再会の救世主(メシア)~精霊と英雄による世界樹の奇跡~

二人乗り観覧車

第1話


それは自分が長くないことを悟っていた。


それは自分の死に場所を求めていた。


それは自分の力では八方塞がりだと言うことをわかっていた。


それは自分と分かり合える存在を欲していた。


それは誰も見ることがかなわなかった。


それは誰よりも長く生きてきた。


それはずっとひとりぼっちだった。


それは《精霊》と呼ばれるものだった……



────────────────



《精霊》はもう何をすることもなくなっていた。


何をしても誰も自分に気づいてくれるものは現れない、この生きてきた10000年が何よりもその事を証明していた。


仮に今、誰かがここに現れてたとしてもそれの悲しみの時間を更に引き伸ばすだけになることは明らかであるので望むこともなかった。


それはもうそこにいるだけ、空中に浮いているが全く動くことはなくそこに存在し続けた。


それのいるのは神秘の森というところ。そこはある帝国──アンデル帝国と呼ばれる超大国───など多くの国に面しているが、どの国の領地になることも″なかった″場所である。


そこには言い伝えがあった。


そこに精霊は住んでいる。

そこは彼のものに守られた秘境であると。

そこに入った皆は声を揃えて言った、


「精霊様がお守りくださった!」


それは様々だ。


あるものは病気の娘のために貴重な薬草を手に入れようとしてそこへと入った。

またあるものは何も知らずにそこに入っていった

さらに力試しをするもの、自ら死を選ぼうとするものなどもいたらしい。


その皆は誰ひとりとして例外なく魔物に襲われた。


ある程度の力のあるものは森の奥へと進めるのだが、そこには挑戦者を超える立ちはだかるものが居座っていた。


その瞬間皆は死を幻視した。


だがそんなことが起きた時に皆は不思議な光が起こり、それを見るや否や魔物達はその場から姿は消したという。


そして、死の淵に立った経験から、それまでの人生を超えるほど大事に、命の大切さというものを噛み締めながら生きるようになったと言われている。


そしてその現象こそが《精霊》様の奇跡であると


だがそれから時は過ぎ、今や森に入るものはおらずその言い伝えも架空のものであるとされた。


そのためにこの不可侵であるはずであった土地に開発目的でアンデル帝国は侵入進行してきたのである。


彼らの言い分は


「精霊など存在するはずがない。そんなまやかしに騙されていてあの森が森であり続けるのは勿体ない。ということであの森を開発しようと思う」


こういう理由わけだ。


ほぼすべての国民はこれに賛成した。


そうして開発は始まった。


今ではもう森の6割近くが更地に作り替えられてしまっている。


《精霊》はその度に力が弱まっていった。


そして悲しんだ。


自分の存在はこの森の消滅と同時に消え去り、この地に与えていた恩恵も全てリセットされてしまうためにこの地が退廃する未来は避けられないものとなってきているから。


それに友達はいなかった。


けれどもそれにとってはもうこの森自体が友達のようなものだった。そして、今それの友達は重傷を負わされている。


この先正常に動くようになることは無いであろうほどのダメージを受けてしまった。


それと共に《精霊》自身にも反動が来た。


その時にそれはふと思った。


「あぁ、この森は友達などではなかった。この森も私の一部なのだ。逆に自分を縛って離してくれない檻のようなものだ」と。


そうして《精霊》は生というものに執着しなくなった。


そして死を待つだけの《精霊》となった。




そうして無気力に過ごしている中、望みとは裏腹に一人の人間が現れた。


愛嬌のあるクリクリとした目、少し高めの鼻、小ぶりの唇、それらが合わさり合うことで相乗効果を起こしてとても美しい、芸術品の中から飛び出してきたかのような人間だった。


彼の明るめの茶髪もまた彼を引き立てていた。


腰にはそこからヒシヒシとこの場を支配するほどの魔力を感じ取ることのできる魔剣が携えられていた。

かなりの実力者なのだろう。


だが《精霊》は自分に関係ないと言った様子でそこで何ら変わりなく浮かんでいた。


彼もまたどうせ自分を見つけてくれるはずはないのだから。


「やあ、可愛いそこの少女ちゃん!ってぇぇぇぇぇーーー君は宙に浮いてるのかい?凄いね!」


えっ。。。。。


「もしよかったら僕に名前を教えてくれないかな?」


えっ、、、、、、


「あっごめんね。僕の名前はアイル・ローランドって言うんだ!この国で冒険者をやっているよ」


えっ?


「……わ、私がみ、見えるの???」


「えっ?普通って見えなかったりするの?

だってそんな女神様のような輝くプラチナの長い髪、その人間離れした美しすぎるほどの容姿、それに加えて君のオーラそのものが桁違いで僕には気づくなっていう方が無理なたのみだよ。」


とにかく困惑する。


どうして彼に自分が見えるのかはわからない。


だが、やっと会えた。


自分の求めていた『人間』にやっと会えた。


「私にはまだ名前はない…………。」


《精霊》には名前など必要なかった。

誰とも語り合ったり、存在を認め合う必要はなかったから。なのに……


「じゃあ僕が君の名前をつけてあげるよ。うーんそうだなー、、よし決めた!君の名前は『ティナ』だ!」


「私の名前……ティナ、ティナ、、、ティナ!」


《精霊》もといティナは初めての名前と言うものをもらいとにかく嬉しかった。

自分を見つける人にも出会い、名前までもらった。もしこれだけで死んでも悔いはないかもしれないと思うほどだった。


この瞬間だけでもこれまでの10000年が報われた気さえ彼女はしていた。


「君のそれって風魔法かい?凄いね、全く魔力を感じないよ!」


「うぅんこれは魔法じゃないよ。私は常にこうしてるよ。」


戸惑った様子をするアイル。


「ねぇ、ひとつ聞いていいかい?」


「ん……どうぞ。」


「もしかしてティナって精霊様なのかい?あの伝説の。」


「伝説?分からないけど多分そうだと思う……」


一旦落ち着こうとするアイル。

なのだが、、、


「えっ今まで誰もあったことがないっていうあのだよね?もしかして君に会った人間って僕が初めてなのかい?」


「うーん。私が一方的に見た人なら数えられないくらいいるよ。でも私のことを見えたのはアイルだけ。」


そこからは2人で落ち着くまで事実のすり合わせをした。


もちろんティナは人間の世界でどんな存在として映されているのかなんて知るはずもない。


また、アイルも精霊のことを知っているはずがなかったから。


そうして、二人で話をした。


そのこと以外もたくさん。


自分たちの生い立ちからちょっとしたつまらないこと、今まであった楽しかったことやこの森についても。


アイルは真面目だった。そしてそれよりも純粋という言葉が似合った。


子供のような心は今になっても忘れずに持ち合わせており、それに加えて自分の正しいと思ったことをやりきることの出来る青年であった。


そしてなんとこの国で一番強い冒険者であるという。

逆に言えば彼はその強さゆえアンデル帝国で飼い慣らされる運命に甘んじているらしい。


そうして自分という存在がわからなくなってこの森の最深部に来たそうだ。


過去の人々に習ってこの森に入ったまではいいらしいが、彼はここまでの魔物をすべて倒せてしまったがためにティナと会うことになった。


帝国の命令によりこの森開発にあたって魔物退治を担っているのもアイルであるので最深部にいたティナまでたどり着けたのは当然と言ってもいいかもしれない


「僕はこの森に精霊様がいるとずっと信じていたんだ。小さい頃からずっと信じていた。そんな中で僕は国の出した命令に逆らえなかった。精霊様の宿るこの森を守るどころか破壊する側に回ってしまったんだ。そして、僕は毎日考えるようになった。こんな事がほんとにこの国のため、いや自分のためなんだろうかと。何もわからなくなったんだ。そして気づいたら君の前にいたという訳さ。まあ他にも要因は多々あるんだけどね。」


陰りのある笑顔でティナにほほ笑みかける。


ティナからしてもこの森については自分自身とほぼ同等である大事な場所であるゆえにアイルに何も言ってあげることは出来なかった。


「でもね、僕はわかったんだ。」


アイルは表情を今までとは180度変えてティナの方を見つめる。


「こうして僕は精霊様に会った。それが全てなんだ。人間は間違いを犯した。ならそれを正すまでだ。」


その顔はもう決意を決めた顔だった。


そしてどこか晴れやかな顔をしていた。




そして次の日からアイルはほぼ毎日ティナいるところにやってくるようになった。


今まで友達という存在ができたことのないティナには不思議な感覚だった。


ある日は一緒に魔法を撃ち合ってどっちがたくさんの獲物を得られるか競走した。(ティナは食べられないためアイルに全部あげた)その次の日は一緒に釣りをした。

その次の次の日は一緒にピクニックに行った。

雨の日は一緒に洞窟で雨宿りしながら話をした。

ある日は一緒にドラゴンに会いに行った。


それはとても楽しい日々だった。


ティナだけではなく、アイルもそれはそれは楽しんでいた。


ティナは物理的に一人ぼっちだった。


それに対し、アイルは物理的には一人ぼっちではない。けれど、精神的には一人ぼっちだったのだ。


皇帝から命令されれば逆らうことは出来ない。

自分の生活も、逃げ出されるとまずいという理由から24時間監視がつくような体制なのだ。命を賭けるくらいしないとどうにもならないのであった。




心の休まる場所はなかった。


そんなアイルにとってティナと一緒の時間は彼にとってもまたオアシスのような存在だったのだ。


だから皇帝にどれだけ注意されようが、監視をどれだけ増やされたところで彼らを撒いてここに来るという意志が変わることは無かった。


たとえここで命を狙われようとも。


「ねえアイル。私が消えても忘れないでいてくれる?」


いつも決まって別れ際にティナはアイルに聞いてくる。


「忘れるわけがないだろ。」


こう返すのもお決まりだった。




運命の動く前日こんな会話を二人はした。


「僕さ、この森の開発を考え直してもらおうと皇帝に直訴してくるよ。」


「やめて、私のために命を粗末にするのはよくないよ。」


「いや、今の僕はティナがいなくなったらほんとにどっかで死体になって転がっててもおかしくないと思うほどにどうしょうもないんだ。」


そう言ってまた彼は陰りのある笑顔を浮かべる。


そして意を決した様子でこう述べてくる。


「ティナに帝国の人々の前に現れてほしい。」


それはティナの望むことだった。ずっとずっと望んできたことだった。


でもできなかった事だ。


今更出来るはずはない。そう思い込んでいた。


「私を見える人なんて……いるわけないよ。」


「僕には君が見えた。このアレン・ローランドには君が見えたんだ。今なら誰かに存在を認めてもらえる可能性もあるとは思わないか?」


そういわれるとそんなきがしてくる。


ティナの心は揺らいだ。


「どうして私が見えるようになったのかな……?」


そして2人で仮説を立ててみた。


1.ティナは自分の好きなった人には見える。


ノーコメントで却下。


2.精霊の伝説を成人するまでずっと信じていたものには見ることが出来る。


これもありそう言えばありそうだけど、こんな人たちが何人も来た気がするので信憑性は薄い。


3.ティナの消滅の時間が近づくにつれ、《精霊》という格が薄れつつあり、段々と人間に近づいてきている。


この仮説については確かにこれは無くはなさそうだという結論に至った。


それともう他に仮説が浮かんでこなかった。



やらないで後悔するくらいなら悪あがきだろうが何だろうが二人でやれるだけやってみようということになった。


アレンとティナは覚悟を決めたのだった。





こうしていつもより早くアイルは帝国へと舞台を整えるために戻っていった。


そこでアイルは帝国の要人の前でこれまで自分のしていたことについて全てを明らかにした。


《精霊》という存在が実在することを。


これ以上精霊のいる森は自分には開発することは出来ないと。

もしそれが嘘だと思うのなら明日一目だけでいいから精霊に会いに来てほしいことをお願いした。


彼らは皆渋い顔をした。

正直みなは精霊などという存在はどうでもよかったのだ。

自分たちの使える新たな国土が欲しいだけなのだから。


だが、アイルがいなくなることは困った。

アイルの腕はこの国の中でも飛び抜けている。


世間では『三光』と呼ばれる存在でこの国の頂点に立つ3人の冒険者が褒め讃えられている。もちろんその3人の中でもアイルの実力は突出している。


実のところをいえばアイルの力は三光の他の2人を寄せ付けない。

それどころか他のふたりが同時にかかってきても負けることはまずないと言えるくらいなのだ。


そんな政治的というか武力的な打算も働いてくれたおかげで明日、皇帝陛下自身が行くわけにも行かないので近衛騎士5名、国の重鎮の中から5名が精霊に会いに行くという約束を取り付けることにアイルは成功した。


アイルはもう先のことを見ていた。


もしかすると自分はここへと戻ってこられるかもわからない状況に陥ってしまうかもしれない。

そんな時にも生きていけるような必要最低限のものだけでもティナの元へ持っていっておこうと明日へと向けて荷造りを開始した。


彼にとってはもう帝国などというものよりもティナの方が大切なものになっていた。


決断にはもう迷いはなかった。



翌日、アイルたちは森を進みティナのいるところへとやってきた。


「やあティナおはよう」


「アイル!おはよう。約束通り帝国の人を連れてきてくれたんだね。」


そうして2人でコミュニケーションをとり始めたものの……


「おいアイル、お前そんな何も無いところに話しかけて何をしてるんだ?」


「何もいないじゃないか。」


「我々を騙しおったのか?この若造が!」


「我々にこんな苦労を与えたことあとから後悔してもらうぞ。」


後ろにいる今日ティナに会うために来てもらった総勢10名は全く見当違いな方向を向いていた。


そして、こんなにも強いオーラを放っているはずの精霊などそこには存在しないような態度を皆取り続けていた。


そう、彼らには《精霊》を見ることは出来なかった。ティナが今まで出会ってきた人間と全く同じ行動をとっていた。


「まさかこの国最強の冒険者にも虚言癖があったとは思いませんでしたな。」


「彼は子供の頃からずっと精霊を信じていたクチなのでその理想が彼には幻想となって見えているのでは?」


「これは皇帝陛下にどう報告したものかなぁ。」


この場においてこの瞬間、彼の味方をする者はいなくなった。


彼が誰かと話しているように見えるのは、彼の自作自演。多分心が疲れて、ないものが見えてしまったのだろう。そういうこととなった。


「アイル、大丈夫?」


ティナはもうこのような反応はずっと受けてきたため不名誉なことではあるが慣れてしまっている。

だが、アイルにとってはそうだろうか。


今となっては彼の唯一と言っていい心の安らぐ場所は″俺たちには見えないから″そんな理由で失われようとしていた。


そんな世界で自分はどう生きていけばいいのだろうか。


彼はもう何をする気力も起きなかった。


ただ、後ろに続く帝国の者達と一緒に帝国へと向けて帰っていった。


本当に彼とはお別れしてしまう。そんな予感さえティナの中にはよぎるほどだった。


「私が消えても忘れないでいてくれる?」


今日も別れ際に声をかける。


「忘れるわけがないだろ。」


その返事でさえ帝国の人々はアイルのことをバカにするのであった。彼の「ひとりごと」に対して。




次の日からティナの元にはアイルは来なくなった


「どうして、どうして、どうして。私をもう一人ぼっちにしないって言ったのに。。。」


それは今まで過ごしてきた長い時間よりもさらに寂しいものだった。


他人の温もりを知ってしまったティナにとってはそれが以前にも増しての悲しみとなり彼女を苛んでいった。


「私のこと、忘れてないよね?」




アイルは帝国領内で今や『愚の英雄』という不名誉な名を冠されてしまっていた。


《精霊》に会いに行ったという1件は既に帝国の帝都には既に広まっていた。


もちろんの事だが彼はバカにされ、傷つけられ、暴言を吐かれ、そして見捨てられた。


皇帝の意に背き、《精霊》などという存在もしないようなものを信じている極めて危険な存在だと認識されるまでになっていた。


だが、それでもアイルは諦めなかった。


道行く人に、精霊の存在についてを語ってみたり、要人の人にもう一度だけと言いながら話を聞いてもらったり。


そんなことを数日続けた。


彼は限界を迎えていた。


道行く人はもう彼の言葉に耳を傾けるものは無い


それどころか、帝都の民は皆彼のことを道化師だと言って笑っていた。


ついには皇帝直々に彼は異端認定されてしまった


《精霊》などいなかった。そう言うまではアイルを拘束しておくことさえ民に誓って約束した。そしてこの国に隷属させて働くのが罪の償いであると。


アイルはもう笑うしかなかった。


過去の崇拝の対象であったはずの精霊に自分は会った。それは自分には見えて、他人には見えないだけの事なのに。

それなのに。

そんな精霊を異端認定までしてきたのだ。


もうこの国はダメかもしれない。

彼の頭にはこのような思想しか無くなってきていた。



その夜、アイルは帝国から逃げた。彼を捕まえようと追っ手を撒くことに慣れてしまっていたアイルは一切気づかれること無く逃げ出した。アイルは最強と呼ばれているがそこをまだ見せている訳では無い。牢獄からの脱獄など容易いことだった。


そうしてあの森へと″帰って″いった。


この前に必要な物資を隠しておいたあの場所へと急いだ。今は一刻も早くティナに会いたかった。


もちろんだがそこにティナはいた。

やはりいないなんてことは無かった。


こんなすぐ目の前にいるのだから。


「アイル、あれっ、どうしたのこんな時間に?」


「ティナ、あの国はもうダメだ。僕はもうあの国にはいられない。それくらいならティナと一緒にここで滅びた方がマシだ。」


それから、アイルが帝国に自ら戻ることは無かった。




それからというもの二人でまた、たくさんの事をした。


一緒に料理をして、食べることの出来ないティナに此れ見よがしに美味しそうに作ったものを食べるアイルの姿があったり、森の魔物達とは仲良くもなった。この森を守ってきてくれてありがとうという感謝とともにアイルも彼らと仲良くなっていったのだ。

そしてまた数え切れないほどのことを楽しみながら二人で一緒にした。


そして、開発しようとする帝国に対しては徹底的に対抗した。


まずそもそも森に入れないように対策した。


最強の冒険者であるアイルの魔力を最大限に利用してかつそれだけでは足りなかったのでティナの力を借りてこの森に結界を張って入れないようにした。


それは一度張ってしまえば維持が必要ない代わりに、ある一定のダメージを超えると壊れてしまうというそんな結界だった。


ただ、伝説級の2人が張った結界がそんな簡単に壊れるはずがはなく、効果は2週間も続いた。


その間帝国側は絶えず魔法使いを寄越して魔法を打ち続けたといえばその強度がどれほどのものがわかるだろうか。


そもそも帝国側はなぜわざわざこんなことをしてまででもこの森に入ろうとするのか?

という疑問がわくかもしれない。


ただそれは単純にして明快、アイルが強いからである。


アイルが抜けた帝国の戦力は一気に見劣りするようになってしまう。


戦争などではアイルが先頭に立ち、一騎当千の役割を果たせばそれだけで相手の兵は引いていく。


アイルが現在進行形でアンデル帝国に対して反旗を翻している事実が知られてしまえば、帝国は今までやって来たような強者であるがための他国への態度というものは様変わりしてしまうことになる。


下手をすれば、そこらの小国から襲撃を受ければ同等の戦力がために負ける可能性さえ出てくるのだ。


アイル1人のネームバリューがこの国の武力を支えていると言っても過言ではなかった。


アイル側の思いというものは何一つ組み込まれることは無かったのだが。



結界が破られるともう一度結界を張ればいいかと思うのだが、それは壊せることがわかってる故に何度張り直した所で何度でも壊してくるのは目に見えている。


なので今度は森のあちこちに転移陣と罠の数々を設置した。


罠は非殺傷系のものをふんだんにティナの力でばら撒き、それにアイルが手を加えて完成させた。


転移陣についてはアイルがそこら中に設置した。


人に危害は加えるつもりは無いので王城の謁見の間にでも飛ばしてあげることにした。

あそこなら広いだろうし、もし突然大量の人が届けられても問題ないだろう。

トラウマでも植え付けて、二度とこの森に近づいてこないようにできれば上出来だら、


問題があっても向こうに責任を取ってもらうからどうせ関係ないのだが。


結界を破れたことに歓喜して森へと乗り込んでくる帝国の人々はことごとく皆飛ばされていった。


ティナの設置した風魔法の罠が転移陣へと誘導していくものなんて避けようはなかった。


そしてまた2週間がすぎた。


帝国側の人々は使い物にならなくなる人が少しずつ増えているという。しかし、今度はこちら側に誤算が出始めた。


まず、今回の設置系のものは発動と同時に魔力を使うようなタイプになっている。


つまり人が来れば来るほど必要な魔力消費量が高まっていくのだ。アイルはまだ限界とは言わないものの疲弊はしていた。

それに対してティナはこれ以上は彼女の存在自体に影響を与えるかもしれないということでストップをかけなければならないほどだった。


「流石にちょっと私も疲れたよ。」


「ごめんなティナ、そんなに負担をかけてしまっていたことに僕が気づけなかったばかりに……」


「いいの。どうせ私はもう長くないと思うから。アイルと出会えただけでも私は幸せなんだ。」


アイルは何も言えなかった。


自分の不甲斐なさはもちろんの事だが、ここまで自分の邪魔をしてくる帝国というものに苛立ちさえ覚えていた。


彼の意識はティナを守ることからゆっくりとゆっくりとだが、帝国というものへの制裁というか自分のこれまでに対する復讐というようなものへと傾いて行っていた。


そして彼はまた新たな決断をした。





罠と転移陣をこの日取り除いた。


「やめて、今の顔ってアイルなんか良くない事考えてるよね?私のために自分のことを殺すのはやめて……。私からのお願い。」


「ごめん。これティナを守るためでもあり、僕を守るためのことでもあるんだ。僕が僕でいるためにはもうこうするしかないんだ。」


そうしてティナに背を向ける。


腰には魔剣を差し、レッグスホルダーにはポーションをできる限り詰め込んで、服はいつものような軽装ではなく軽そうながらも業物であるのはひと目でわかるような鎧までも着けている。


「じゃあ行ってくるよ……」


「待って!」


ティナは自分の今使える最高の魔法を彼に向けてかける。


彼の体は白金に輝き、その腕にはその光が収縮することでできた光のブレスレットのようなものが存在していた。


「アイルが行くというのなら私は止めない。でももし本当のピンチを感じたらそれを使ってね。これは私からのお守りだから。」


ティナはその目に涙をためながらアイルの後ろ姿に向けて言う。

それはまるで永遠のお別れのような。


彼女は薄々感づいていたのかもしれない。

この後に起こる彼と自分の変化について。


「私が消えても忘れないでいてくれる?」


「忘れるわけがないだろ」


ティナの瞳から流れ落ちる雫が大地に染み込み心なしか森自体が元気をなくしたように見えた……


アイルは一度も振り返ることなく去っていった。




帝国兵たちは今日も今日とてたくさん集まっていた。


そこにはアイルの顔見知りもたくさんいた。

彼に剣術を教えてくれた師匠のガロンドーラ、いつもふざけてばっかりなのだが一緒にいてこちらを楽しませてくれるような同僚達、シャロン、クリス、エレンその他の大勢の仲間が立ちはだかっている。


流石にアイルであっても1人で多人数を止めることは流石に不可能なのであるものを仕掛けておいた。


そんなアイルの企みを知ってか知らずか、帝国側はガロンドーラの指示に従いながら戦力を分散させようとしながら、そしてアイルの位置を避けるようにして森へと進行を進めようとする。


だが、誰もが誰もある一定のラインより先に進むことが出来ず、見えない壁の様なものに阻まれていた。


「ごめんよ、それはこの森の意思なんだ。僕を倒さないと入れないようになっている。できれば僕だって無駄な殺生は避けたい。でも、あのまま帝国で暮らすことはもっとありえない。そうありえないんだ。僕はもうあんなところへ戻らないし戻る理由もないんだ。だから手を引いてくれ……」


「そうは言っても皇帝様からの命令だ我々も下がるわけには行かぬ。」


ガロンドーラが指揮を執りながら帝国の軍隊が近づいてくる。


そこでもうアイルは心を鬼にして自分へと誓った


"僕に仇なす帝国は敵である"と。





今の彼には愛国心など皆無だった。




ひとまず彼の過去を見ていこう。


彼の母親:アネッサは優しい、周りからも羨ましがられるほどの良母であり、そして美人であった。だがある日、街で路地裏に連れ込まれ男達に慰みものにされてから、生きる意味を失ったかのようにいつもぼーっとするようになってしまった。

心が壊れたのだ。そんな母親を子供のアイルにはどうしようもなかった。


彼の父親:ロンドは冒険者であり、長い間家を空けることも少なくなかった。家に帰ってきても酒を飲み、少しはアイルと遊んでくれるものの壊れた彼の母親をそのままにしていた。

そのままにするしか無かったという意味でもある


そうして、少したった頃には彼の父親の訃報が届いた。


生活だってどうしようもなかった。

仕方なくアイルが冒険者になって働くことにした


だが、ここで転機が訪れた。


アイルはとんでもない才能の持ち主であると依頼をこなしていくうちに発覚したのだ。それも、世界で倒せるのは数人と言われているSランク級と呼ばれるような魔物を15歳の頃には倒せるようになるくらい飛びっきりに。


お金にはもうその頃には困っていなかったがいくら彼といえど元々は貧しい家の出なので彼の母親を医者に連れて行くなんて発想最後まで自力では思いつかなかった。


そんな時に、皇帝がアイルに目をつけた。


それはもう必死に口説き落としにかかった。


君は未来の帝国の中心となるものだと。

よければ私の跡を継がせることも考えようと。

彼の母のためにもこの国一番の精神に関する医者をつけようと。

望むなら彼の母親の心を壊した者達を極刑に処すことさえも可能だと。


アイルはその提案を飲んだ。


ただ、彼の求めたことは自分の母親が健康でまた一緒に暮らせる日が来ることを願っている。だからそのための治療などについてを頼みますと。

自分に地位などは必要ないと。


今思えばそのころは、はまだ愛国心ということばに当てはまるような感情が少しはあったのかもしれない。


だが、彼の運命はまたもや砕け散った。


それはティナに会う少し前のこと。




アネッサは死んだ。





それもアネッサはその美しさからいつの間にか国王から妾なるように言われていたと聞く。


彼の母親は未だ治療の途中であったのに関わらずだ。


そして、皇帝はアネッサに手を出した。

了承を得ているわけでもなく半ば無理矢理に。


その結果、治りかけていたアネッサは完全な廃人となってしまった。


そして、それを治すべく禁忌に手を出したおかげで、アネッサは精神魔法の使い手によってあの世へと葬り去られてしまった。


アイルの心もその時をもって壊れてしまった。


必要最低限の行動以外はしなくなり、かといって命令に背くことは無かった。

そんな自分に生きている価値を見いだせなくなった彼なのだ。


ティナに会わなければどうせ死んでいたのだ。


それに、そんな皇帝のいる帝国を誰が愛することができようか。


アイルの記憶は今ぴったりとはまった。


彼の母親であるアネッサが死んだ後、彼の心の、記憶の奥底にしまって固く封印していたもう思い出すことのなかったであろう、成人するまでも真っ直ぐで純粋、真っ白だった彼を真っ黒に染めた思いの数々が彼の記憶のかけていた部分を埋め合わせていった。


そこには純粋なきもちが元にあったからこその


"純粋な復讐心"


のみしかもう彼の心には映っていなかった。




気づけば彼の周りにはおびただしい数の帝国兵が転がっていた。


ほとんど死に至らない程度まで加減してあるもののこの戦闘ではもう起き上がることの出来ないほどの絶妙な威力。


名のない有象無象達はそれで皆沈んでいった。


彼の友人、師匠、同僚は残っていたが今まで見た中で一番狂気に満ちており、一番強いアイルに打つ手立てなど皆無だった。

何人で挑もうとそんなものは関係なかった。


魔法で相手との距離感をつくり、一瞬のうちに縮地を使い相手との距離を詰めたと思った時には相手の意識は失われている。


彼の動く射線上に魔法や攻撃を放とうものなら味方まで巻き込んでしまう位置取りをアイルはし続けていたために本当にどうしようもなかった。


最後に残った『三光』の残りふたりに関してはアイルと戦うことさえ拒みここを、否、この国を出て行った。



アイルの復讐心は収まることを知らないけれども、戦う相手もいなくなり、怒りの、憎しみのぶつけ場所を失ってしまっていた。


憎しみしかない心にある一つだけのオアシス、ティナの元に帰ろう。そうとだけ彼は思った。


彼の戻れる場所はそこしかなくなっていた。






アイルは森の中心部、いつもティナと会っていた部分にたどり着く。その状態でも彼の心は荒ぶるに荒ぶっていたけれどもそれは少しの落ち着きを取り戻し始めてはいた。憎しみや復讐心が消えることはないが。

だが、


そこにはティナはいなかった。


アイルはなにかの間違いかと思いながら何度も目をこすったり、これが現実であるかを確かめるために自分の頬をつねったりした。その他にもこれが現実であるかを確かめるためにいろんな方法を試みた。それでも残念なことにこれは現実だった。


「そ、そうだよな。ティナだってここにいないことだってあるよな……」


いつもアイルが来た時はここにいたのに、そんな自分に都合の良い解釈をして今の自分を諌めることで精一杯だった。


そして彼は文字通り森全域を全速力で駆け回って彼女を探した。一周するだけじゃすれ違いの可能性も否定出来ないので2周も3週も。


気がつけば日は沈んでいた。それでも彼にはあの圧倒的な神々しい存在感とオーラを感じることは一向にできそうもなかった。


「な、なんで…………なんで……」


息も絶え絶えにそう呟くことしか出来なかった。


「僕にこれからどうしろと……?」


彼の心の拠り所が今崩壊したことをこれは意味してしまう。


「彼女は死んだ?」


そんなはずはない。彼女の寿命は森とともに削られていく。


「だが、もう僕には彼女は見えない。一生見ることが出来ない……。」


なら、この世に絶望しきって死ぬのか?


だがまだティナのいる世界でそんなことをしていいのだろうか?


「そんなこと考えても不毛なことか。もう僕はティナに会えないんだから。」


現実を見なければ、彼の心は壊れなくて済んだかもしれない。自分を誤魔化しながら生きることで辛うじて彼が彼たる所以を保てたかもしれない。


それでも彼は現実を見つめた。見てしまった。



───────それゆえ彼は廃人と成り果てた。



心がいくら歪んで壊れたとしても、根の部分はそう簡単に変わることは無い。

彼の根は真っ直ぐで純粋なのだ。

自分に降りかかる現実を"真っ直ぐ"受け止めることしか出来ないのだ。そんな不器用な純粋さがアイルがアイルたる所以なのだから。


だからと言ってはなんだが、さっきの帝国軍の戦いでは彼には本当は全員を殺しきる力はあった。


彼は冷静さに食われ、取って代わられて復讐の化身となっていた。それなのに、そんな状態なのに彼は誰1人無意識に殺さないようにしていたのだ。


そう無意識にだ。


アイルはその力がある自分に辟易していた。

激しい戦闘の途中に知らず知らずのうちにそんな細かいことにリソースを書くことが出来るほどの自分の才能までを憎らしく思ってしまった。


それが母を殺したのだから。


そんな自分を一度も許せたことは無い。

十字架を背負いながら背負う毎日でどうしようもなかった。

それら全てを"真っ直ぐで純粋に"受け止めるなんて一人の人の心に可能なことであろうか?


もうアイルは限界だった。


ティナへの思いは残っている。

帝国への復讐心はある。

十字架だって背負っている。


だからそれらを自分の中に封印してしまう代償として彼自身はもうダメになってしまった。

二度目の記憶の封印の代償は彼自身の精神を必要とした。


死ぬのもやぶさかではないのだが、体はそう動いてはくれない。


彼は誰もいるはずのない森をただただ歩き続けていた。いつまでもいつまでも、彼が倒れるまで歩き続けていた……







アイルが次に気づいた時にいた場所は帝国の城の牢獄の中だった。

薄暗く少しジメッとした感じするが今のアイルにはどうでもよかった。

目の前にある鉄の格子は彼が自分の記憶を封印しているように、国が自分を封印してくれているように感じ、なぜだか安心感を感じた。


彼は何かを見ているようにも何も見えてないようにも見える虚ろな目でただ一点見つめ続けていた。看守からなにか言葉をかけられても必要最低限の受け答えのみしかしず、1日中ほぼ動くことなく過ごしていた。


ただの抜け殻だった。


皇帝にもアイルは一度会わされた。

皇帝からは罵倒を喰らい続けた。


お前は国を裏切った。

お前のような平民風情が。

精霊などというホラまで吹きやがって。

裏切り者に場所を与えているだけ感謝しろ。

お前の母親だって私を裏切った。

裏切り者の一家だ。

今でも私への謝罪はないのは何故だ。

お前は何を考えているんだ?

この国から追い出してもいいんだぞ?

私の寛大な心に感謝しろ。


アイルは壊れた人形のように笑い始めた。


「アハハハハハはははははは」


「僕に帝国への愛がある?何言ってんだお前。僕に帝国への愛なんてあるわけないだろ?僕はこうして飼い慣らされた生活を強いられ、実の母親はその皇帝によって殺される。そんな状態で本当に僕に愛国心とかあるとか思ってたの?えっ?皇帝様はアホだったんですか?お前なんて殺人者なんだよ。誰が殺人者のためになって動く?国を裏切った?僕は元々こんな国裏切るほどの思い入れなんてあるわけないだろ。僕を国から追放する?どうぞご勝手にやってください。そうなったら僕は他国に亡命して同盟でも作ってこんな国潰してやりますよ。それもわかって言ってんの?どうせ最初から僕を手放す気は無いくせに。今なんてどうせ僕を奴隷階級に落として絶対服従にさせようとしたりしてるんだろ?もう目障りなんだよ。僕に謝罪をさせるくらいならまずお前から僕に謝罪をするのが先だろぉぉぉぉが!」


アイルの皇帝核心をつく暴言に彼は封印の中から少しずつだが漏れだしてくる言葉をただただ垂れ流していたに過ぎない。彼自身も自分が何を言ってるかわかってもおらず、敬語と暴言がごちゃ混ぜになるなんともシュールな状態を作り出していた。


「どうぞ、僕を不敬罪で殺してください。

さあ、殺してください。えっ殺せないの?奴隷にする?言っときますけど僕は奴隷の首輪の拘束くらい解けますからね?逆にそんな首輪くれたら喜んで皇帝様へとつけて自殺でも命じますかね。でも自殺だとなんの面白みも苦しみも味わってもらえないのと癪だな……」


もはや彼は止められなかった。


ゼンマイを回していないのにずっと動き続ける人形のごとく笑い続けた。その奇怪さはとどまることを知らなかった。


だが、ある一定の時間が経った時に彼は突然その場に崩れ落ちた。


誰もがもはやアイルのことをかわいそうとかそれ以前に気味が悪いと思っていた。それ以上にこの皇帝のことについても少しだけだが不信感の種が撒かれ始めていた。



アイルはまた牢獄で過ごしていた。


あの日のことが嘘みたいに喋らず、動かずまた一点だけを焦点の合っていない目で見続ける生活が続いた。


たまには看守たちの話すこんな声が聞こえてくる。


「そう言えばあの森ってもう8割方開発が完了してるらしいな。」


「たしかに皇帝様がそんなことを発表してらしたな。」


そんな会話が聞こえてきても彼はなんの心の動きも見せない。

だが、彼の瞳の奥だけは少しだけ揺れている気がしているのは気のせいかもしれないし気のせいではないかもしれない。


アイルにはたまに、皇帝より強制的に出動命令がかかる。


あの日のアイルだったのならばそんなものは拒みに拒みまくったのかも知れないが、現在アイルは皇帝の駒でありあやつり人形となってしまっているのである。

ただ言われた通りに命令をこなし、帰還するのみだった。脱走するような熱は彼にはもうないから……。


そうして時はすぎて言った。






アイルが行ってしまったあの日以来、ティナには冬の時間がまた訪れた。彼女にとっての幸せな時間は終わりを告げてしまっていたのだ。


ティナはどうしてもアイルの姿が忘れられなかった。あの、ティナの姿が見えなくなったあの日のアイルの様子。森中を探し回りもう自分がティナのことを見えなくなったと悟った時のすべてを諦めたかのようなあの目。


森の中で倒れていたのも知っていたが、力をほぼ失っているティナに何かをすることは出来なかった。かろうじてそこにいることで魔物よけのような役割をするしかなかった。


そして、来たのはやはり帝国の兵だった。もちろんティナの姿なんて見えない。


何も言わず顔に笑みを貼り付けながら彼のことを運んでいかれてしまった時の絶望感といえば計り知れなかった。


「アイル?私を忘れてないよね?私まだ死んでないからとか言って屁理屈こねて私を忘れたとか言ったら私は……私は。」


そこにはティナの静かにすすり泣く声が響き渡った。


それでも誰にも聞こえることは無かった。






半年が経った。


アイルは未だに牢獄の中での生活を強いられていた。食事を食べる時と用をたす時以外に出動命令に備えるための訓練時間が新たに設けられたがそれ以外は何も変わることはなく、アイルの目は濁った魚の目のごとく元の様子に戻ることなどなかった。相変わらず牢獄内にいる時はほぼ動くことはなかった。


「そう言えば、今日を持ってあの森の開発が完成するらしいって知ってるか?」


「えっそうなのか?」


「あぁ、森の開発が終わった暁には国をあげての祭りを計画までしているらしいぜ」


「へえ、そりゃあ大層なもんだぜ。」


いつものように特にすることもなく暇である看守は帝都内で話題になっている話をここでしているため何もしていないアイルの耳へも入ってくる。


それでもいつも無反応だった彼。


森の開発が進行しても、皇帝による新たな被害者が現れても、この国最強の冒険者は今でもこの国のために動いてくれているなど無責任な話題が出ていても。


その日も彼の心に動揺などはしっていなかった。

はしていなかったはずなのに……


彼の頬にはつたって落ちていくものがあった。


彼の頬には一筋の跡が残り、気づいた時には石で作られている床が水分を吸収して変色していた。


同じルートを通りながら何度も何度も留めなくそれは溢れてきた。

しばらく経つ頃には彼の周りの床の灰色だった部分はほとんど黒く染まっていた。


「あれっ。どうして涙が止まらないんだ……。」


目元を拭って涙を止めようとすることなど一切せずに、アイルはただただその彼の心の雨を外へと押し流していた。


「本当に僕は何をやっていたんだろうね。」


アイルの心の雨は彼のその心に施した封印をゆっくりと溶かしていき、彼は自分のすべきことをだんだんと理解していった。


もしティナがいなくなったら、もし僕が帝国を消滅させたら。

そんなくだらないことで自分の心を閉ざしていた自分を今は許せない気持ちでいっぱいだった。

だが、今はそんなことを言っている場合ではない。


「ティナ、ティナを助けなきゃ。」


とは言うものの今の自分にはこの牢獄を出ることなど容易い。


正直壁をぶち壊して抜け出すことも鉄格子を変形させてこの建物から出ることは可能だ。

それでも今日で森の開発が終わるということはもうすぐに終わってしまうに違いない。

そもそも薄暗いこの牢獄にいるアイルに時間感覚などあるはずもない。


だからとにかく早く、今出来る限りの最速の速さをもってあの場所へたどり着くことだけを考えていた。


その時には帝国への復讐心などもはや、ゴミクズ以下の存在へと成り下がっていた。

そんなものはどうでもいい。

それがアイルの率直な今の気持ちであった。



唐突にアイルの手首が光り出した。


彼はそれを覚えていた。


「これはティナの送ってくれた魔法……」


アイルがティナを見えなくなる前、帝国へと敵対するために彼ががティナの前から姿を消した最後の時にかけてもらった魔法だ。


そんなことを考えているうちに彼、の腕輪のようになっていた光からそこ一体を包み込むような光量があふれ出し、光が収まった時にはアイルは牢獄から抜け出しており、あの森のいつもの場所にいた。

いや、もういつもの場所とは呼べなくなってしまっていた。


その光の正体は『ロンリープリンセス』

それは魔法の使用者がある一定の誓約を相手に課し、それが達成された時に相手に自分の持てる力よりもさらに強大な魔法を使用可能になるというものだ。


ティナはアイルが行ってしまった時、彼が帰ってこなくなる運命を察していた。自分のことが見えなくなることも察していた。それ故にこのような誓約をかけた。


«精霊がまた見えるようになった時»


このような条件で魔法発動を設定した。

ここまで厳しい誓約でもないとこの魔法を発動することは出来なかった。


これは一種の賭けであった。

アイルがこの誓約を満たせる確率なんて高くなかった。はっきり言ってティナの見た最後の時点でのアイルでは、絶対にこの誓約が無駄になることは容易に予想できていた。


でも大事なのはそこではなかった。

心の拠り所と呼べるものを失うことがティナには出来なかったのだ。

アイルとのつながりが完全に消えたこの世界では本当に生きる意味は失われてしまう。

システマティックに訪れた死をただ流されるがごとく受け入れるだけのつまらない存在へと成り下がる。


もし、アイルがここに最期の時まで来なかったらそれはそういう運命だ。


もし、アイルがここに来たらそれもそういう運命だ。


そう割り切って彼女は最期の望みをこの魔法に託したのである。



「ティナ、久しぶりだな。」


「久しぶりだねアイル。」


ティナの身体はもはや力を失ったという状態にはとどまらず、前は感じていたオーラはほぼ失われ、今にも消えてしまいそうな儚さを感じる。


「僕は間違っていた。また間違えてしまった。だからこそ君を助けに来たんだ。帝国のことなんて考えている余裕があったら君のことを考えるべきだった。何よりも大切な君を忘れたら僕には何も残らないのに。僕は愚か者だ。」


ティナは嬉しさと悲しさが混同したような笑顔をアイルに向けながらゆっくりと首を横に振る。


「ごめんね、アイル。私のせいでさらにあなたを苦しませて。でもそれももう終わりみたい……」


ティナはアイルと真逆の方向を向いて言う。


「あそこ一体に残っているあと数本の木々がが私の残りの命。もうどうしようも……」


アイルは駆け出した。

彼女の命の危機が迫っていたというのに呑気に話していた自分にむかつきながら。その寂しそうなティナの表情から何も察することの出来ない自分に呆れながら。ティナの様子を見たらわかるのに、相棒のピンチに気づけない自分に怒りながら。


彼はこれまで出したことのないような速度で加速した。

まず身体強化魔法をかけられるMAX値までかける。それに加えて自分が風の抵抗を軽減する魔法を使うことで限りなくゼロに近い状態で走ることを可能にする。


アイルが1歩地面に足をつける度にドラゴンが通ったかのように地面がえぐれ、彼の通る近くにあったものは、音速を超えた彼から発せられたソニックブームにより全てが吹っ飛ばされていた。


アイルは音速を超えて走った。

ティナの指した10キロほど先の最期のティナの生命の元へ走った。

脇目など振る余裕などあるわけもなく、ただただまだ目線の先の木々が切り倒されていないことだけを気にしながら全速力で風となった。


人間の領域をはるかに超えた力を持ってしてアイルは30秒で10キロを駆け抜けた。

その時にはもうそこに残っていたのは最後の1本のみだった。




そして彼はその光景を忘れることはないだろう。




アイルが到着して駆け寄るのとほぼ同じタイミングで……木が彼の方向へと倒れてきたそんな光景を。


何とか間に合ったかと思ったアイルの目の前には特大の刃を持つ大掛かりな木を切るための装置が用意してあり、ガリガリとその木の幹の半分ほどまでを削り取っていた。


倒れていない状況ならまだ魔法なら間に合うとおもったその瞬間に、その木は上下二つの部分に分かれてしまった。

そしてアイルの方向に倒れてきた。

木の上にあった鳥の巣からは、子供とお母さん鳥の鳴き声が聞こえてきてそれがこの木の運命を表しているかのような悲嘆の声に聞こえた。また別の方向にあった枝から飛び立った鳥の羽を羽ばたかせる音は、この森の死を感じさせ新たな生を求めているように感じられた。


綺麗にまっすぐアイルの真上から落ちてくるその木をアイルが支え、一縷の望みをかけて再生の魔法を行使するがもう死んでしまったその木は反応しなかった。



そしてアイルはその場に崩れ落ちた。


「そんなに落ち込まないでよアイル、私はもう幸せだったんだよ。」


「ティナ…………」


ティナは気づいた時にはアイルの後ろに立っていた。もう浮いていることさえ不可能なようで、身体は光の粒となって自然へと返りつつある。


「私に夢を見せてくれたアイルには私とても感謝してるの。でもほら、夢っていつかは終わりが来るものなの。私がここで儚く散っていくのは運命なの。夢の終わりのひとときもアイルといられただけで私はもう思い残すことは無いよ。」


「辞めてくれ、僕は、僕はどうして、どうやって生きていけばいいんだよ。。君のいない世界なんて……」


今にも消えそうな彼女のその顔はまるで慈愛の女神様のような優しげな笑みがあった。


「アイル、アイルの好きなようにこの世界を生きて。あなたは今までお母さんのため、帝国のためと半ば拘束された人生を送ってきたでしょ?そんなのもうやめていいんだよ。これからはあなたがしたいように、あなたの進む道は自分で決めるの。それを邪魔する輩は全てぶっ飛ばせばいいよ。私が許すがら…………」


ティナは嗚咽を漏らし始めながらもそれを気にした様子もなくアイルのために最後の時を費やす。


「何でそんなに僕ばかりを心配してくれるんだよ。君はもう消えちゃうんだよ?そんな大切な時間を僕のために……」


「アイルには、これからの、人生を、楽しんで、ほしいから、過去に、縛られ、ちゃ、ダメなんだから。私の友達、最後に、話せるのは、アイルだけ、だから。」


その頃にはティナの体はもう身体が透けて見えるほどに透明であり、次の瞬間にふっと消えてもおかしくない様子へとなっていた。


「そこまで僕ものために言ってくれるなら、僕ももう弱音を言ってる場合じゃないね。君に誓ってそう生きるよ。」


最期が目と鼻の先に迫っている彼女に、自分の最愛の彼女に、アイルはそういうのが精一杯だった


そして本当の最後の時はやってきた。


「ねぇアイル?私が、消えても、忘れないでいて、くれる?」


最期の場面彼女の最後の言葉はいつも通り"お別れ"の、"再会を誓った"この言葉だった。


「忘れるわけないだろうが……」


その言葉はティナに届けられることは無かった。

だが、その言葉が来ることなどティナが聞かなくてもわかるということは、最期の瞬間アイルに向けた最高の笑顔の中に刻まれおり、その後まるで彼女の存在が夢であったかのようにティナは風に溶けて消えていった。

そんな彼女の最期だった。


でも彼女はそれだけでは終わらなかった。


その瞬間にティナのいた場所から眩い光が現れた。それはまるで彼女のプラチナの髪色のように美しい光だった。何もなくなってしまったその森の大地のすべてを白金に輝かせたあとで静かにその光は大地から天へと昇っていった。


その光はアイルだけに見えたものではない。

周りの帝国の軍人や開発を続けていた人々へも届いていた。


それまではアイルの近くにいた人々は、何も見えない空間に向けてアイルが一人芝居を続けているように見えていた。


けれどもこの出来事で皆はすべてを悟った。


太陽さえも目じゃないほど明るく、美しく輝き始めた場所はそう、アイルが喋りかけていたその何も無い"はずだった"空間だったのである。


本当にこの森に精霊様はいたのだと。

自分達は本当に精霊という存在を消滅へと追いやってしまったのだと。

この時になって帝国の人々はその事実を悟るのであった。


もはやアイルを帝国へ連れ帰ろうと思うものはその場に誰1人としていなかった。


アイルはティナが消えてしまったその時の体勢から少しも変わることなくそこにただただ佇んでいた。


涙が出るほどの余裕もなく呆気なく彼女は消えてしまった。また、気づいた時には彼の背後から無邪気な笑を携えてやってくるような気さえするのに。

落ち着くための余裕さえまだ貰っていない。


それでもアイルの胸には今から新たな一つの目標ができた。自分のやりたいようにやれ、そう言われたティナの言葉をそのまま実行しようと心に決めた。



それでもダメならその時は盛大に泣こうとも。







精霊様の加護が消えてから三年が過ぎた。



帝国はその間に次から次へと問題が起こり、首が回らなくなっており、近いうちに崩壊するだろうと言われている。

簡単に理由を列挙すれば、


1.精霊が消えたことであの森の近くの一体の土地から全くと言っていいほどに作物が取れなくなり土地は死んでしまったこと。


2.精霊の最後の瞬間に発した光を見たものはあの場にいるものだけでなく帝国内にも沢山おり、自分たちのことら棚に上げて精霊様を殺した皇帝を許すなというネガティブキャンペーンが始まるとともに皇帝の悪事がばらまかれたこと。


3.皇帝は皇帝の座を降りたが次期皇帝は決まっていないこと。


4.そして何よりもこの国の軍事的強みは皆無となったこと。ティナが消えてからというものアイルは帝国内に一度も足を踏み入れていない。

それに加えてアイルとの戦闘時に『三光』と呼ばれた残りのナンバ2、3までもが抜けてしまったこの国に未来はないということ。


ハッタリをかますことでこの3年間はなんとか相手国から責められることを回避していたのだが、もうそれも密偵による事実確認で真実が他国へと割れ始めていた。

他国が攻めてくるのはもう時間の問題であった。


簡潔にいえばもう帝国は終わりだ。

そしてあの森の開発は精霊のいない土地を開発しても栄えることは無いことは広く知られていたので、誰もあそこを開発しなかったし、それからというもの誰もあの土地に入らなくなった。

あるひとりを除いては。


では、そんな1人はどうしているかというと……





「『進化創造《コンバージョングロウ》』と。よし!これで今日の日課も終わりだね。」


彼はあの土地、いや、いつもティナと一緒にいた場所で生活していた。寝床は近くにあった小さな洞窟のような構造をしているところにしており、食料は他の山へ行って自分の食べる必要最低限の食用の魔物を狩って、川から水を調達して生活していた。


そしてそこには一つだけ以前と変わっているところがあった。


「こいつもかなりというかとても大きくなったな。僕でもこんなことが出来るなんて驚くレベルだよ。」


アイルの目の前には一本の大木が存在していた。


アイルはティナの消えた日にこの場所に1株の木を植えた。何の変哲もないただの木の苗だ。

それをアイルは3年間、一日も休むことなく水をやり、肥料をやり、魔力をやり、魔法をかけ続けた。

適度な水分や肥料を与えることでこの今日自体のもつ成長力を高め、さらにそれを魔法をかけることにより促進、進化させていった。

そこに魔力を与えることによりプラスアルファで何があっても倒れないような、もし自分が倒そうとしても倒せないような木を目指してきた。


そうしてできあがったのがこの大木。

大きさは規格外。

アイルの今まで見たことある木の高さの最高はせいぜい30メートルといったところなのだが、この木はしたから見上げても一番先っぽが見えない。


そもそもの話だが、木の幹の太さだけで1周何十メートルもあり、最初の枝が存在する地点までも十m以上を要する。

アイルが1度飛行魔法を駆使して高さを調べに行ったところ、軽く雲を超えていた辺りでそれ以上上を見に行くのが逆に怖くなってそこで戻ってきたという出来事もあった。


ソレは規格外であると同時に当たり前でもあった。

一国の戦力と言っても過言ではないアイルがすべての力を3年間もこの木だけのために注いできたのだから。


そしてこの木はもう一つ特徴を帯びることとなっていた。


「よし今日こそは!『大気の鉤爪』」


アイルの手の先から魔法が現れる。

彼の近くには無数に風の刃が浮かび上がり、それが空中で合わさりあいながら大木へと飛んでいった。

上級魔法であるはずの風刃の魔法とでさえ月とすっぽん程に威力の違いがあるこの魔法。


それでもその木が覆う魔力の膜のようなものに弾かれて傷一つつかなかった。アイルの魔力によってのこの大木は強化とともに、木の許容量を超えた魔力がその大木の表面に溢れ出していた。それが魔力の層を作り出すことにより、魔力で物理攻撃への耐性に特化した本体の木に対して、魔力の層が完全に魔法攻撃特化の耐性までもを手に入れていた。


そんなアイルの理想としていた木は出来上がった


その大木はティナが消えてからというもの何を植えても育たなくなってしまい、雑草さえも生えてこなくなってしまったこの土地の唯一の希望であるとともに、帝国の人々はそんなものを育てているの人物が誰であるかを誰よりもよく知っていた。



守るべきものを間違えた自分たちなどではなく、最期まで、自分の命が削られながらも自分たち人間にでさえ加護を与えてくれていた精霊様というものの偉大さをもう知っているから、彼の生き様をみな賞賛さえしている。


そしてこの大木はいつの頃からかこう呼ばれるようになっていた。


『世界樹』


と。


何よりも高くそびえ立ち、倒れることもないような強靭さを持ち、あの時皆が感じたあの精霊様に通じるような神聖さ、神々しさと言ったものやオーラというかそんなものを感じさせながら自分たちや世界全体を見守っていてくれるそんなものであると。


アイルに今から出来るのはもう待つことだけだ。

この土地にティナが帰ってくる時を。

もし帰ってこなくても彼女を待ち続けよう。

彼女は自分の短命を知りながらもアイルを待っていてくれたから。

アイルがあのまま帰ってこない可能性もあったのに待ち続けてくれたから。

それに彼女は1度も死という言葉を使っていない。

ティナは自分の運命を死とは呼ばなかった。

ならばティナが帰ってくる可能性もゼロではないと言えるのではないだろうか。

そのために今度はこの地の木々と命を共にしようとも絶対に倒れない、倒せないような気を育てた。


だから…………お願いだから帰って来てくれ。


「忘れてないかなー?」


ん、何か幻聴が聞こえたような。


「こんなに立派な世界樹まで育てちゃってー」


こ、これは幻聴だよな。そう。そうに……


「アイル、私の事忘れちゃったの?」




振り返るとそこにはティナがいた。



そんな何気なくそこに存在するティナに声をかけようとするがうまく声が出てくれない。


「何泣いちゃってんのアイル。わだじだっでー」


目の前であのプラチナヘアーが風にたなびき、アイルの視界に入ってくる。

もはや涙は止まらなかった。

止めようとも思わなかった。

幸せな時にでる涙は今この時に一生分出たとしても収支が合わないのではと疑うほどだ。

鏡のような対面する二人の涙が、今ここで生きている事を証明してくれるようでもあった。


そしてお互いは泣き腫らし、端正な顔をグチャグチャにしながらお互いに見つめあい、そして笑った。


「ティナのことを忘れるわけないよ。こんな立派な世界樹まで育てちゃうほどにはっきりと覚えてたよ。未練たらたらだよ。だから、だから……もう僕の前から消えないでくれる?」


「もちろんだよ。」


それからその『森』にはまた以前のように草木が生い茂り、肥沃な土地へとまた変貌していった。

いや、以前の状態を超えた木々がひしめき合い、魔物達も戻ってきた。

何よりも中心に立つ世界樹がここら一帯の土地へと優しい光を降り注ぎ、魔力を伝わせることで木々一本一本が元気になっていくように見える。


その事を帝国も歓喜した。


自らの、自分たちの、帝国の過ちを正すだけでなく、再生までしてくれたあの少年に帝国は感謝をしてもしきれなかった。


その事を聞いた他国は、その美しい土地を、精霊様の意に背くような行為は罪であるとして、精霊様の土地を戦いで汚すことを、正直にいえばその土地にいるアイルを恐れるという理由もあって、帝国に攻めることも無くなった。


そしてどこの国も武力を拠り所にするのではなく、自然という強大なものの前の人間のちっぽけさを再確認し、自然に歩み寄るところからもう一度スタートしたそうな。


そしてそれからというものこの世界中でこんなお話が、1人の冒険者にして英雄のお話が語り継がれるようになった。



『精霊と英雄による世界樹の奇跡』と。

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再会の救世主(メシア)~精霊と英雄による世界樹の奇跡~ 二人乗り観覧車 @futarinori

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