夢を叶える神社

 私は神社の前に立っていた。赤い鳥居がまるで、通り過ぎる人たちを品定めするかのように大きく立ちはだかっている。その中を、たくさんの人たちが通り過ぎていく。身なりも、精神もボロボロになっていそうな人、至極嬉しそうな表情で通り過ぎていく人。様々な境遇の人たちが、同じ鳥居を通り過ぎていく。

 鳥居の先には、3メートルくらいはありそうな大きな朱色の扉がある。扉は両開きで、大きく開け放されている。扉からはまばゆい光があふれ出てくるばかりで、扉の先に広がっているであろう神社の風景は全く見えない。あふれ出てくる光で先が見えないのが不安なのか立ち止まる人、先に広がる風景を想像し、スキップをしながら扉を通り過ぎていく者、様々な人がいる。

 私はふと、神社に入る道の直前にあるお店に目がいった。お店には様々なお守りや、お守りを模した雑貨など、キラキラしたモノが並んでいる。私は、ふらふらとお店の方へと歩を進めた。店に近寄る最中、1人茶髪の青年が話しかけてきた。

「姉さん姉さん。今はお店を見てる場合じゃないよ。先へ行かないと」

 おそらく青年の言う先、とは神社のことを指すのだろう。しかし私は神社へ行くことよりも、先に店を覗きたいという気持ちが勝っていた。

店員さんは、黒い長髪の美女だった。店員さんが素敵な笑顔をこちらに向けて手招きする。私はそれに誘われて、店先までやってきた。先ほどまで遠くに見えていたキラキラした商品を目の前にして、私の心は踊る。

 魅力的な商品が多すぎて、私は店の前を行ったり来たりする。幸い、持ち合わせはある。しかし欲しいものすべてを買うほどのお金は待ち合わせていない。

 私は欲しい品物をより分けていく。その様子を店員さんは、ニコニコと眺めている。

こんなに素敵な雑貨屋さんなのに、どうして他の人はこちらに寄り道せずに、神社へと向かうのだろう、そんなことを思いながらふと、先ほどの神社へ通じる扉の方へ目を向けるといつの間にやら、扉は閉まっていた。あれほど大きな扉が閉まるなら、大きな音が響きそうな気がするのだが。商品を見るのに夢中になっていたからだろうかと思って品物に目を落とすと、品物が手元からなくなっている。見れば、先ほどまでニコニコ見守っていた店員さんが私の持っていた商品含め、さっさと片付けを始めているのである。

店員さんは私に、先ほどまでの笑顔が嘘のような鬼の表情で、

「あんたは乗り遅れたんだ。さっさと帰んな!」

という。すると、扉の方からすっと先ほど声をかけてきた茶髪の青年が出てくる。茶髪の青年は、私の目の前で白い狐へと姿を変える。狐は私のそばまでくると、私を見上げて言う。

「残念でしたね、姉さん。あなたは今回も、

向こう側へ行くことができませんでした。」

今回も、と言う言葉に首をかしげる私に、狐は扉の方を向いて言う。

「扉の先へ行った人、行かなかった人。二種類の人たちには大きな違いがあります。それは、自分の夢を叶えられるかどうかです」

ここで言葉を切り、狐は続ける。

「恐れずまっすぐ扉を抜けた人たちは、自分の夢を一途に追える人。迷いながらも扉を抜けた人もまた、夢を叶えるだけの実力と器を持つ人だ。けれど、貴方のように、寄り道や目先の欲にかられてしまう人は、本来の目的を忘れ、本当に叶えたい夢を叶えることができない」

狐は再び私の方は向き直ると言った。

「またの挑戦をお待ちしております。今度貴方が夢に近づける時がいつなのかは、存じませんが」


私はそこで目が覚めた。なんだ夢かと安心しながらも思案する。あの扉の先には、どんな世界が広がっているのだろう。あの扉の前まで行くのにも、たくさんの資格や条件が必要なのだろうか。だとすれば自分は、とんでもない失敗をしたことになる。

終わったことをとやかく言っても仕方がない。そう思いながら私は気持ちを新たにする。自分の夢と向き合い、再びまた、あの世界を訪れ今度こそ、扉の先へ行くことを。

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よしなしごと奇譚 工藤 流優空 @ruku_sousaku

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