仁義ニャき戦い ー集団心中編ー

ちびまるフォイ

指定暴力団の一斉摘発

「お前が新しくこの家にやってきたネコか」


「あっしは、フォールドいいます。今日からよろしくお願いしやす」


「お願いするかどうかはこっちが決めるんニャよ」


奥からやってきたのは貫禄のある猫だった。

ボス猫の後ろをいくつもの猫が整列して歩いている。


「お前ェ、主にこの家に連れてきてもらったからって

 よもや、今度の「おでかけ」に連れて行ってもらえるたぁ思ってニャいよなぁ」


「おでかけ……!?」


「俺たち室内猫がシャバに出られる唯一の機会よォ。

 そのビッグイベントに参加できるのは、この俺が認めた猫だけなんだよ」


周りの猫が「そうニャそうニャ」と鳴き声でヤジを飛ばす。

完全にアウェーな空気感が出来上がっていた。


「俺たちの傘下に入りてェニャらよォ。

 それなりの覚悟を見せてもらなきゃニャらねぇのよ。それができんのか?」


「やって……見せるにゃ!」


「おもしれぇ。おい、お前ら、ここでの振る舞いってのを教えてやれ」


「「「 ニャ! 」」」


数匹の幹部猫がフォールドの周りにやってきた。

誘導されるままについていくと、ちょうど食事を取っている主の背後に回り込んだ。


「いいか新顔。オレたちにエサを恵んでもらう貧しい猫はいらニャい。

 主を手玉に取ってこそ、家族の一員として認められるわけよ」


「どうすればいいニャ」


「主の皿からなにかもらってくるんニャ。

 ただし、自分のキャットフードには手を付けず、ニャ。

 自分のご飯を放置して、主から飯を上納させることができるニャ?」


フォールドは肉球をぺたぺた鳴らしながら主にすり寄った。

ゴロゴロと喉を鳴らして背中に頭をすりつけて猛烈アピール。


あっという間に食卓に上がっていた鮭の皮を手に入れてきた。


「なんにゃと!? あの食事にきびしい主からこうも簡単に!!」


「ニャフフ。こちとらペットショップで人の扱いにはニャれてるのよ」


「では次はどうかニャ?」


次は主の作業部屋だった。

高く積まれた本棚と起動中のPCが見える。


「さっきはお前の人心掌握術をテストしたニャ。

 俺たち極道猫でのしあがるニャ必要な素養ニャ」


「今度はどんな素質を確かめるニャ?」


「覚悟ニャ。どんなことにも動じニャい心があるかをテストするニャ。

 主がこの部屋に来てから、思い切り作業を邪魔するニャ」


「そんなことすれば……」

「想像してる通りニャ。その時のお前の対応を我々がチェックするニャ」


食事を終えた主がいそいそと作業部屋に戻ってくると、

書きかけの書類をパソコンに打ち込んでせわしなく作業を始めた。


その背中越しからも忙しさが見てわかる。


「さぁ、お前はこの主にどれだけ邪魔できるかニャ。

 邪魔すればしたぶんだけ、こっぴどく怒られるニャ!」


しっぽを押されたフォールドは本棚に登ると、立てかけてある本を落とし始めた。


「あ、あいつ! よりによって本を!!」

「主は本を傷つけるの嫌がってるのに!」

「なんて命知らずなんだ!!」


見ている極道猫たちも驚いて毛が逆立った。

フォールドは更に壁をガリガリと削りはじめた。


「ニャアア~~! もう見てられニャい!」


とばっちりを恐れた猫たちは慌てて部屋を出ていく。

極めつけに、フォールドは自分が主犯だと名乗り出るように主の前に向かう。


「あいつ、死ぬ気かニャ!?」


フォールドは堂々と主の手とキーボードの上に寝転がった。

完全なる作業妨害に猫たちは凍りついた。


しかし。


「も~~。仕事できないだろ~~」


主は叱るどころかフォールドをつまんで床におろし、本を戻してしまった。

あれだけの惨状をしてもなお、悪びれない姿に愛嬌を覚えてしまった。


「どうっすか、アメショの兄貴」


「合格だよ。まったく、お前ってやつは恐れを知らニャいな」


すると、奥からゴッドファーザーのテーマを流しながらボス猫が再びやってきた。


「フォールド、お前の勇姿を見させてもらったニャ」


「それじゃあ、この一門に入っていいニャか!?」


「いいだろう。ただし、これはほんの入口にすぎニャい。

 他の組員猫たちの立ち振舞いを見て学んで、極道を尻尾の先まで覚えさせるんにゃ」


「はいニャ!!」


「ついてきニャ」


ボス猫の後をついていくと車においているキャットケージ。


「ボス、これは……!?」


「おでかけようの箱ニャ。お前を家族として認める。

 このケージに入っておでかけすることをゆるそう」


「ボス……!!」


「ただし、はしゃぐんじゃニャい。騒ぐのもダメ。

 じっくり、どっしり、ドスのきいたすまし顔でいるのが極道猫ニャ」


極道猫たちはケージに入っていくと、しずかにお出かけを待った。

主を下手に刺激して中止されないようにするための、一糸乱れぬ連携。


車が発進すると猫たちはやっと、抑えていた喜びを開放した。


「ニャーー! 今日はどこ行けるのかニャ!」

「こないだの猫アスレチックだと嬉しいニャ!」

「俺は猫食レストランに行けると思うニャ!!」


「お前ら、新顔もいるんだ。ちったぁ、手本になるような姿をしやがれニャ」


「そういうボスはどこだと思うんですかニャ?」


「俺ァ……ミーちゃんがいる猫カフェだよ」


「「 純情~~~!!! 」」


「冷やかすニャーー!!」


フォールドが新しく加わりますます賑やかになる極道猫たちの世界。

これからどんな幸せなことが待っているのでしょう。





しばらくして、動物病院の看板が見えたとき、全員の顔から光が消えた。

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