第6話 旅立ち

「かはっ!! もう無理だ!!」


 クリーシャが仮面から出てきた。


(ハハッ! お前、めちゃくちゃだな! 光の強弱やら角度から引き算して、影を立体的に認識しやがった! 強引ったらありゃしない!)


「何だ、こうやるんじゃないのか?」


(視点を変えろとは言ったが、そうじゃない。"光の世界"から影を感じるから、無駄な労力を使うんだ。"影の世界"から影を感じるんだ。って言っても、地球から転移してきたお前には難しいだろうが。)


「影の世界? 物に反射した光が目に入るから、その物が見えるんだろうが。」

 

(まぁいい、最初は自己流でやれ。私が教えてもできないよりかは、まだましだ。)


「ああ、言われなくてもそうするよ。とりあえずは、使えるようになったし、追手はこの時間になっても、追ってこない。ひとまずは安全だ。エデンの基礎的なコンテンツとやらを手に入れて、この世界の全容を早めにつかんでおきたいところだが、またあいつらにあっても危険なだけ。ひとまず、ここに滞在して、クリーシャをある程度使えるところまでもってこよう。」


 しかし、それより、だ。

 産まれてきたこの妖精に、あの謎の声。

 何よりそれらの原因をつくった、"ポット"。


 俺は何をやっていたんだ。

 ただの情報収集だけの端末として見ていたが、間違っていたみたいだ。

 だが、そのポットはもうなくなってしまった。

 ミナもまだ眠っているし、クリーシャに聞くしかないか。


「おい、クリーシャ。ポットのことなんだが・・・」


(ああ、聞こえている。いちいち言葉にしなくても、お前と私はつながっているんだ。)


 そうなのか、ミナの能力と似ているな。


(ポットのことだが、私は何も知らないぞ。その謎の声とやらのこともだ。なんせ、私は産まれたばかりの"芽"だからな。エデンのネットワークにはアクセスできるが、私は一つの個体だ。)


 なるほど。

 そういう設定なのかもしれないが、もともとポットとやらも人それぞれ固有のものでありながら、他とつながる媒体であったのかもしれない。

 そもそもポットは、その人にとって一番大事なものに触れなければならなかった。

 それは、また自分自身の形見でもあるということ。


 ポットの起源や、あの謎の声のことが解決できたわけじゃない。

 しかし、仮面に宿ったもう一人の自分、クリーシャ。

 そして、エデンの大地から授かった能力、"クリーシャ"。

 罰のこともあるし、このクリーシャに関しては、自分のものとして考えても良さそうだ。


(ああ、伝え忘れていたが、私が産まれてきて、エデンの果実についての情報が更新されてだな。見てみるか?)


「情報更新? 成長すると世界の幅が広がるのか、おもしろい。見せてくれ。」


 クリーシャが手を前に広げると、画面のようなものが出てきた。


 ハハッ、こうなるのか。

 えーっと。


――"エデンの果実"、通称"フル"

 この世の生物には、必ず一つ"フル"という能力が贈られる。

 フルは、芽→花→実へと成長、性格や鍛え方の違いで進化していく。

 しかし、その代償として、一つ罰を与えられる。

 罰は、一生をかけて償っていかなければならない。


「なるほど、つまり、この世界では、フルをどう攻略していくかが鍵になってくるわけだ。でも、ちょっと待てよ。償わなければいけない罰を、俺は知らない。」


(罰は本人には知らされないみたいだ。だが、お前はもう罰を背負って生きている。気にする必要はないんじゃないか?)


 それもそうだ、ってことは、今は、"クリーシャ"の習得に専念するべきか。

 

 俺は、ミナの顔を覗き込みながら、起こさないように静かな声で言った。


 「ミナ、俺は強くならなくちゃいけない、この世界でも生きていけるように。そのために、もう一度深淵の森に戻って、自分の力を力として使えるようになるまで特訓するつもりだ。俺らしくないことを言ってしまった。それじゃあ、またどこかで。」


 短い言葉を残して、その場を後にした。


 俺は、変われるかもしれない。

 この世界に来て、初めて希望というものを感じた。



 ダースは、深淵の森へと旅経った。

 そして、彼の始まりの物語は、今、幕を閉じる。



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ハッタリだけの騙し討ちで異世界無双!~ダメージ0の能力を授かった最強のスパイ~ とりうみ @storyman

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