図書館暮らし。

ポテろんぐ

第ちわわ

 私の前世は49歳で終わった。事故で亡くなったあっけない人生だった。そして、生まれ変わった私の現世は今、図書館で働いている。


「そういえば、また新しい子が入って来たらしいわよ」


 私の隣にいつもいる後輩は、図書館の開いている間もいつも私に噂話を持ちかけてくる。


「そうなの? 前の子もこの前来たばかりじゃない?」


 かく言う、私も嫌いじゃないんだけど。ただ、新しい若い子が来る話題は憂鬱だ。入った当初は新人で若かった自分が歳をとった事を実感させられる。


「私、見たんだけど。やっぱり若い子って初々しいわよね、キラキラしてて。肌なんて真っ白で、シミも全くないし、もうスベスベ」

「羨ましいなぁ。私なんてまたシミが増えたみたいなのよ。外に出るとやっぱ日光に当たってダメよ。帰ってくるとすぐシミができてるもの」

「そんな、言うほど老けてもないでしょ? アナタ、いくつだっけ?」

「私、49よ」

「49なら、まだ全然若いじゃないのよ。アラフィフじゃない」

「そうかしら……」


 今、この現世でも49の私、正直新しい子に比べると肌も白く無くなってきて、「若い」と言われても、素直に喜べない。

 それが、もう若くないって証拠な気がする。前世でもそうだった。


「でも40代って、アナタみたいに、もう若くないと思うのよ」

「そんな事ないって。私だって50よ。アナタと一個しか違わないわよ」

「やっぱり40代と50代の差は大きいわよ。なんか、『昭和生まれ』みたいに40代って聞くだけでドンって年寄り感でちゃうじゃない? 新しい子って幾つなの?」

「確か、今年で80って言ってた」

「わかっ! もう、そんなに行ってるんだ!」

「ねぇ、80代なんて、来るとは思ってもみなかったわよね。肌の作りからちょっと違うのよ」


 私はため息が出た、80の子が入って来ちゃったら、流石に40代の私が若者を名乗るわけにはいかない。引導を渡された気分だ。


「だから、大丈夫だって。まだアラフィフなんだから。それにやっぱり80代になると、若いけど、まだてーんで子供だもの」


 と、同僚が私を励ましてくれた。

 すると、遠くからワザとらしい咳払いが聞こえて来た。私たちの会話が気に障ったらしい、お局の先輩たちがこっちを睨んでいた。


「……ちょっと、あの先輩たちがこっち見てるわよ」


 私が小声で同僚に言うと、彼女はニタァっと悪い笑みを浮かべた。


「そりゃ、20代とか30代のオバサンに比べたら、40代なんて全然まだ若いわよ!」


 そして同僚は、いきなり、お局たちに聞こえるよう嫌味っぽい大声で話し始めた。


「20代とか10代のカッサカサの肌なんてとても触れたもんじゃないし。もう、10代なんてババァよ、ババァ!」


 そういって、同僚は勝ち誇ったような笑い声をケタケタと上げた。


 前世の人間だった時は49歳で死んでしまった私は、生まれ変わって、とある大物作家の大長編小説の49巻になった。

 私の隣にいつもいる同僚の50巻の娘も前世は人間だったらしく、どうも職場の若い子たちと対立していて、毎日のように「ババァ」などと嫌味を言われ悔しかったそうだ。


「私、本に生まれ変わって本当に良かったわぁ」


 と、50巻の彼女はいつも嬉しそうに言っている。


「だって、前世であんなに腹が立ってた20代と10代の奴らにババァって言ってやれるんですもん」


 確かに毎日、20巻代の先輩に嫌味を言って笑っている彼女からしたら、本は天職だろう。


「ババァ! ババァ! おい、10代、

20代ども聞いてるか? ババァ! ババァ!」


 私はそれよりも新刊の子がいよいよ80巻代に入った事で、この現世でも「もう若くない」と言う現実がジワジワと近付いていることが憂鬱でしょうがなかった。


 新刊だった頃が懐かしい……。


 同僚のババァコールの中、私は本当に切に願う。


 早く、この本、完結しないかなぁ。

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