魔法訓練と釣り勝負

「お腹いっぱいー」


「いっぱいなのー」


「わふぅー」


 セリスとココがお腹をさすりながら、ソファに寝転がっている。その下でシロもゴロゴロしている。


 よしよし、食べて寝て、強く大きく育つんだぞ、お相撲さんのようにね!


「あらあら、皆、食べ過ぎですよ?」


 シャーリーさんは優雅に紅茶を嗜んでいるけど、あなたも同じくらい食べてましたよね? 全然お腹ポッコリしてませんけど、全部おっぱいに入ってるんですか?


「午後はどうする? 寝てるなら畑仕事してくるけど。牧場で遊ぶ? 私、川の方行ったことないから、そっちに行ってみても良いし」


「ちょっと休憩ー」


「お昼寝なのー」


「わっふー」


 えー、シロもついて来ないの? なんか淋しい。


「畑仕事、お手伝いしましょうか?」


「ううん、お客さんにそんなことさせられないよ。それに大した仕事量じゃないからいいよ。別に今は何も植えてないから、今日じゃなくてもいいんだ」


「あら、そうなんですか? 食事とお洋服のお礼に何かさせてもらいたいのですけど」


 そんな気を使ってもらうのは申し訳ない。ご飯も皆で美味しい物を食べたいって言う私の勝手な願望だし、洋服もうちのクマが破ったんだし。


「いいよ、そんなの! 洋服より装備の方が大事でしょ? ちゃんと街で買うからね」


 Aランクハンターの装備の値段が心配だけど。


「私は普通の服だけですから、このワンピースで十分です。ハンターだったので、パンツが多いから、こんな可愛い服は嬉しいです」


 やべぇ! 可愛い! うちのシャーリー、可愛くて良い子! シャーリーさんの微笑みにキュンキュンきた!


 おばちゃん、もっと可愛い服買ってあげたくなっちゃったよ。


 しかしこの服、本当に魅了とか付いてないのかな。


 はっ、恐ろしいことを考えてしまった!


 この素で可愛くて美人でスタイル良くて魅惑的なシャーリーさんに、あの、あの高級レース下着を装備してもらったら!?


 やべぇ! 傾国の美女だ。国が滅びるわ。いや、魔王もバラの花束もってプロポーズしに来るわ! 世界救っちゃうよ!


 いや、あれを着せたら私お嫁に貰われてしまうかもしれないからダメだ。あー、チャイナドレスとかメイド服とか着せてみたい!


 装備効果が無ければ! 外人モデルのコスプレ見たいー! コラボのアニメキャラの服もあるのにー! ウェディングドレスとかも綺麗だろうなぁ。


 でも装備効果がバレたら、もしかしたら勇者認定されてしまうかもしれない。だからこれはダメだ。


 でも、私が作ったらどうかな? 作ったこと無いけど、スキルに手芸があるもんね。お針子さんなコスチュームなんて無いけど、装備効果で相性の良いものあれば作れるかも。作業着でもいけるかな?


 よし、今度試しに生地と糸を買ってこよう。うん、そうしよう。私とお揃いのロココも作ってやるぞ!


「どうしたんですか?」


「あっ、ごめんごめん。シャーリーさんとセリスにもっと可愛い服をいっぱい着せたくなっちゃって。

 できるかどうか分からないけど、私が服を作ったら着てくれる?」


「まぁ! 私のために繕ってくれるんですか!? とても嬉しいです!」


 わああ! やめてー! 天使が、天使が微笑んでるよー! 私の汚れた下心が浄化されちゃうー!


 え、エロいのはダメよね! チャイナドレスとかエロいもん! でもメイド服とかロココドレスは良いよね?


 甘ロリ三姉妹とかゴスロリ三姉妹とかやってみたかとです! リアル胡桃は似合わんかったとです!


 今気付いたけど、コラボコスチュームって全般的にやばいよね。私的に色物だったから忘れてたけど、魔法少女物とかヒーロー物とかのバトル系コスチュームなんて、一体どれほどの装備効果が付いているのか。


 でもコラボコスチューム、クローゼットにあったかな? こっちに来てから見た覚えが無いから無くなってるかも。後で確認しないと。


 でもコラボコスチュームが装備効果チート付きで残ってたら、本当に私が勇者召喚されている可能性が出てくる。その時はコラボコスチュームを一つ提供することで許してもらえないかな。


 シャーリーさんに着てもらったら、日帰りで魔王討伐してきそうだし。


 コラボコスチュームは盗まれたときの危険度が半端ないから全部インベントリに入れておこう。消えちゃってもそんなに悔しくないし。魔法少女はとっても可愛いけど。思い出したら着てみたくなっちゃうけど!


 よし、あれは自作して普通にコスプレしよう。


「じゃあ、ますますお礼に何かしませんと。戦闘の手ほどきでもしましょうか?」


「えっ、うーん。必要かもしれないけど、危ないところには行かないようにするからいいよ。でも、そうだね、良かったら魔法を何か教えてくれる?」


「あっ、魔法ですか。私の雷魔法はユニークスキルですから教えられませんよ。魔法は自力で獲得もできますけど、魔法書で覚えるのが手っ取り早いです」


「そうなの? 生活魔法みたいなのはあるの?」


 洗浄とか掃除とかのヤツね。掃除機と洗濯機が売ってたからたぶん無いと思うけど。


「生活魔法ですか? そういう括りの魔法は知りませんけど、どのような魔法ですか?」


「着火とか洗浄とか、日常で使うようなヤツなんだけど、魔道具があったからそんな魔法ないよね」


「着火は火魔法でできますけど、洗浄は聞いたことありません。すいません」


「もう、謝らないでよー。聞いただけなんだから。私火魔法使える筈なんだけど、凄くショボいの。それは指導してくれる?」


 ポコボール以外も使ってみたい。水魔法とか風魔法の方が場所を選ばなくて良さそうだけど、使えないし。


「分かりました。では外に行きましょう」


 すっかり気持ち良さそうに昼寝しているセリス達を置いて、私達は外へ出た。シロはボディーガードしてくれるんじゃなかったのかな?


「火を使うなら、川の方へ行きましょう。森に延焼を起こしたら大変ですからね」


「正直そんな火力はないんだけど、火事になったら住むところも無くなっちゃうもんね」


 シャーリーさんと手を繋いで、てくてく散歩がてらに移動する。いや、シャーリーさんが繋ぎたがるんであって、私じゃないからね?


 あ、しまった、ロココのままだった。フリルが燃えないように気を付けなくっちゃ。


 川はとても澄んでいて綺麗。水量は日本人の感覚で言うとそこそこある。一応泳げるくらい。そんなに川幅はないけど。大きな岩がゴロゴロあって、山場じゃないけど割と上流の方なのかも。


「あっ、なんか可愛い花が咲いてるね」


「そうですね。小さくて愛らしいですね」


 何の花かな?


『山葵:葉、茎、根茎は摺り下ろすと辛味がでて、薬味に使われる』


「えっ、これワサビ?」


「ワサビですか?」


「あの、摺り下ろすと辛いやつ」


「ああ、ホースラディッシュですか。花は初めて見ました」


 翻訳さんがワサビと西洋ワサビを分けて訳してるところを見ると、西洋ワサビも別にあるんだろう。と言うことは、本ワサビだ。一本貰っていこう。砂地の辺りに結構生えてるし。 本ワサビって書いてない練りワサビって、西洋ワサビなんだって。


「ホースラディッシュじゃないみたいだよ。似たようなヤツだけど。良いもの手に入っちゃった! 一本あったら一年は持ちそう」


「そんなに量を使いませんからね」


 お魚も泳いでるし、釣りもできそう。あっと、そんなことしに来たんじゃなかった。


「来て早々に気を散らしてしまって、ごめんなさい。よろしくお願いします、シャーリー先生!」


「先生! 良い響きです。可愛い生徒に先生と呼ばれるって、ぞくぞくします!」


 いや、変な性癖に目覚めないでください。


「火魔法は初歩的な魔法ですので、大半のハンターが使えます。火付けは重要なスキルですからね 。

 逆に上級魔法に当たる火炎魔法は攻撃魔法に特化していますけど、使える状況が限られているので人気がありません。

 森でも使えませんし、洞窟や屋内でも酸欠になったり一酸化炭素中毒になるので使えませんからね」


「そうなんだ。てっきり一番人気だと思ってた」


 ゲームとかアニメとかやたら爆発とか炎とか出るもんね。でも確かに秋の森で火炎魔法なんて大惨事になるね。海外の山火事、下手したら1ヶ月とか続くもん。


「一番人気は風魔法ですね。威力はあまりありませんけど」


「水魔法は? 便利そうだし安全そう」


 飲み水とか作れたら便利よね。あんまり読まないけど、ラノベで見たことあるよ。


「水魔法は火炎魔法より人気がありませんよ。水を現出するのには魔力を大量に使いますし、魔力供給を止めれば消えてしまうので、飲み水にもなりませんし」


「便利悪いねー」


 空気から水を生み出すのは、除湿器の原理なので冷やすか圧力を掛けるか。そういう出し方なら風魔法とか氷魔法、あるなら重力魔法なのかな。


 ただねぇ、除湿器の水なんて飲む気しないよね。


 だって空気から絞り出すってことは、インフルエンザウイルスとかダイオキシンとかPM2.5とかも濃縮されてるんでしょ? 異世界にダイオキシンとかPM2.5は無いかもしれないけど、どうしたって病原体や有毒物質は濃縮されちゃうし。


 魔法で空気から絞り出した水なんて、せめて煮沸しないと飲めないよね。フィルターも無いし。そもそも湿度が高くないと水取り出せないし。


 そう言えばホームの水道水は魔法よね。それとも井戸水だったりするのかな? 水道から出てくると安全だと思い込んでた。安全性を確認しなければ!


「では、まずクルミさんの火魔法を見せてください」


「はーい」


 掌を上に向けて火の玉を作り出す。ファイヤーボールがゆらゆらと揺らめく。これ自分は熱くないんだよね。不思議。よく見ると掌の上に浮いていて、肌には触れていない。触れてないにしても、近いから熱そうなのに。


「えっ」


「えっ?」


 な、何かおかしいのかな? あ、熱くないからかな? 温度調節って出来るのかな?


「お、おかしいかな、やっぱり。今気付いたけど、全然熱くないもんね」


「えっ、いや、あのそうではなくて、火魔法は可燃性の物に火を付ける魔法なので、そんな空中に火を維持するなんて、普通できませんよ。もの凄く魔力を使うでしょう?」


「そ、そうなの? 私、そもそも魔力を自覚したことが無いから分かんない」


「えええっ、魔力も自覚せずにそんな高度な魔法を使っているんですか! 凄いです、天才です!」


 シャーリーさんはとても興奮しているけど、多分仕様が違うんじゃないかなぁ。とても魔法の天才だとは思えない。だってポコボールだもん。


「いやー、違うと思うよ? だって、これあんまり熱くないし、全然威力無いもん。えい!」


 ポコッ


 ポコボールがヒョロヒョロ飛んで岩に当たる。全然焦げてもないんだけど。ビッグボアはちょっと焦げたのに。コスチュームの差かな? 岩だからかな?


「凄い! 火が飛んで行きましたよ!」


「えっ、そりゃあ、いくらポコボールでも投げれば飛ぶよ?」


「普通はそんな使い方しませんよ。というかできません。普通はこんな感じです」


 シャーリーさんは、川原に落ちていた流木に向かって手を翳した。


「ファイヤー」


 流木に小さな火がついて、チロチロした後消えてしまった。


「こんな感じで直接火を付けます。何も燃える物がないのに空中に火が点(とも)った挙げ句に、それが手で投げられるなんて、ユニークスキルなんじゃないですか?」


 わ、私のユニークスキル、ショボくない? シャーリーさんのユニークスキル凄かったよ?


「ま、まぁ、ユニークかどうかは置いておいて、とりあえずやってみるね!」


 離れたところに点火する感じね。よし、ガスコンロのイメージで!


 ボッ!


 青白い炎が流木を包み、一気に燃え上がらせていく。


「えっ」


「えっ」


 えー? 違くない? もっとさ、ガスコンロの火って小さいじゃんか。確かに青い炎をイメージしちゃったよ? だってガスコンロだもん。


 知ってるよ? 赤い炎より青い炎の方が温度が高いって。でもさ、その流木って手に持てるサイズだけど、ガスコンロにくべてもそんな勢いで燃えないよね?


「す、凄いですね。火炎魔法になってますね。これでは、もうちょっと加減を覚えないと使えません」


 そうですね。小さいとは言え、丸焼けですもんね。こんなの森の中で使えませんね。やっぱり、魔法は向いてないのかなぁ。


「もうちょっと小さな火を付ける感じでやってみましょう」


 もっと小さな火、ライターくらいかな? ポッと人差し指の先にライターくらいの火が現れる。着火用に良いね、これ。


 違う流木にライターの火をともすつもりでやってみる。小さな火がついてチロチロ燃えている。いい感じ。


「そうそう! 飲み込みが早いですね!」


 シャーリーさんは褒めて伸ばすタイプですね。私はもちろん褒められて調子に乗るタイプです。


「やった! 分かってきたよ!」


 事前にちゃんとイメージしないとダメだね。次はバーナーだ。何に使うのかって? もちろん料理ですけど? 炙りとかたたきとか、キャラメリーゼとか色々使うでしょ?


 まず手元でやってみるのがコツと見た。手元はコントロールしやすいもん。


 ゴォー!


 人差し指から青白から透明の炎が吹き上がる。凄い、これ、凄い恐い。指燃えそう。


「わわわ、そ、それ何ですか! 熱くないんですか!?」


「それが不思議と私は熱くないのよね」


 バーナーをイメージしているからか、指を向けた方に炎が伸びる。明るいからあんまり見えないんだけどね。


 流木はすぐ火がついた。当たり前だけど。砂に当ててみると、砂が段々溶けていく。火を消すとガラス状になっていた。鉄板とか焼き切れたりして。なんかお料理用にしては温度が高い気がする。工業用バーナーみたい。


 これ、離れたところにコントロール出来るようになったら、製鉄とかガラス作りもできそう。火事とか酸欠とか恐いからやらないけど。


「す、砂って溶けるんですね…」


 しまった。シャーリーさんが引いてしまった。


「お、お砂糖! お砂糖を溶かしてキャラメリーゼするつもりでやったら溶けちゃった!」


 お料理補助魔法として、ライターとバーナーで十分かな。ガスコンロは危なそうだから止めておこう。


「透明な炎なんて初めて見ました」


「そう? 普通の火も表面は透明になってるんだよ」


「そうなんですか」


「うん、空気をたくさん送ると完全燃焼して透明度が増すの。でもこれ本当に何が燃えてるのかな?」


 ガスじゃないもんね。魔力なのかな?


「魔力が燃えているというか、魔力が火を再現していると言われています。水魔法も水を再現しているだけなので、魔力が切れると消えます。火は燃え移れば残りますけどね」


「じゃあ、バーナーやると魔力が凄い勢いで減ってるのかな? 何にも感じないけど」


「ユニークスキルは普通の魔法と原理が違いますからね。クルミさんの場合は何か別のエネルギーを使うのかもしれません」


「じゃあ、使いすぎたらどうなるかも分からないから、程々にしておかないと危ないね」


「そうかもしれませんね」


 寿命とか使ってたら嫌だなぁ。後でココに聞いてみよう。マナだといいけど。マナって減るのかな?


 せっかく火が起こせるようになったので、意味もなく焚き火をしてみる。焚き火って、なんか落ち着く。暖かくて気持ちいいし、木の爆ぜる音を聞きながら炎の揺らめきを眺めるのって、とても良いよね。


 ついでに焼き芋をしてしまうのは、乙女のサガなの。食いしん坊じゃないの。


 サツマイモは前から持ってたのがあるんだけど、アルミホイルはないんだ。だから石と砂に芋を埋めて、その上で焚き火をする。蒸し料理は葉っぱで包んで埋めておけばできるんだけど、石焼き芋になるほどの温度になるかなぁ? ちょっとだけ石をバーナーで炙っておこう。


 サツマイモのデンプンを糖化させるにはあまり高温じゃなくて、とにかく長時間掛けないといけない。石は冷めにくいから、火が消えても二時間くらい放っておけばできるんじゃないかな。


 サツマイモは高温で調理するとホクホク、低温で長時間調理するとネットリになる。出来上がりはどっちかなー? 私はネットリタイプが好き。イチ押しサツマイモは甘太くん!


 あ、そうだ。ついでに魚も釣って塩焼きにしよう。


「とりあえず魔法はこれくらいにして、釣りでもしない? また風魔法か水魔法の魔導書買ってから練習するから」


「釣りですか。川に雷を撃ち込めば一杯浮いてきますよ?」


 そんな乱暴な! どっかの発破師みたいなこと言ってますね。


「いいよ、そんなの。環境破壊反対! のんびり釣りしようよ。本当はちょっとレベリングもしたいんだけど、この森魔物あんまり居ないもんね」


「まあ、ここの川も霊水が流れてますからね。あまり魔物は近寄りませんよ」


「ああ、街の城壁に流してあるっていう霊水ね」


「あちらの頂に雪が積もっているのが霊峰ツヴァルハウト。あの反対側の山、その山から麓の森にかけては魔物が結構いますよ。この辺りの狩り場の一つです」


「そうなんだ。スライムとかいるかな?」


 ゴブリンとかオークみたいな人型はちょっと恐い。武器持ってる人間でも恐いのに、人間より腕力あったり残虐だったりするんでしょ?


「居ますよ。あまり害もなければディールもろくに落とさないので、基本放置ですから。ビッグボア辺りが狙い目ですが、マッドグリズリーやアーミーウルフなどが居るためそこそこ危険です」


 やめときます。安全第一です。この森でホーンラビットとか鳥の魔物とか小動物系で十分です。


 釣りセットを渡すとシャーリーさんは石の下から虫やミミズを捕まえて餌にしている。


 虫って昔は触れたのに、今はあんまり触りたくない。ミミズくらいなら良いんだけど。


 私はその辺の草に付いていた実を針に付けよう。あっ、これクランベリーだ。酸っぱいから無理かなぁ。


 せっかくなのでクランベリーを収穫。あ、アケビ持ってた。アケビを千切って針に付ける。これすぐ取れそう。まあ、いいや、ダメならクランベリーかミミズにしよう。


 川辺に戻ると、シャーリーさんは既に三匹も釣っていた。早過ぎなんですけど! 釣り師がいますよ!


「ここはあまり人が来ませんから、入れ食いですよ」


 なるほど、初心者向きだね。とうっ!


 にゃー! ス、スカートをめくるのは誰!?


 私か!


 フリフリスカートは釣りに向いていなかった。針が引っ掛かってパンチラしてしまった。恥ずかしい。


「あらあら、そんな素敵なドレスでは釣りは無理じゃないですか?」


 シャーリーさんが笑いながら針を外してくれた。シャーリーさんが三匹も釣っているから、もう要らないと言えば要らないんだけど、私も釣ってみたいの!


「こ、今度こそ! てやっ!」


 何とかヒョロヒョロ飛んで、そんなに遠くもない所に着水する。


 ホッとしたのも束の間、すぐに竿が引かれはじめた。


「あわわわ! は、早いよ! もっと落ち着こうよ!」


「入れ食いだって言ったじゃないですか」


 そうだけど! お、落ち着け、私! ゆっくりリールを巻くのだ! よく知らないけど、竿を立てて引っ張って、戻すときに巻くんでしょ!? なんかのテレビで観たもん!


「たあっ! とう!」


 幸い適当な引き上げ方でも、ちゃんと釣り上げられた。イワナみたいな魚。


「やったー! ちゃんと釣れたよー!」


「お上手です、クルミさん!」


 シャーリーさんがパチパチ拍手してくれる。嬉しくて笑顔で振り返ると、シャーリーさんの足元にさらに五匹の魚がピチピチ跳ねていた。だから、早いから!


「シャーリーお姉ちゃん、穫りすぎ! 早過ぎ! もっと私を甘やかして!」


 妹クルミちゃん、プンプンです。もっと初心者を労ろうよ。ハンターだからって、マジ釣りいくない!


「はぅ! 膨れたクルミさん、超可愛いです!」


「お姉ちゃんは、ちょっと休憩してて!」


 シャーリー、ハウス! ステイ!


 シャーリーさんはパタパタする尻尾が幻視されるほど、嬉しそうな笑顔で私の横に腰掛けた。


 今のうちだ! てやっ! ヒット!


 ほんと入れ食い過ぎだよね。今度は手早く上げちゃうよ。


「とうっ! にゃー!」


 びったーん!


 勢い良く竿を上げたのは良いんだけど、そのせいで魚が跳ね上げられて飛んできた。それが綺麗に顔面にヒットしてしまった。


「うわーん! もう、クルミ、お家帰るー! 帰ってお風呂入るー!」


 衝撃的過ぎて幼児退行してしまった。それは別にしても生臭いから帰ってお風呂入りたい。


「あらあら、クルミさん、可哀想に。綺麗にしてあげますからねー」


 シャーリーさんが顔を拭いてくれる。ちょっと落ち着いてきたけど、もう帰りたい。


「ううう、帰ろ?」


「はいはい、じゃあ火を消しますね」


「あ、待って!」


 シャーリーさんが水を掛けるのを止めて、砂をかけて火を消す。お芋さんが埋まってるから水は掛けたくない。


 石が熱くなってるので、このまま置いておけば焼き芋になると思う。後で取りに来よう。


 魚をインベントリに入れて家に帰った。帰り道、シャーリーさんはご機嫌で、半泣きの私の手を握っていた。

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異世界物ってMMORPGじゃないんですか?私だけ箱庭ゲームなんですけど @Lady_Scarlet

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