自分パイロットの地雷おじさんにご用心

ちびまるフォイ

必中ピッチャーが肩を温めています

今日も街と小学校のプール周辺を重点的にパトロールしていると、

見慣れない店があったので訪れてみた。


「いらっしゃい。見ない顔だね」


「最近変えたんで。ここはどんな店なんですか?」


「うちはパイロットを売っているんだ。

 あんたもひとつどうだい? パイロット乗せてみると良い」


「パイロット。ああ、そういえばみんな頭の上に乗せていますね」

「そうそう。今、ブームなんだよ」


この店に来るまでに行き交う人達はみな頭の上に小人を乗せていた。

あの頭の上に乗せていた小人がパイロットとして売られていたのは

店内の棚に飾られている人間たちを見て納得した。


「はじめてのパイロットなら、こっちの棚のがいいぜ。

 そっちは意識高い系の人だから、頭に乗せると疲れちまうからな。

 こっちの棚のは値段も手頃でクセがないぜ」


「なるほど……で、一番安いのは?」


「え、もしかして、お金ないの?」


「そんなことはないです。ただ、勤めていた工場が先日倒産しただけです」


「そ、そうなのか……退職金とかは?」

「ジャム1瓶もらいました」

「いらねぇ!!」


「というわけで、このビックウェーブに乗り遅れたくはないものの

 とてもお金が払える状況じゃないので、一番安いのをください」


「うちで一番安いって言ったら……これだよ?」

「じゃあそれで」


店主から受け取ったパイロット頭に乗せた。


「よう、ワシをパイロットにするたぁ、見どころあるじゃねぇか。

 これからワシがいろいろアドバイスしてお前をうまいこと操縦し、

 正しい人生へ導いてやるからそう思いな」


「ありがとうございます」

「まずは飲み屋行くぞ」


パイロットに選んだ腹巻きのおじさんは、頭の上で皮をぎゅうとつねった。

この時点で「失敗したかも」と嫌な予感はしていた。



それから数日もすると、パイロットおじさんはますます調子に乗って、

頭の上からやかましいほど指示を出していった。


「バッカ! ここは殴って黙らせりゃいいんだよ!」

「男がそんなことする必要はねぇ! やらせときゃいいんだよ!」

「パトロール? そんなことより、遊びに行くぞ!」


明らかに自分と異なる価値観で指示されるので、断るのも疲れる。

タチが悪いのは本人はズレていると自覚していないところだった。


「え? パイロットを降ろしたい?」


「なに勝手なこと言ってんだコラァ!! いてまうぞ!!」

「こんな調子なんで……もう頭の中身が出そうなんです」


「あぁ……」


様子を見た見た店員は気の毒そうな顔をした。


「実は、パイロットは無理に下ろすことはできないんだよ。

 基本的には、パイロットが同意してくれないと、

 パイロットをやめないと駄々をこねて、攻撃される危険もある」


「そんな……!」

「ワシは降りる気などないからな!!」


店主はパイロットに聞こえないよう耳打ちをした。


(でも、方法がないわけじゃないんだよ)


店主からパイロットカットイヤホンを受け取ると、耳っぽい位置に差し込んだ。

すると、これまで騒がしかったパイロットの声がすべてシャットアウト。


普通の会話や環境音は聞こえるのに、

頭の上から浴びせられるパイロットのヤジだけ聞こえなくなった。


「おお! これはすごい!」


「それで数日過ごしてみてみな」


鏡を見ないと自分の頭の上を見る機会なんてないので、

イヤホンをしているのが日常になると、どんどんパイロットの存在は薄まっていった。


気がつけば数日がたち、鏡に映る自分を見て驚いた。

頭の上に乗っているおじさんは衰弱しきっていた。


店主にテレパシーを送るとすぐに連絡が来た。


(効果てきめんだね。実はパイロットの力の源はコミュニケーションなんだ。

 片方が無視し続けている限り、栄養が行き渡らなくなるんだ)


「それでこんなに衰弱していたんだ……」


(ここまで弱ればパイロットも頭から降りるだろう。

 頭から降りればまた元通りになるんだから)


「試してみます」


イヤホンを外すと、久方ぶりにパイロットおじさんの声を聞いた。


「あ……あ……」


声というよりうめきだった。


「おじさん、パイロットから降りてくれない?

 あなたと僕とじゃ価値観がまるで違うんだ」


「ああ……そうか……お前も……」

「お前も?」


「実は、ワシはこれまでにも何度もパイロットから降ろされてる。

 今回は降ろされたくないと思ったが、やっぱりか。

 しょうがないよな、ワシのような人間、誰も必要としない……」


おじさんは諦めたように頭の上であぐらをかいた。


「ワシはな、昔、これでも人間だったんだ。

 嫁さんと子供に逃げられてから、孤独に生きるのもしゃくだから

 年齢を固定化してパイロットになることを選んだんだ」


「そうなんだ……」


「自分の家族の人生はけして幸せなものにできんかった。

 でも、せめて他の人の人生を豊かにしようと頑張ったんだがなぁ。

 誰も俺を必要としてくれなかった……」


思えば、これまでどんな小さなことも口うるさく指示してきた。

それは行き過ぎた親心から来ていたのかもしれない。


「お前もコミュニケーション取ってくれてありがとうな。

 ワシは幸せだったよ。そして、自分がパイロットに向いてないこともよくわかった」


「そんなことない!!」


思わず声を荒げてしまった。


「おじさんはパイロットに向いてる!

 ムカつくし、ウザいけど、全部俺のために言ってくれてただろ!」


「し、しかし……」


「言ってることはとんちんかんだし価値観ズレズレだけど!

 おじさんが指示してくれなきゃ、間違っているかどうかすらも考えないだろ!」


「お前さん……いいのかい? このまま、この頭の上にいて」


「もちろんだよ、おじさん……!

 ずっとこの頭から離れないでくれ」


「お前……!」

「おじさん……!!」


「「 もうずっと離れない!! 」」


けして目を合わせることのない二人の気持ちがひとつになった……!




そのとき、鋭い声が二人の間に割って入った。

飛んできたものがめり込んで、頭ごと吹っ飛ばした。



「アンパンマン!! 新しい顔よーーーーーっ!!!」

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