#ロボアニメのお作法

ハムカツ

第1話「出撃と外付け強化があればロボアニメ」



『ダークロウ、起きてください。現場に到着しました』



 最低の睡眠を、最高の声で遮られる。出来ることなら24時間連続で聞き続けたいのだがオペレーターな彼女はシャイで必要最低限の言葉しか口にしないのだから。



「オーケープリンセス。状況は出発時から変わったか?」


『首都警察は既に撤退済み。民間人の残留は確認されていない』


「オーライプリンセス、いつも通り何も気にせず戦っていいと」



 ガシャリと装甲トラックの内側に据え付けられた対物レールガンを装備する。我らなら人並み外れた筋力だとあきれつつ、20Kgに迫る重火器を2~3回上下に振って調子を確認なし。たぶんおそらく問題なしコンディションオールグリーン、生身の体に故障表示機30番のリレーなど存在しないが気分の問題だ。



『運悪く、あるいは警告に従わなかった民間人が死んでもあなたと私の気分が悪くなるだけですね。責任を取る必要はありません』


「オーケープリンセス、オーダーは承った」



 最初は彼女の遠回しなおねだりに辟易することもあったが、今ではもう慣れた。いっそのこと愛おしいとすら思えるのだから、人間変われば変わるものである。



「それじゃ、いつも通りに出撃だな?」


『はい、目標地点まで残り10、9、8……」



 戦場へのカウントダウンを聞きながら、俺は全身の装備を確認していく。夜間戦闘に特化したケプラー繊維のボディアーマー、顔面を覆うフルフェイスヘルメットもしっかりと接続され、そしてブーツの固定も差し込みバックルでばっちりだ。


 これから生身で時速120㎞オーバーの装甲トラックから放り出されるのでなければ鼻歌を歌いたい気持ちに成程ファッションは極まっている。



『6、5、4』



 炸裂ボルトが爆発し、ごうごうと夜の高速道路の冷たい風が兵員区画に流れ込むエアコンで温められた空気が一瞬で吐く息が白くまで下がりきった。



『3、2、1っ!』



 彼女の声と共に、俺の体が夜の都市高速に打ち出された。リニアカタパルトによる容赦のない出撃方法は、何度も文句を言っているのだが上は改める気が無いらしい。こちらとて生身の人間だ、効率がいいとはいえ毎度毎度こんな無茶をやらされていては気分が滅入る。



「それじゃ、行ってくるぜ。プリンセス!」


『はい、ダークロウ。貴方の戦果を期待しています』



 宙を舞う、当然生身の人間にはスラスターも姿勢制御装置もついていない。手足を振るい姿勢を整え、港湾地帯で暴れる怪獣に向けて落ちていく。今夜の獲物はどうやら虫型、足が18本、羽が6枚生えているが、大まかに虫扱いで許されるだろう。細かな分類に文句をつけるのはオタクか専門家の仕事であって、俺の仕事じゃない。


 片手で雑に対物ライフルを振り回し、照準器の内側に目標を捉える。発砲ファイア発砲ファイア発砲ファイア! オートマティックで60㎜の徹甲弾を発射する世界中で俺だけにしか使えないモンスターライフルが火を噴いて、虫型怪獣の装甲を撃ち抜いた。


 金属をすり合わせ、不快なエフェクトを重ねたものに近い絶叫が響き渡る。全長10mを超える怪物の声は、最早音響兵器と呼ぶに相応しい威力を発揮し、俺の表情をゆがめることに成功するが、それだけで終わる。



「さぁて、さてさて、出し物はまだ終わりじゃねぇぞ!」



 コンクリートの屋上に落下して、拳を振り下ろす四点着地スーパーヒーローがよくするアレから立ち上がり、怒り狂う虫型怪獣に対して次なる一手として腰から取り出した貫通手投弾ステイレットボンバーを投げつける。


 緑色の複眼を貫いたTNT換算で1トンを超えるエネルギーが、怪獣の頭を吹き飛ばし、緑色の体液が夜の倉庫に飛び散った。



「で、これくらいで死ぬなら――」



 ぐらり、と倒れそうになる体を無数の脚部が支えて立て直す。戦車や戦闘ヘリでカタが付く相手ならわざわざ俺が呼ばれることは無い。



「もとより俺が呼ばれることもないってか」



 規格外の怪獣、理屈を超えた怪人、理不尽を打ち砕く理不尽こそが内閣直属特例執行部隊に所属する唯一の戦闘要員であるダークロウの存在意義なのだから。



「いいぜ、クソ虫野郎。テメェが動かなくなるまで相手してやらぁ! プリンセス、次はヘビィクラッシャーの射出だ。アイツが体を半分吹き飛ばしても動けるか試してやるぞ!」


『ダークロウからの要請を承認、近接質量破砕装備ヘビィクラッシャーを発射します、受け取りに失敗すればビル一つ吹き飛びますのでご注意を』



 装甲トラックに仕込まれたウェポンベイから噴煙が上がり、総重量1トンを超える鉄塊が俺に向けて轟音と共に撃ち出される。完全に規格外、完全に既知の外側。シリンダーとその中央に据え付けられたハンマーが全てを打ち砕かんと迫る。



「了解! 今更そんなポカミスはやらかさねぇ、よぉ!」



 こちらに向かって当てずっぽうに振り下ろされた爪をバックステップで避けつつ、強引に据え付けられたグリップを握りしめ近接質量破砕装備ヘビィクラッシャーを受け止めた。何故身長188㎝、体重90㎏の俺がこれを受け止められるかは分からない。どうやら中学校の検定教科書には致命的な間違いがあるらしい。


 いつの日か、修正する必要があるなと思いつつ近接質量破砕装備ヘビィクラッシャーを振り上げながら飛び上がる。衝撃収束用のダンパーが取り付けられたただの鉄塊が俺の手にかかれば、破滅的な一撃として機能し、怪獣の胴体に叩き込まれる。



「ふっとべ…… よぉっ!」



 インパクトの反作用が再び収束し、破滅的な二連打が甲殻をぶち抜き、コンテナの群れとプレハブの建屋を蛍光色が塗りつぶした。どうやら威力が強すぎて霧散してしまったらしい。



『怪獣の機能停止を確認、お疲れさまでしたダークロウ。任務の完了です』


「なぁ、これ一応怪獣だろう? 飛び散った奴はどうするんだ?」



 手加減なしの一撃で霧散しまき散らかされた怪獣の体組織、万が一のことを考えるならここから再生する可能性も警戒した方が良い。怪獣や怪人といった化け物は俺と同じくらいには理不尽でどうしようもない存在なのだから。



『処理班が対応しますが、緊急時の保険としてダークロウは現場待機願います』


「だよなぁ、畜生。もうちょっと地味にやるべきだったかねぇ」



 外の空気を吸おうと、ヘルメットを外してあまりに生臭さに俺は再び眉を歪めた。どうやらあの怪物は、無敵のヒーローダークロウに対して二度もダメージを与える程度には強力だったらしい。



『はい、ですが。こんな時間でなければゆっくり話すことも出来ませんので』


「……はは、そう考えれば悪くはないなぁ。プリンセス」



 彼女は俺の言葉に明確な言葉を返さなかったが、恐らく笑みを返してくれたのだと思う。まぁ彼女は所詮戦闘支援AIで顔もなければ体もないのだが、それでも俺にとっては最高の勝利の女神なのだから。



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