初めては、君に

雪代

初めては、君に

僕にはひとの感情がわからない

楽しい、寂しい、嬉しい、悲しい

何もわからない

辛いのも、怒っているのも、苦しいのも

全部わからない



ひとは僕を「ロボット」と呼ぶ



「なぁ、ロボット!一緒に遊ぼうぜ!」

それをすることになんの意味があるんだい?

「だって……楽しいだろ!」

僕に楽しいという感情はわからない

「ちぇっ、つまんねぇの」


僕は普段何もしない

退屈じゃないのかって?

退屈だということもわからないのさ

だから、何もしない


以前、そんな僕に本を勧めてくれた者もいた

文字を読むことは出来るし、何より言語の勉強になる

だから、時々勧められた本を読んでいることもあった


「どう?その本、面白いでしょ」

面白いかは僕にはわからないが、勉強にはなるな

「……そっか、そうだよね」



そんなことをしていたら、僕の周りには誰もいなくなった



これでいい、これでよかったんだ

僕には感情がわからない

何もわからない

これで……


「何を変な顔をしているの?」

聞き覚えのない、透き通った声だった

「考え事でもしていたの?」

僕は……

「?」

僕はロボットだ、ひとの感情はわからない

「ふぅん」

なんだ、自分から聞いておいて

「そうね……私もロボットよ、ひとの気持ちなんてわからない」

なんだそれは、どう見たってひとじゃないか

「外をかけ回って遊んでいるひとたちの気持ちなんてわからないわ、私はこうやってあなたとお話している方が楽しいもの」

胸がひとつ、大きく脈打った

「あなたはロボットなのでしょう?ロボットの何がいけないの?あなたはあなたらしくいればそれでいいのよ」

今まで僕が見てきた世界が嘘のように、目の前が明るく光り輝いている

「私の名前はりさ、里に咲くと書いて里咲よ

あなたの名前を教えて?」

僕は……





僕はこの時、初めて感情というものを知った

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初めては、君に 雪代 @y_snow

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