秘密特殊警護部隊P.T.A

ちびまるフォイ

これからもバッチリと見張ってください!

『こちらブラヴォーチーム。応答どうぞ』


『こちらアルファ。通学路、異常なし』


『曲がり角、クリア』

『学校の門までの道路、クリア』

『途中の空き地、クリア』


『よし、作戦開始』


P.T.A達は黒い強化スーツに身を包み、

子供の死角から学校までのルートを確保する。


『こちら、コードネーム"マルエツ"。車の通行規制完了』


『"セイユウ"了解。間もなく児童が通ります』


『"ライフ"、児童の道路通行を確認。全員が学校に入ったのを確認』


生い茂る街路樹に身を潜ませた主婦は双眼鏡で学校の様子を確かめた。

学校上空に旋回するヘリからは、熱探知ゴーグルで児童が教室に入ったのを確認。


『"イオン"、生徒全員の教室入りを確認。作戦終了。繰り返す、作戦終了』


この一言とともに、秘密特殊部隊P.T.Aはそれぞれのマスクを脱いだ。

そこからはP.T.A会長の家におしかけて高貴なるお茶会が開かれた。


「今朝も無事届けられたわね」

「いつまでたってもこの緊張感は慣れないわね」

「最近は不審者が多いし、私達がしっかりしないと」


授業が終わるまではP.T.A達にとって唯一の安息の時間となる。

そして、各々のリラックスタイムが終わり、

下校時間になると夕焼けとともにP.T.Aは再び出動する。


『こちら"ビッグエー"。コードレッド。

 空き地でなにかもめている様子。すぐに出動してください』


無線が入ると、全員が自動小銃を持って空き地に突撃した。


「ムーブ!! GOGOGO!」


「クリア!」「クリア!」「クリア!」


「全員、動くな!! 頭を後ろにして、女豹のポーズ!!」


銃口を突きつけられた小学生たちは慌てて地面にひざまずく。


「あ、あの……」


「なにをしていた! ここで何をしていた!」

「僕たち……」


「早くいえ!! 言わないと撃つ!!」


「僕たちちょっとじゃれあっていただけですっ!」


「本当だな?」


P.T.Aはからかわれていた男の子に話をうかがう。


「彼はこう言っているけど、本当に遊んでいただけ?」


「う、うん……」

「お母さんに誓って?」


「うん、本当にふざけていただけだよ……」


「こちら"イナゲヤ"。コードグリーン。問題は排除された」


無線を聞いたP.T.A隊員たちはほっと胸をなでおろした。


「ああ、よかった。自分の子供がいじめられてたらどうしようかと思ったわ」


「あの、お母さん」


「それじゃ帰るわよ。帰り道はお母さんがクリア!してあげるから」


イナゲヤは曲がり角を特に注意しつつ、

怪しい場所には手榴弾をなげてなにもないことを確認して家に帰った。


「はぁ……今日も疲れた……」


家に帰って、重い装備をやっとおろして一息ついた。


「……おかえり」


「あら、あなた。今日はずいぶん早いのね」


「早いのね、じゃないよ。飯も風呂も掃除も、なにもしてないじゃないか」


「P.T.Aで忙しかったのよ。そんなに気になるなら、あなたがやればいいじゃない」


「こっちは仕事で疲れてるんだ!」


「私だって、子供を守る立派な仕事をしてるわよ!

 なのに、そのうえ私だけは家事をしろっていうの!?」


「そっちが本分だろ!」

「決めつけないで!! もういい!」


イナゲヤはその日夫と口を聞かなかった。


翌日も朝早くからP.T.A達による厳重かつ完璧な警備網がしかれ、

生徒たちは無事学校まで送り届ける任務が完遂された。


「……イナゲヤさん?」


「あ、ごめん。なに? ぼーっとしてた」


「どうしたの? なんだか今日はずっと表情が浮かないわ。

 明日の学習発表会の警備会議のときだって上の空だったじゃない」


「実は、夫とケンカしちゃったのよ」

「旦那さんはなんて?」


「P.T.A活動だけじゃなく、家事もやれって。

 私は家事機能付きの子守りアンドロイドだとでも思ってるのかしら……」


「みんな、集まって! コードレッド発令よ!」


P.T.A会長が言うと、時間外の招集に隊員は驚いていた。


「いったいどうしたんですか? 生徒はまだ授業中のはず」


「イナゲヤさんが家庭崩壊のピンチよ。

 子供の窮地を救うのがP.T.Aの仕事、そうでしょ」


「そうね、離婚は子供にとってよくないわ」

「みんなでどうすればいいか会議しましょう!!」


P.T.A隊員たちによる緊急対策会議が行われた。


「どうして男はわかってくれないのかしら」

「前頭葉に1発ぶちこめば少しはまともになるんじゃない?」

「一度、体を入れ替えればいいのよ」


様々に有意義なコメントを受けた結果、

知恵袋に投稿されたベストアンサーが採用された。


「わかったわ、私、ちゃんと話してみる!」


イナゲヤはその夜、夫をリビングに呼び出した。


「どうしたんだ、急に話があるって」

「座って」


テーブルにはP.T.Aの活動やタイムテーブルが広げられていた。


「私、思ったの。あなたはP.T.Aの活動を知らなすぎているって。

 だから、どれだけ忙しくて、どれだけの時間が取れているか

 それをわかってもらおうかと思っているのよ」


「お、おお……?」


「まず、言わずもがなだけど、通学時間は警備しているわ。

 朝の警備が終わったら、夕方まで買い物と作戦会議。

 夕方には下校警備。その後は、塾までの警備をしなくちゃいけないの」


イナゲヤはびっしり書き込まれているスケジュールを指さし伝える。


「ね? 時間なんて無いの。むしろ、私は塾警備を隔週にしてもらっているぶん

 ほかの隊員よりは楽なくらい。

 でも、次は"サミット"さんが産休に入るから、シフトも忙しくなって……」


「わかったよ、増やしていい」


「え!?」


本当は主婦業をおろそかにするな、などの反論が来るかと思っていた。


「これからもっと忙しくなるし、

 君も本当はもっとP.T.A活動を頑張っていきたいんだろう?」


「え、ええ! どうして!? わかってくれるの!?

 昨日はあんなに反対だったじゃない!」


「実は……昨日のこと、会社の同僚に話したんだよ。

 そして、君がどれだけ家を空けて頑張っているのか教えられてね」


「それじゃ……!」


「ああ、好きなだけP.T.A活動をするといい。家のことは任せろ。

 前に行きたがっていた休日警護も行っていい」


「ありがとう! わかってくれて嬉しい!!」


次の日の休日、息子のサッカー大会のため、イナゲヤは早くに家を出た。


「あなた、家のことはお願いね」

「ああ、まかせろ。しっかり、目を離さずに安全を守ってくれ」


妻を敬礼で送り出した。






『こちらコードネーム:"ワタミ"。ターゲットの外出を確認・

 愛人誘導開始。繰り返す、愛人誘導開始!』

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