桜々中のショートショート、略してSSS。

言霊

　やぁ、久しぶりだね。また迷い込んでしまったのかい？　ここへはもう来ないように気をつけなさいとあれだけ言ったのに。

　どうして来てはいけないのかって？　ここは言霊の国。言葉に乗せた想いが現実になるのさ。たとえそれが、恐ろしい言葉であってもね。君たちのような現世から来たヒトには酷な世界だろう？

　なぜって……例えば、私が君に『死ね』と言ったとする。そうしたら、君はその言葉通りになってしまうんだよ。そんな世界にいても、構わないというのかい？　ほら、ここは、とても君たちにとっては嫌な世界だよ。ヒトビトは誰もみな疑心暗鬼なのさ。何を言われるかわからない。一瞬ののちに、自分がどうなっているのかわからない恐怖にいつも怯えているんだ。言葉は、私たちにとって何よりも強い力だからね。

　わかるかい？　だから、例えばでなく私が君に『死ね』と言ってしまったなら、君は死んでしまうんだよ。

　あぁ、ほら、もうそうなってしまったね。可哀想な君。『もうここには来ないように』なんて曖昧な言い方をしたから来てしまったんだね。哀れな、慈しむべき君。言霊の力のあまり働かない物言いをしてしまってすまなかった。

　せめて、安らかな眠りを。私には祈ることしかできないけれど。けれど、それで充分だろう？　だってここは、言霊の国なのだから。