パンドラの箱を閉じろ!

yuukis

パンドラの匣を閉じろ!

 とある惑星の話。その世界では災厄が多く訪れていた。多くの戦争によって、難民が生まれ、食料はなくなり、その限りのない上級貴族の欲求によって民は飢え、そして出生率はマイナスになっていった。

 そんな世界に一人の冒険者がいた。名前はない。種族はエルフで、その賢者としても崇められていた。冒険者は世界中の災いの元のパンドラの匣の研究をして旅を続けていた。

 その旅の中、とある田舎の街で冒険者はその街の賢者の元に話を聞きに来た。

「よくきたな、旅人よ。どこまで旅をした。」

「北はブリュッセル。南はエトアニア。西にベルリン。東にジパングです。」

「世界中を旅してきたということか。そのような賢者が私に何を聞きたいというのか?私はこの街から出ていかなかった寂れた賢者じゃ。いや。賢者というのもちと呼ばれるのが嫌なくらいじゃ。本と知識だけが取り柄のわしは賢者と呼ばれるにふさわしくない。」

「いやいや。あなたは賢者でございます。確かに、街からは出ていかれなかったでしょうが、世界は戦争と飢えに満ちています。それを知らない貴族たちは戦争でお金を設けています。それを見ていると、あなたが賢者でなければ誰が賢者と呼べるでしょうか。私はその世界を助けるためにこの世界を回っていました。」

「救う?いやいや。そのようなことは無理でありましょう。世界はひどく複雑にできています。飢えと戦争の原因は確かに貴族の責任でしょうが、それを引き起こす引き金が何かわからない以上この問題をなくすことはないでしょうぞ。」

「ええ。私はその引き金を探しにこの街に来たのです。」

 街の賢者は眉をひそめた。

「もう一度問う。なにしにここにきた。」

「わかっていましょうに。この街で崇められている神。この世界を作った神が産み落とした堕慧児。パンドラの匣。私は神に替わり、それを祓いに来たのでございます。」

「は〜。調べはついているということかい。」

「そうでございます。この寂れた大地にこのような発展をした街があり、どの国もそれを触ろうとしない。それは災厄をもたらす匣があるから。私が研究をしていた物だと聞いた瞬間ピンときました。」

「パンドラの匣。確かに、あの匣にはさまざまな災厄が備わっている。だが、あれは自然そのもの。それを祓うというのは自然そのものを否定すること。それがどれだけリスクのあることなのか。」

「自然の摂理についても研究をしております。私はそこにも抜かりはありません。研究者の間では、それを数学と融合させて活かそうとしています。ですが、その研究をするにもこの戦争をいち早く終わらせ、人々に科学の叡智を授けようと考えています。悪いように使うつもりはありません。」

「そのような賢者はいくらでもいた。じゃが、君は話を聞いてわかる人間ではないらしいな。」

 そして、街の賢者は立ち上がり街の者を連れて、パンドラの匣がある場所に案内した。

 パンドラの匣は空いていた。文字通りだ。そこから禍々しい者が出ているのを感じてた。

「これはすごいな。」

 街の賢者は冒険者に語った。

「この匣を閉じるには、その災厄をすべて受ける者が必要という。世界の災厄を受け止められる魂が必要と言われている。」

「そのような話は収集済みです。」

 冒険者は祝詞を上げた。冒険者は世界各地の神の祝詞を分析し、その神の集合体に災厄を受けようとした。その御神体を別の匣に移そうとした。

 祝詞が終わると、出ている禍々しい物は冒険者が用意した匣に乗り移っていった。冒険者はその物が匣に移ったのを確かめると、匣を閉じようとした。

 その瞬間、冒険者は匣の中を見てしまった。

 その中には死んだであろう人間がいた。みな、苦しんでいた。

 冒険者は閉じようとするが、腕に力が入らなかった。穴という穴から汗が出て、冒険者はその人たちを助けようと手を伸ばした。

 その瞬間、街の賢者は冒険者から匣を奪い、元あった祭壇に匣を戻した。

 冒険者は、はっとした。

「賢者よ!これはいったい!」

「あの匣は人そのものじゃ。人の心そのもの。無限の人の欲望に掃き溜めじゃ。そして、その欲は君のような善人を取り込み更に力をつける。何人もの賢者が封印をしようとしたができなかった。」

「人。」

「君は人を救おうとした。今はそれで十分じゃ。この災厄の匣は閉じることはない。じゃが、わしの研究ではそれを制御することはできる。それが真に与えなければいけない叡智というものじゃないのか?」

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