第8話 そして今

「──って訳よ!」


 紅潮気味に、『パーラースワートローム伝記』と言う分厚い本を読み切ったあと、少女はパタン☆と本を閉じ、同時にそう言ったのだ。

 そんな彼女を見て、ヴィータとピム、それにアリサとオルトーが互いに顔を見合わせ、肩なんか竦め見せている。


「ねぇ、アーシャ。何が『──って訳』な訳?」

 ヴィータが呆れ顔にそう聞いてきた。


 アーシャと呼ばれた少女は、ヴィータの余りの飲み込みの悪さに、うんざり顔をしたあとため息をついた。

「わかんないの? 普通、解るでしょ? こんなの常識でしょ!」

「だから何が普通なの? 急に語り始めたかと思えば『――って訳!』って言われても、こちらとしては意味不明だし。このままだと、ただの変態にしか思えないわよ?」

 次に、アリサがあからさまな不機嫌顔でそう言ってきたのだ。


 そんなアリサからの問いを受け、アーシャは仕方なさそうに答えた。

「要するに、これに書かれてある救世主ってぇ~のはぁ~《カリウス様》の事よ!」


「「「…………」」」


「な――……なによ? その無駄に長い沈黙は!?」

 随分と長い沈黙を受け、アーシャは頬を染め、動揺した。


「だって、そりゃあ……沈黙くらいするわよ。別にそんなの、今さら驚かないし。改めて言う程のこと?」

「意義なーし」

「……ぅん」

 アリサが困り顔に呟き言い。ヴィータが続いて、そうハッキリと言い。オルトーはオルトーで、何のフォローもしないで頷いている。


「だ――だな! だよな! オレもそう思うよ! わはは!!」

 遅れてピムまでもがそう言い始め、しかも一人でウンウンと頷いていた。


(まあ、ピムの場合はどうせ、単によく分かってないだけなんだろうけどね?)


 アーシャは、そんな調子のピムを呆れ顔に半眼に見て、こう言ってやる。

「バっカねー! これって、いわば予言してんのよ! 凄いとか思わないの?」

「確かに、凄いことなのかも知れないけど……。だけど、カリウス様は統治もしていないし。三百年よりも、随分と登場するのが早くない?」


 早い?

 あ――……え? 


「……あ、あれ? おかしいな。計算が微妙に合わない……」

「合わない、って……アーシャ」

「もしかして、オルトーから今言われるまで、気付いてなかったっていう、落ち?」

「ハハ。まあいいじゃない、だってアーシャってさ。昔からどこか抜けたところがあるから、仕方がないよ。

なにせホラ、天然だしさ♪」


 そう言われた途端、アーシャの目が点になる。そして、

「誰が間抜けな、天然よっ! このバカ、オルトー!!」

「――ええっっ?! なんでそこで、ボクに来るんだよ??」


「アンタに言われるのが、一番腹立つのよねー! そもそもアンタだって、大ぶりの天然者でしょう?!」

「え? ボクも天然なの? 今まで自覚なかったけど……」


 そんなオルトーの返答に、アーシャは呆れ顔を見せている。

 

 そんな中、アリサはポツリと零した。

「アーシャにオルトー……二人とも、なんだか凄く仲が良くて、羨ましいな」

「「――羨ましくなんかないっっ!!」」


 そうした最中、ヴィータはアーシャからそれとなく《伝記書》を受け取ると、ある一節が書かれたページを開いていた。


 そこには、こう記されている。


『一光の時節が過ぎ、その種はやがて息吹出し。されど大戦が始まる、その時。神の選びし者と、その神魔の如き輝きをたずさえし者、現れ。この地に、長い安寧の時代をもたらすであろう──』



 ……三百年後といえば、よくよく考えてみると、私たちが生まれた頃になる。

 もしかすると、この中の誰かが、なのか……それとも他の誰かがなのか、それは未だに分からない。

 でも、アリサこと、アリサーヴェルジュ・ロイフォート・フォスターと。オルトー・オルシスの二人を、この大地の宗教母神パラ・ファームスウィートの像が、優しく見下ろしていた……気がしないでもない。


   ──アーシャ・ロゼンティーニ──



    『パラド=スフィア物語②』

       ―フォスター―【完】


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〖パラドスフィア物語②〗 フォスター みゃも @myamo2016

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