遊星迎撃隊—Another Story
暗黒星雲
Starship Breakers
「発射1分前」
AIの
俺はAIに自分の妹の名前を付けている。生きていれば今頃は高校二年生だ。
「59……58……57……」
俺は今、ランスに乗り込んでいる。全長120mにもなる巨大な槍。こいつを飛ばし、地球との衝突軌道上にある小惑星にぶち込むのが俺の仕事だ。
「56……55……54……」
戦艦ハリアーに接続された巨大なレールガン。全長は5000m程。貨物投射用のカタパルトを改造した特別仕様だ。ここから発射されるランスの初速は秒速100㎞。更に多段ロケットで秒速500㎞まで加速する。地上の感覚じゃとんでもないスピードだ。
「53……52……51……」
「
「任せておけ。問題ない」
「結構。健闘を祈る」
今の声は三谷艦長だ。ハリアーの大親分。宇宙軍の豪傑だ。
「45……44……43……」
「正宗中尉。落ち着いて。必ず帰って来て」
「ああ、わかってる」
今の声は操舵士の
「39……38……37……」
「正宗中尉、ビビッてしくじっても構わないぜ。俺がケツ拭いてやる」
「うるせえ。黙ってろ。気が散る」
俺が決めるからお前に出番はない。バックアップの
「30……29……28……」
「周囲に障害物はありません。進路クリア」
電探のトッシー・トリニティからの報告だ。クリアじゃなかったらどうするんだ。全く。
「20……19……18……17……」
発射の瞬間は緊張する。この加速Gは殺人的だ。
「10……9……8……7……6……5……4……3……2……1……0」
「ランス発射」
強烈なGがかかる。ぶよぶよのG吸収ゲル素材のシートに体が押し付けれられる。この瞬間、目が見えなくなった。
「プラズマロケット点火しました。速度110……120……130……」
また強烈なGに押しつぶされる。
「速度180……190……200。核融合ブースト起動しました。加速Gにご注意ください」
加速度アラームが鳴り響く。耳が鳴り何も見えない。
「速度300……350……400……450……500……ブースト終了しました」
強烈なGから解放され、視界が回復していく。
一息つきたいところだがそうはいかない。残り約1億kmを跳躍すべくワープに移行する。
「次元跳躍航法準備開始します。現在座標確認。目標確認。跳躍最適化確認。最終コース確認しました。承諾どうぞ」
ワープ失敗の際の免責事項の承諾だ。
俺は迷わず承諾をタッチする。
「次元跳躍航法開始30秒前……29……28……」
またカウントダウンが始まる。
「27……26……25……24……23……22……20……19……18……17……16……15……」
次元跳躍航法……正式には次元昇華変異による高次元跳躍航法だと言う。
「14……13……12……11……10……9……8……7……6……5……4……3……2……1……0……次元跳躍航法開始します」
その瞬間、視界は虹色の光に包まれる。
高次元の光は暖かく、ゆっくりなふんわりとした不思議な光だ。
重い肉体を脱ぎ捨てたような解放感を味わう。
これは本当に気持ちがいい。
唐突に暗くなる。元に戻った。
「三次元空間へ回帰しました。目標まであと25秒……24……23……22……21……20……」
光学カメラが小惑星を捉えた。球形ではない歪な形状をしている。
「小惑星の重心を再計算します。特定しました。進路修正0.0012」
「了解」
AIの指示通りに修正をかける。正確に重心を貫かないと細かく破砕できない。
「目標まで10秒……9……8……7……6……5……4……3……2……1……着弾しました」
大きい衝撃を感じた。
その瞬間、俺の意識は宇宙空間に投げ出されていた。
小惑星が粉々になって、破片が円盤状に広がっている。成功した。
その後すぐに俺の意識は強い力で何かに引っ張られる。
何も見えなくなった。
「正宗中尉、正宗中尉」
ゆさゆさと体をゆすられている。
わかっている。わかっているとも。
一旦離れてしまった霊体が元の体に戻っている。
しかし、感覚が正常になるまで時間がかかるのだ。
目を開くと目の前に知子がいた。
「正宗中尉……
俺の胸で涙を流している。
「帰ってきてくれた」
「ああ」
俺はハリアーの医務室で横になっていた。
艦長と軍医が入ってきた。
「中尉、成功だ。体調はどうか」
「ええ。まあまあです」
「義体はどうだったかね?」
「特に不都合は無く自然に扱えました」
軍医の田中義一郎が俺の診察を始める。上半身を脱がされ検査器具をあちこちに当てる。
「異常はないようだね。念のため48時間は安静にしておくように」
艦長と一緒に部屋を出て行った。
途端に知子は俺に抱きついて来る。
俺は彼女を抱きしめキスをした。
その時俺は、義体から元の肉体に戻った爽快感と、最愛の女性を抱きしめている幸福感に包まれていた。
遊星迎撃隊—Another Story 暗黒星雲 @darknebula
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
公募玉砕記/暗黒星雲
★35 エッセイ・ノンフィクション 連載中 137話
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます