【拝啓 いつかの自分へ】

抹茶

いつかの君へ


――『大人』に、早くなりたいな。


 そう思ったのは何時いつからだっただろうか。気付けば当たり前のように心の中にあって、ふとした時にそう思った。

 

「そうだね、早く大人になれないかな」


 なんて思って、少しだけカッコつけてみたよ。ほら、見て。優しく微笑んで、「凄いね」って褒めてくれた。

 違うんだよ。違う。早く大人に成りたいから、≪似ている≫じゃダメなんだ。


 だからほら、精一杯慣れないことをして・・・・・・自分を認めてもらいたくて・・・・・・また困ったような笑みを見てしまう。

 

――それが、『楽しい』んだ。


 僕が何かをして、それを君が笑って見てる。

 僕が何かをして、君は笑顔で「凄いね」と言ってくれる。

 僕がふざけて、君を怒らせて笑ってる。


――水晶のように透き通った記憶には、楽しいがたくさん詰まってるよね?


 まるで、息を吸うように君が隣に居るのが当たり前だった。こんな日々が、永遠に続くと信じていたから。

 

――『大人』になりたい?


 成りたい。


――じゃあ、【君】とは別れないと。


 嫌だよ。僕は君が居ないと楽しくない。


――だって、『大人』になりたいんだろう?


 ほらね。そうやって悩んでるうちに、僕は巣立つ時が来てしまった。長いように感じる9年間の日々なんて、僕のちっぽけな悩み事を解決する時間すらくれやしない。

 だからほら、君と別れた道に進み、僕は何も残らない。


 君から貰った笑顔。

 君から貰った活力。

 君から貰った悲しみ。

 君から貰った嬉しさ。

 君から貰った怒り。

 君から貰った強さ。

 君から貰った弱さ。


――君が居ないと、何も残らないんだ。


 君から貰った全部は、君が居ないと何も起きない。魔法の力みたいに、僕は生きる道を無くしてしまった。

 後ろを見れば、輝く君の笑顔で見えるよ。


――戻りたい?


 うん。戻りたい。


――戻れないよ。


 もう、戻れない。

 あの時に見つけた二人だけの秘密基地も、近くの公園も、おもちゃも、何もかもが今は【思い出】になってしまった。


 例え今が長く暗い時間だとしても、その中の輝きを忘れてしまってはいけないんだよ。

 僕は僕であるために、これを君に渡したい。何時かきっと、それが何かを運んでくるから。


 


「ほら、今を生きる君。忘れてはいけない。君が今当たり前のように話している友達が、あとたった少しの時間で目の前から居なくなってしまう。『大丈夫』なんて言葉は無いんだ。泣いても、泣いても、どれだけ悔んでも後戻りは出来ない。【今】こそが君たちの全てなんだから、何かを躊躇ってはいけない」


――それが、自分で選んだ道だ。


「そんなのどうでも良いよ。違うんだ。違うんだよ。大切なのは、そんなものじゃない」


――『君が今、考えうる中で最も幸せな生活で居られているか』


「それだけが君たちの全てで、心に留めていて欲しい言葉。ほら、周りを見て。君の近くにも、きっと誰か居るから」


――後悔はしない。


「そう。絶対に、後悔しないように、ね」

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【拝啓 いつかの自分へ】 抹茶 @bakauke16

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