初鰹(2019年5月1日)
「おっ……おお、サバっ」
「サバですね、今日は」
「いやぁ、サバだなあ」
「せめて酢があるとねえ…」
「しめサバ?好物だったなあ…」
「『だったなあ…』って…」
「だってもう食べらんないでしょう」
「酢か…」
「酢ですよ」
「…………」
「…………」
「あ!こっちもきた!」
「サバかな?」
「いや、これでかいですよ……っっと!」
「うわあ、でかい!」
「サバだ!」
「りっっぱなサバ!」
「立派なサバでしたっと」
「今日はほんとにサバですね」
「……いっぺん刺身で食べてみますか」
「マジすか?食べられんですか?」
「いや、サバがよく穫れるところでは生で食べたりするんですよ、福岡とか」
「へえ…」
「こっちゃあ今ここでまだ生きてるサバ、こんだけいんですから」
「いいっすねえ」
「塩焼きと干物と刺身しか選択肢ないわけですから」
「やってみないと、と」
「やってみないと」
「いやぁ、俄然やる気出てきた」
「これでアジとか、ましてタイなんてきちゃったら…」
「三点盛りで」
「三点盛りですよ」
「…………」
「…………」
※
「…………」
「…………」
※
「…………」
「…………」
※
「…………」
「…………」
「ふわぁ…」
「冬のこと思えば穏やかなもんですね」
「ねえ……」
「いやぁ……」
「…………」
「…………」
「ふふっ…」
「……?」
「いや、自分がこんなアウトドアになるとは思わなかったなあって考えたらおかしくて」
「わかんないもんですねえ」
「わかんない」
「こんなにサバ食べられるとも思わなかった」
「サバ缶ならまだしもねえ…」
「新鮮なサバを」
「ピッチピチの」
「味噌煮ができるといいんですけどねえ…」
「味噌かあ……」
「味噌ですよ……」
「…………」
「…………」
「少し場所変えますか」
「そうしますか」
「ぃしょっと…」
「ああ、腰いたい…」
「うわあ!」
「うお、びっくりした、どうしたんですか急…うおお!」
「おお、危ない。いつからいたんだろう」
「というか、どこから来たんでしょう…おおっと」
「とりあえずロープかなんか持ってきます!」
「気をつけて、向こうにもっといるかもしれない」
※
「よしっと。これでとりあえずは…」
「それにしても、よくこんなところまで…」
「ねえ……」
「…………」
「…………」
「さっきから思ってたんですけど…」
「やっぱりそうですかね…」
「いや、これはそうでしょう…」
「マジすか……」
「間違いないでしょう」
「生で見たのはじめてです…」
「同じく…」
「え、ほんとに!?」
「本当…でしょう」
「東京から、なんていうか…いらっしゃったんですかね、お歩きになって」
「う〜ん、正確にどちらにいらしたのか…まあでも、東京か…」
「マジか……」
「本当にみんな感染したんだなあ…」
「っていうか、ど、どうして…差し上げる?というか…」
「まあ、来た時のことは考えてはいましたけど…」
「普通のが来ることしか考えてなかったですよね…」
「まさか、よりによってお越しになるとは…」
「こんなことありえるんですか?」
「実際起こっちゃったんだから、あり得たってことでしょう…」
「万が一どころじゃないですよね」
「億が一ですね、文字通り」
「首飛ばしたり、地面に埋めたり……」
「できるわけないでしょう…」
「ですよね……」
「…………」
「…………」
※
「…………」
「…………」
「落ち着かないですね」
「う〜ん…」
「めっちゃご覧になってますよ、こっち」
「ただもう、ああしとくしかないでしょう」
「森の中とかに移動していただくとか…?」
「それもまたなんとも気が引ける…」
「置き去りにするみたいですもんねえ…」
「慣れるしかないんじゃないですかね?」
「マジすか」
「マジですとも。こうして魚釣って暮らしてるのだって、慣れたじゃないですか」
「まあ、そうですけど…」
「我々は恐ろしいほど何にでも慣れていくってことが、良くも悪くもわかりましたよ、ここ半年ぐらいで」
「なんか悲しくなってきますよ」
「生き残っちゃったんだし、サバ食べて生きるしかないでしょう。見守ってもらえてると思って」
「はぁ……」
「…………」
「あ、きた」
「お?」
「おお、すごい引き!」
「いや、これはちょっとすごいですよ」
「おお、やばいやばい!」
「気をつけて!」
「うわあ、これは……」
「サバの大きさじゃないですよ!」
「でかい!」
「いやあ、これは強敵だ!」
友だち億人できるかな @kich
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