第2話 その鼓動は何のため
忘れていた武器の調整を終え、昼食を買いにコンビニへ歩いていく。
交差点で信号待ちをしていると、イライラしてくる。寝不足なうえにカルシウムまで足りていないのだろう。腕を組み、苛立たしさを隠せず指をトントンと動かしていた。
いかんな、顏までヒクついてるじゃねーか。
「テンポ良く進めば、続くんだよなぁ……仕事もゲームも。」
分かってはいるのだ。だが、他人のテンポが分からない。こんな悩みを持つのは、俺くらいだろうか。
青信号になり、歩きながら考える。
敵を1撃で倒し、次の敵に攻撃するまでの時間。
これがテンポを生むと考えている。
早すぎると端末の処理が追いつかずアプリが落ちてしまう。遅すぎれば不要な待ち時間が発生し、テンポが悪い。
心拍数に合わせようとしたこともあるが、一人一人違うものに、どう合わせるのか。それぞれのスキルに待ち時間——いわゆるディレイを決めよう。
よくある2倍速、3倍速をつけるか。
これも攻撃回数に反比例するんだよなぁ。
例えば『閃斬舞』だけを3倍速で撃ち続けたとすると、3.3秒毎に攻撃スキルの処理が発生する。
ダメージ表示が完全に消えるまでに次の攻撃スキルを撃つため、通常時でさえ一瞬重くなるのだ。スマホで複数のアプリにメモリを割いている状態では……落ちるわな。
「あぁ、どうすっかなぁ。」
――――――――
コンビニのおっちゃんの平坦な声を聞き流し、帰り道を急ぐ。
「……見つけた!」
解決策を。
帰宅からしばらくのテンションは、おかしかった。あとで猛省しよう。
とりあえず2倍速で試すが、重なりすぎたエフェクトはカットする。これにより、音が異常に大きくなることも、処理落ちなども無くなった。淡白なエフェクトになった、ともいう。
上手くいってくれよ、と願いながら敵を配置する。
『オースントン火山1-1』マップの『揺らめく火片』はHP 100万だが、防御力 0だ。ある程度、育てていれば1撃で削りきれる。
主人公キャラのステータスを『ATK 1万、DEF 1万』に変更し、武器も持たせた。
仕込み刀「
実は多段攻撃のそれぞれに1万が追加されるというネタ武器。序盤にあれば火力が倍になりそうな武器は、ステータスが足りずにクリアできない人用だ。周回数でいくらでもカバーできるが。『攻撃力 500』も確認っと。
3倍速での検証。
……ヤバイ、面白いようにテンポが良い。
しばらく続けていると『1億8633万9400』であったダメージが『2億8652万6900』に増えていた。……与えるダメージも倒すたびに上がっていく。ステータスもしっかり反映されている。よしよし。
「はぁ、終わったぁ。」
懸念事項が解消され、ひと息ついた。
ちょうど腹も鳴ってきたので、買ってきた「ごはん3個パック」の1つを使いチャーハンでも作ろうと席を立つ。
手早くチャーハンの素を混ぜ、パクつきながら考える。
「3つ、か。リセットかかるようにしたはずだ。大丈夫だろ。」
徹夜明けの頭で考えても、ダメだな。寝よ寝よ……。
――――――――――
『46845335208703682』
画面に流れるダメージ
同じステータスで同じ敵を攻撃した。
にもかかわらず、ダメージの桁が攻撃のたびに増え続けている。
まだまだあったよ……修正が。武器の調整が終わっていない事実に「今日も徹夜だな」と呟きながらも、しばらく楽しんだ。
……さて、問題の武器の調整だが。『キャラ』画面で武器を選択する。
双剣『二ノ型』:攻撃力100 次の攻撃スキルのダメージ50%UP
説明文は良い。しかし2発目の攻撃スキル使用後も効果が残ってしまい、3発目にはダメージ225%UPになる。修正っと。
双剣『二ノ型』:攻撃力100 2発目の攻撃スキルのダメージ50%UP
次に、敵を倒した時の挙動を確認する。
今回は初期ステータスで双剣のみを持たせ、固定数値のダメージを軽減する特殊な敵キャラを配置した。
『塔の監視兵』:全ダメージを95%カット、HP 1万、防御力 200
多段攻撃のモーションが流れ、ダメージが表示される。
6
9
6
13
6
20
6
30
……おや? 偶数回のダメージが増えているような。
双剣『二ノ型』の説明文を、2ターン目の、に変更しよう。ターン数がきちんとリセットされる事も確認っと。
――――――――――
『覚醒』というシステムを組み込むか、について考えてみる。
キャラ、武器そしてスキル。これらのステータス上限やダメージ倍率、そして攻撃力の数値を上げるための要素として、より長く育成するために必要だろうか。
「育成が、ただの周回だと……つまらんよなぁ。」
攻撃スキル後の待ち時間を、ただ待っていると敵に攻撃される。序盤ならば気にならないだろうが、後半は億単位の被ダメージだ。戦闘開始から10秒で必ず倒されてしまう。ダメージ軽減のスキルや武器の効果が無いので、入れるのも手ではある。
「攻撃を犠牲にしてしまうのも……せっかくダメージを売りにしてるのに。」
与えるダメージは維持しつつ、被ダメージは抑えたい。スキルは今のままで、被ダメージは減らす、と。
コンビニで貰った割りばしを振りながら考える。
「100%くらうか……回避するか、剣で弾くか?」
いくつかの案が浮かぶ。
1.敵の攻撃モーションの前後1秒に攻撃スキルを撃つとダメージ減算する
自キャラも敵も同じダメージであれば、被ダメージ0になるような。
与えたダメージの3割分が回復というのも面白いかもしれない。確実に処理落ちするだろうが。
2.武器ごとに回避率を設定する
回避率50%程度は欲しい気がするなぁ。でも分かりやすいのは確かだ。スタミナの概念が無いのだから、トライアンドエラーでも良い気がする。
攻撃スキルに回避率アップをつけても面白いかもしれない。
3.攻撃スキルに『被ダメージを一定量無効化』を付ける
ただの引き算なので楽だ。後半の攻撃に耐えられるスキルが得られた時点で、単調なゲームになりそうだ。
「現実的なのは……回避だな。」
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