第15話 終結

後日、俺は魔法学校の前にまた来ていた。

あの二人と話し合うためだ。

プリシアの姿を見かけたが相変わらず落ち込んでいるようだ。

恐らく問題はいまだ解決していないのだろう。

やはり自分で解決しなければならないのだ。


ルルエルとエルナと言ったか、二人の少女が門から出てくる。

少し二人が歩き、学校から離れたところで、魔法を解除し、二人に話しかける。

「久しぶりだな」

「な、なんですか」

エルナが驚いたようにこちらを見る。

「何か用ですか?」

ルルエルがエルナを後ろに回し前に出てくる。

「二人に話したいことがあってね」

「こちらは特に話すことはありませんが」

ルルエルが厳しい顔でこちらをにらみつける。


「今回の件は俺が悪かった。許してくれ」

「は?」「え?」

ルルエルとエルナが驚いた顔で見る。

「申し訳ないが、二人のことを調べさせてもらった。二人はウィクス神教の信者だね」

「そ、そんな……ち、違います! 私たちはウィクス神教の信者ではありません!」

二人が慌てふためき始める。

「国に通報しようだとか、そういう事をしたい訳じゃないんだ。聞いてほしい」

「…………」

「俺は一部の人間から神だと思われている。でも違うんだ。そうじゃないんだ。俺はただの人間だ」

「そんな……」

戸惑いを見せる二人。

「俺は確かに強大な力を持っている。それは事実だ。でも俺の心は常に悩み続けている。何ら普通の人間と変わらないんだ。いつどんな時も自分の力を怖がっていて臆病で……決して神なんて呼べるような崇高な存在なんかじゃない」

「そんなこと……私たちの神は……」

「君たちの信じる神はいない」

「……っ!」

二人の表情が険しくなる。

「そんなことはない! 私たちの信じるウィクス様は強くて、何物にも負けず、全てのものに分け隔てない神様で、完璧な存在なんです!」

「そんな神様は存在しないんだ。ここにいるのはただ一人の人間なんだ」

「嘘……だ……」

あからさまに落ち込みを見せる二人。

「聞いてほしい。だから俺のことを神だなんて崇めないでくれ。俺に対しては一人のただの人間として接してほしい」

俺は二人を説得しようとする。

「そして、お願いがある。プリシアにあの子に謝ってほしい。これは俺のせいだ。俺のせいで君たちの心は乱れてしまって、そして過ちを犯した。そのことをどうか謝ってほしい。これは一人の人間としてのお願いだ」

二人は少し静かに黙ると。

「わかりました……ウィクス様……いいえ、ノガミ……さん……」

「それでいいんだ」

「謝ります……あの子にも、ノガミさんにも……申し訳ありませんでした。少し、少しだけ時間をもらって、心の整理がついたら必ず謝りに行きます」

「あぁ」

「……失礼します」

二人は過ぎ去っていく。


これで正しかったのだろうか。考えてしまう。でも、これが俺にとれる最善の策だとそう考えることにした。


後日


俺は今、ライドさんの雑貨屋にいる。

いつも通りの店番をしているのだ。

そんな時、店の扉が開く。

「失礼します」

「プリシア……!」

久しぶりのプリシアの来訪だった。

「話したいことがあって、後で時間もらえますか」

「いや、ちょっと待って」

俺は店の裏にいるライドさんのもとに行く。

「すみません。今プリシアが来ていて……」

「いいよ、行ってきな。店番は俺に任せろ」

「はい」


プリシアと外に出る。

「あの二人が私に謝りに来て……」

プリシアが口を開く。

「二人からいろいろ聞きました。今回の件に関して、どうしてこうなったのかも」

「そうか、謝りに来たのか」

「ありがとうございました、ノガミさん」

「いや、これは俺が招いた事件だったから……」

「それでもお礼を言っておきます。本当にありがとうございました」

「こちらも申し訳なかった」

二人とも頭を下げる。

「それでは仕事中にあまり時間を取らせるのも悪いのでここで失礼しますね。ノガミさんこれからもよろしくお願いしますね」

プリシアがほほ笑む。その表情を見て俺は安堵をする。

「あっ! そうだ。何かお店で買っていったほうがいいですか?」

「いや、そんなことはいいよ。これからもよろしくな」

「はい!」

プリシアが去っていく。


俺は今帰路についていた。

店が終わり、支度も済んだので帰っている。

今日はあえて歩いて帰宅しようと思っている。もう星も少し見え始めている。

(俺は一人なんかじゃなかったのかもしれない)

最近のことで、やっとわかった。俺も皆も支えあっているのだと。

俺は孤独なんかじゃなかった。


家のポストの前までたどり着く。

(あれ、入っている……そうか、良かった)

ポストの中には懐かしさすら感じる差し入れがあった。

一度入らなくなってからずっと入っていなかったのだが。

俺は差し入れしている人間が無事だったことに安堵した。

(皆ありがとう)


俺の心は弱い。でも幸せだ。


-完-

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

チート能力をもってしても孤独は回避できなかった るぽるぽるっぽ @cadada07

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ