個、7回目で336個、合わせて624個のテキストが表示される、と。」


 多すぎた、とは思う。

 パソコンでの動作では2ギガバイトものメモリを消費し、ファンの回転が最大になった。スマホのRAMを占有しゲームアプリを起動するが、2ギガバイトも占有しては……他のアプリを全て切らなければプレイできない人も出てくるだろう。

 ちなみにツイッターで150メガ、大手のゲームアプリで400メガ程度の占有だ。


「できれば半分以下にしたいな。8割がテキストです、って笑い話にもならんな。」


 デスクトップ上では、敵味方ともにダメージカスケードが発生している。音を切っているが、その激しさはゲーム内で断トツだ。

 秒間700ものダメージ表示が流れる戦闘画面。

 このゲームの見せ場の一つだからこそ。


かたちに、してぇなぁ。」



―――――――――――


 20分ほど考えたが、改善案は出なかった。腹の虫とともに作業を止め、飯を食いながら次の作業を考える。


 回復。


 減ったHPを増やす、と言えば伝わるだろうか。

 ターン制のゲームであれば、回復を選択してキャラのHPが回復するだけなのだ。

 しかし、このゲームアプリにおいては、かなり厄介な問題となる。


 何回、回復するのかだ。


 例えば攻撃のたびに回復した、としよう。

 攻撃回数が10回以上になるため、回復する数値もまた同数になってしまう。見た目には派手になって良いかもしれない。回復エフェクト、回復数値の滝、増えていくHP——


 ――うん、絶対アプリが落ちる。機種によってはスマホ自体が『再起動するおちる』だろう。


「テキストが多すぎるんだよなぁ。どうやって減らすか……。」


 回復スキルの一覧を見て、効果を考える時の苦労を思い出す。


 スキル説明が『HP1000回復』だけなので、確率を設定して大回復するようにしたり。

 『3秒以内に次の回復スキルを使用した場合、効果10倍』としてみたり。

 あぁ、『たまに回復できない状態異常になる』とかも作ったっけ。


「確率ねぇ……20%だと、5回に1回だから——」


 あれ? 5分の1じゃね?


「——減らせる?」


 回復できない状態異常についても、エフェクトが消えるまでは次の回復スキルが発動しないようにすれば……。


「同時処理数を減らせる。」


 水を得た魚のように確率の説明やプログラムを書き加え、保存した時には日付が変わろうとしていた。少し張り切りすぎたかもしれない。



―――――――――――


 次の日、朝食にパンを食べながらポチポチと、戦闘画面を見てはパクパクと。


 避ける、回復する、音が割れない。良い事尽くし……なのだが。


『めっさ弱くなってる……。』


 大問題が発生していた。

 

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