n番目の君。
恋多き青年Aには、多く恋人がいた。もちろん今も、付き合ってひと月ほどになる女性がいる。
色々な女性と付き合ってきた。タイプも様々だった。年上、年下、会社の同僚。綺麗な
両手に収まらないほどの女性たちと付き合ってきたのだから、ろくな別れ方をしなかったことだってある。むしろ、ろくでない別れ方の方が多いかもしれない。
そして、恋多きAは、一度にたくさんの恋をした。今、付き合っている恋人の他にも、三人ほど別の女性に恋をしていた。恋をしているだけでなく、その女性たちとも恋人関係にあった。所謂、浮気というものだ。それが世間の倫理に反することであるとは理解していたから、恋人たちにも、友人にも、自分たちの恋愛がどういう状態であるのかを話したりはしなかった。
ある日、Aは恋人と喧嘩をした。きっかけは、Aにとっては些細なことであった。昨日別れたばかりの、別の女性の名前を呼んでしまったのだ。もう顔も覚えていないが、うっかり呼んでしまった。それが、恋人にとって重大なことであったのは言うまでもない。問い詰められ、正直に白状すると、鋭い平手打ちが飛んできた。
「あなた、最低よ!」
そう叫ぶと、恋人はヒールをかつかつと鳴らして早足で去っていった。
「……もう帰ってこないかもしれないな」
そこまで落ち込んだ風でもなく、淡々とAは呟き、家へと帰っていった。
それから一週間ほど経った頃だった。あの恋人とは、連絡もとっていない。それどころか、すでに、新しい恋人ができていた。会社を定時に終えたAは、最寄りの駅で電車を降り、帰路についていた。すると、冬の暗い道、街灯の明かりに照らされて、人の影が見えた。
「どうしたんだろう?」
不思議に思いながらも横を通りすぎようとする。横に並んだ瞬間、ぐわりとその人が手を振り上げ、Aに向かって振り下ろした。ずぶりと何かが体にめり込む感覚がした。
ぐふ、と声が漏れ、何とか相手の顔を見る。それは、一週間ほど前に喧嘩して別れた恋人の顔であった。しかし、Aにはそれが誰だかもうわからない。
薄れていく視界と意識の中、ぼつりと呟いた。
「君は、一体何番目の子だったかな」
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