彼女との日常

抹茶

僕の仕事、君の仕事


 拝啓、僕の父さん。


 手紙を送るのは、1年ぶりになるのかな?大学も無事卒業でき、僕は新たな仕事に就くことができました。有名な会社とは言い難いですが、それでも残業代の出る良い会社で働いています。

 

 今は一戸建ての家を買い、そこで暮らすことができています。なので、今度招待すると思います。幸せで、とても充実した日々が送れているので、心配しないでください。


 次、僕が父さんの元へ向かう時は―――



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「ほら、起きてください」

「・・・・・~~、ふぁー?」


 夢の世界に旅立った彼女の体を揺らしながら声を掛けると、暫くの静寂の後に小さな声が漏れた。可愛い。

 寝惚け眼なのか、しきりに目をこすりながら彼女はベットから上半身を起こして僕を見た。



――沈黙。数瞬の後だった。



「おはようっ!」

「……おはようございます。さっきまでの眠気は取れましたか?」

「うん!ありがとう~」


 嬉しそうに、彼女は言った。


「そうですか、なら良かった。次からは自分で起きれますね?」

「えっ……」

「え?」

「…………」

「…………」


 今度の沈黙は、互いが絶句したことによるものだった。といっても、僕の方が明らかに正当性のある絶句だと思う。まずは、状況を説明しよう。

 彼女は僕と同じ家に住んでいる。いわゆる同棲している訳なのだけれど、彼女は朝に極端に弱い。


 起こさなければ昼時に起きるくらいには遅い。そんな彼女が昨夜、提案してきたのだ。眠そうにしながら。


『明日の朝、私を起こしてくれないかな?』


 僕は、それにしっかりと答えた。


『良いですよ。でも、明日だけにしてくださいね』


 そう、確かに言った。だから僕は悪くない。


……ちょっと待ってくれ? 何で僕が悪くなる? 『同棲とか死ねよリア充』? 『彼女の部屋に公に入れるのに入らないとかありえない』?


――言い訳するくらいの猶予はあるだろう?


 先に言うが、僕に恋愛経験なんて無い。彼女どころか、恋をしたことすら人生で1度くらいしかない。それも今だ。

 そんな僕に、彼女の部屋に毎日入れ? しかも起こしに? 君達が何を勘違いしてるのかは分からないけど、断言しよう。



――ヘタレの僕にそれは無理。



 閑話休題話題がズれてる



「僕は昨日しっかりと言いました。ですからもう無理です」

「お願いだよー。私は君が居ないと生きていけないの~」


 僕の腕を抱きしめながら、彼女は告げる。けど、僕は知っている。彼女の声がまだ眠そうだ、ということを。

 寝惚けた状態だからか、彼女は自分で変なことを言っている自覚が無いのだろう。これは、起こすの自体が失敗だったかもしれない。


 そんな事を考えながら僕は、彼女の視線から耐えていた。それから、何とは言わないけど当たってる。女性特有の膨らみの柔らかさと彼女の大きさに僕は驚きが隠せません。

 それと、僕の僕も元気になってしまうので宜しく無いです。


「はいはい。それじゃあ、まずは朝ごはんにしましょう?」

「・・・・・・・・や!」

「子供じゃないでしょう?」

「・・・・・・・・やぁあ!」

「・・・・・」


 まるで、僕が親になった気分だ。拗ねてるのか……いや違った。彼女の顔を見れば真っ赤に染まっている。それが比喩的表現でないからこそ証拠になる。

 僕も、今まではトマトみたい真っ赤、なんて信じなかったけど彼女と触れ合ってからそれは変わった。


 彼女はありえないくらいに真っ赤になる。それもまた可愛らしいから僕は大好きだけど、本人曰く恥ずかしいらしい。可愛い理由だと思う。


「まず第一に、君は仕事があるでしょう? 幾ら家で出来るからって、それを疎かにしてはいけませんよ」


 彼女は僕よりも1つ年上で、既に社会人である。勿論働いていて、それが小説家なのだから驚きだ。今までの会話から小説家らしき言葉は何1つない。

 けれど、彼女はその仕事でを収入としていて、今一番の注目を浴びているのも彼女だ。


「だって、君が甘えさせてくれないんだもん」

「僕だって君ともっと一緒に居たいですよ?」

「なら、一緒に寝よ!」

「無理です」


 それとこれとは話が別だ。僕が断ると、彼女はリスのように頬を膨らませて睨んで来る。可愛過ぎて昇天しそうだからやめてほしい。

 彼女は視線だけで僕を天国へと送れる力を持っているらしい。今気付いた。


「僕は家事をして、君が仕事をする。それが僕達が最も幸せになれるための対価労働ですよ」


 僕の意見は正論であるし、彼女もそれを理解している。けれど、今の彼女は小さな子供みたいな思考をしている。

 膨らませた頬を一気に開放して、彼女は言った。


「君は家事をするのが仕事で、私は君に甘えるのが仕事。それこそが最も幸せな対価理想よ」


 「はぁ・・・・・・」と僕は溜息を吐いて、彼女の瞳を見つめた。いつまでも僕の隣に居てくれる、最愛の彼女。でも、公私を分けるのは大人としての義務だ。







「起きたらすぐ出ていきますよ?」

「・・・・・・・・・・・!うんっ!」


――そう、今の彼女は子供なのだ。


 そう言い聞かせながら、僕はまた、彼女の言い分を飲んだ。それが毎日だけど、きっとそれが僕の望んだ理想。

 今の生活こそが、僕の選んだ人生なんだから、胸を張って生きたいと思う。




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――僕が結婚の報告をする時にしたいです。



 PS


 同棲して毎日ずっと一緒に居ますけど、まだ彼氏彼女ですよね?

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彼女との日常 抹茶 @bakauke16

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