ダメージ滝の向こう側

あるまたく

第1話 ブラッシュアップ前

「ふぅ、ひと段落かな。」


 自室で独り言ち、伸びをする。カーテンの隙間から差す日光が眩しい。もう朝だったわ。


 苦味の強いコーヒーを飲みながら、パソコン上でアプリを起動する。

 タイトルは決めかねているので空白だ。起動に時間を変えないように、無駄なオープニングムービーも画像も省いている……と言うか作ったり描いたりする技術なんてあるわけない。


 起動時間3秒、まずまずか。

 アプリのホーム画面はシンプルだ。画面一杯の地図と画面下のメニューだけ。スタミナという概念は省いた。テストプレイでまで時間を気にしても仕様がない。叩かれる仕様は苦労して入れる必要もないだろう。


 画面中央にウインドウが開き、表示されたあらすじの下部には『TAP TO START』の文字が点滅していた。……よし、あらすじに誤字は無い。

 一度アプリを再起動する。……なぜあらすじが出てくる。あとで修正しよう。

 クリックしてウインドウが消えることを確認っと。


 地図に押せる場所は無い……仕様だ。メニューの『キャラ』に下向きの矢印を出して誘導する。説明ウインドウなどは入れていない。

 クエストをこなしてアイテムを獲得し、キャラの武器やスキルを強化する。次のクエストへ向かい、負けるようならば武器等を付け替える、というトライアンドエラーを地で行くスタイルだ。


 メニュー欄からキャラの詳細画面に飛ぶ。設定次第で2Dと3Dの切り替えができるようにした。今は2Dの無料配布絵が表示されている。ステータス、武器、スキル、そしてアイテム……。

 武器欄に1つ、スキル欄に3つの空の枠がある。ここにセットして、装備したり能力を発揮させる。初回起動だから何も持っていない。まぁ、当たり前か。


 ホーム画面に戻ると、地図上に『廃村』のアイコンが現れる。ポチっと。

 新しいウインドウには、廃村の項目の下に『廃村1-1』とプルダウンメニューのように表示される。このクエストで取得可能なレアアイテムの記載もされている事を確認。この辺は大丈夫かな。ポチ。



 画面が切り替わり、クエストが始まった。森の一枚絵で敵はゾンビ1体。画面の左上に敵が、右上に自キャラが表示されている。敵味方ともにキャラの下にHPバーがある。よしよし。

 画面の下半分は3つの丸いボタンがある。装備したスキルのうち攻撃スキルを選択するか、5秒に1回の通常攻撃をする。攻撃スキルにはディレイを設けた。10秒弱にしておけば、敵と交互に攻撃するだろう。


 お、考えている間に通常攻撃をした。武器を装備していないので素手だ。

 ベシッという打撃音とともに2という数字が敵のHPバーから飛んでいった。敵のHPの半分を削った。まぁ、序盤だしな。

 放っておくと通常攻撃で敵を倒した。ステータスの上昇を示す『ATK+1』と『HP+1』が自キャラの上に流れた。しかしアイテムはドロップしなかった。


「あれ、必ず1個はドロップする設定にしてなかったっけ……。」


 ここも見直しっと。

 敵を倒したため『周回』と『戻る』ボタンがポップする。『戻る』を押すと、ホーム画面に戻る設定だ。

 『周回』を選択すると倒した敵が再配置され、スキルのディレイリセットされた。


「あー、ここもか。」


 一抹の不安を覚えながらもキャラ画面に戻り、ステータスがそれぞれ+1されていることを確認。

 後半で獲得するはずの攻撃スキルとダメージアップスキルをセットする。


『閃斬舞:130%ダメージの16回攻撃』

『天訣:与えるダメージが30%アップする、重複可』


 『天訣』を2か所にセットしたので169%アップのはずだ。ステータスもイジっておく。

 中ボスでも出しておこう。『塔』のボスである『機械仕掛けのジイ』を配置しておく。


 ATK 最高値9999万9999、敵のDEF値 5万、スキル2つをダメージアップ系にしてある。ブラウザ上で計算して予想ダメージを確認っと。

 これで400億ダメージになるはず……。あとは『周回』を押してからノータイムでスキル発動が可能か、という検証。


 ポチっとな。


 キュピーンという効果音とともに『閃斬舞』のモーションが流れる。

 多段攻撃の音とともに、『109849987916500109850』という数字が16段の滝となって流れていく。画面外に届きそうなダメージの桁数に、一瞬思考が停止してしまった。『機械仕掛けのジイ』は倒れた。


「はぁ?」


 兆の上って京だっけ? などと思考が逸れた。(ちなみに京の次はがい

 計算式を見てみると、除算するところが乗算になっていた。ふぅ、あぶないあぶない。中ボスなはずなのにサクサク倒せてしまっては……修正完了。



 気を取り直して、もう一度。

 今度は400億ダメージが流れていく。OK。

 ポップした『周回』を押し、攻撃スキル『閃斬舞』を連続でクリックする。


 キュピーン、キュピキュピ、キュキュ……ギョリギョリギョリギョリ!


 『閃斬舞』4回目辺りで音がおかしくなり、8回目には金属のこすれるような音になった。うるさい……修正。


 敵を倒した時、攻撃スキルのクールタイムがリセットされないように設定した。

 これで『閃斬舞』のクールタイムの10秒は維持されるだろう。




 『機械仕掛けのジイ』と再度戦う。HP1億なのでギリギリ勝てる程度のステータスで進んでくると、まず負ける。

 周回やスキル構成を考えて挑むか、グチって終わりか……。


 後者だろうな、とため息をしつつ他の作業に取り掛かった。


「あっ、武器の検証……。」

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