第12話 天使の銃
「……どうして?」
私の問いに、こなみんは答える。
「もう、戦う理由がないからでしゅ」
言葉通り、こなみんの手から大鎌が消え失せる。
私は持っている銃をどう扱えばいいか分からず、わたわたした。
当たり前だ。生まれてこのかた、銃など撃ったこともないのだから。
「……あなたは、銃を撃ったことがないのでしゅね」
呆れたように、こなみんはいう。
何こいつ、やっぱりムカつくやつだ。
「……ほとんどの人はそうでしょう?」
「そうなのですか。ボクは外の世界のことは、よく知らないのでしゅ」
こなみんは私を銃越しに「ぐっ、ぐっ」と力を入れ姿勢を正させた。
「いいでしゅか、銃は決して銃口を人に向けてはいけません。たとえ弾が入っていなくてもでしゅ」
槍の穂先の様に長い銃口を、私は天に向けて突きつける様に銃を持ち替えさせられた。
「必要のない時は、アイテムボックスに入れておくといいでしょう」
そのアイテムボックスが今使えないんだけど。
まあ、それはさておき。
もしかしてこなみん、私に銃の使い方をレクチャーしてくれている……?
「ボクたちは当たることが確定してから銃を撃ってますが、本来弾はどこへ飛んでいくかわかりません。あまり過信はしないように。それと……」
「ちょっ、ちょっ、ちょっ」
話が急展開しすぎて、頭がついていかなかった。
「待って待って。急にどうしたの。どうして戦うのやめたの?」
別に戦いたいわけじゃない。でも、訳がわからなかった。
「言ったでしょう、ボクはもうあなたと戦えないのでしゅ」
「……だから、どうして?」
「あなたが、人間の可能性が濃厚だと分かったからでしゅ」
「ああ、なるほど」
それまで黙っていたリオが、ポンと手を打った。
「七言の短冊を使ったから?」
「そのとおりでしゅ」
「話が見えないんだけど」
「正確には、あなたの短冊はNPCも使えるように調整された特別なものでしゅ。そんな労力をかけて作られたものを持っているあなたが、NPCであるはずがない」
「あーはーん?」
リオが声を上げる。その瞳にものすごいきらめきが見えた。
何かに気づいて、有頂天になっている、という感じだ。
「あたし、分かっちゃった。そういうことねー」
「なにが?」
「だ・か・ら、は・ん・に……ンーッ!!」
人間に手を出さないはずのこなみんが、リオの口に思いっきり掴みかかる。
「リオさん、それ以上は言わないでくだしゃい」
「んー、もがー!!」
「これは高度に政治的な判断が求められる重要なことなのでしゅ。最重要機密事項というヤツでしゅ。リオさんにそのことを話されたら……」
「もぐ……もぐ……」
リオは観念したようにおとなしくなる。
二人の間に共通する認識が生まれたようだった。
それが分からないのが、私はもどかしかった。
「ちょっとー」
「もが……ぷはっ、あ、ごめんね、リコ。除け者にしちゃって」
「べつにいいですけどー」
「すみませんね、リコさん。リオさんのいる前でこの話はできないのでしゅ。なにせリオさんは、……もが」
隙の無いはずのこなみんが、リオに口を思いっきり塞がれる。
「しーっ!!(駄目よ、こなみん! あたしまだあのこと、リコには話してないんだから!!)」
「もが……もが……(相変わらず、悪趣味でしゅね)」
再びアイコンタクト。もしくは私の知らない意思伝達手段でもあるのだろうか。
「ふーん、二人は仲いいんだー」
「うん、まあねー」
「リオさん、それは地雷でしゅ」
まあ、いいですけどー。
「そういえば、こなみん」
「はい、なんでしゅか、リコさん」
「さっきの続き……私に銃の使い方、教えてくれる?」
「……」
「……」
ん……? 何この空気。私、何かまずいこと言った?
「そっか、リコはシステムに管理されてないから」
「いえ、管理はされてるんですが、サポートを受けていないのでしゅ。特殊なNPCでしゅから」
こなみんはコホンと咳払いする。
「リコさん、このゲームでは技術を学ぶには習うのではなく、『スキル』を購入するのでしゅ」
「『スキル』?」
このゲームで初めて聞く言葉だった。確か技能とか技術って意味だよね。あと資格とか?
「はい。詳しい説明は省きますが、スキルのサポートがあれば今のリコさんのような方でも、ベテランの兵士の様に銃を扱うことができましゅ」
「リアルマネー使うけどねー。課金要素ってやつ?」
「お金を使うのは時間を短縮したい人のみでしゅ、スキルを購入すための『スキルポイント』はイベントやクエストを消化するともらえましゅ。でもリコさんはそれらも受けられないのでしゅ」
「そうそう、でも裏技があって……」
「はい。スキルが無くても引き金は引けましゅ。つまりその人自身のスキルを使えばいいのでしゅ」
「なるほど! じゃあ、ちょっと今から射的場にいってくるー、……って無理! ここ日本だし!!」
「射的場がないなら、作ればいいじゃなーい?」
どどーん。
リオが魔法の杖を振るう。周辺の地形が変わり、遠くに的のある立派な射的場がそこに現れる。
「わあお」
「忘れた? ここはゲームの世界で、あたしは魔法使いなんだよー」
「そしてあなたの持つ銃、それはボクたち天使が扱う『天使の銃』と同じでしゅ。サポートは任せてください」
小さな体と手が、私と銃を一つの生き物として機能するよう、するすると導いていく。
スキルによるサポート、というものがどういうものなのかはわからないが、私はたぶん、こっちの方が好きだ。
「リコ、まずは正面の的。撃ってみて」
「はーい」
どおぉぉん。
魔法薬局(仮) まるかじり @oreomaemarukajiri
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