日本人による日本人への日本人検定!

ちびまるフォイ

日本人なら求めがちなそんな要素

「それでは日本人検定の最終試験を行います。

 これに合格すれば、あなたは晴れて、

 日本人お墨付きの日本人です」


「はい、お願いします!」


「第一試験です。正しい対処をしてください」


コロッセオの檻が開かれると、

向こう側から「上司」と書い名札を胸につけた男がやってきた。


「やぁ、今日コレ行かないか?」


男は、おちょこで飲むジェスチャーをする。

この場において日本人としてふさわしい行動は。


「すみません、実は今日両親の見舞いに行く予定があって。

 また誘ってもらえますか?」


「おお、そうか。わかったよ」


上司と書かれた人はすごすごと去っていった。

採点者はパチパチと勢いよく拍手する。


「ブラボー! それこそまさに日本人!

 毎回、飲みに行ってしまうと仕事に支障が出るので

 自分の時間を確保しつつも、相手に止むを得ない理由で断る!」


さらに、両親を病弱設定にしたことで

今後「両親が急に倒れた」とかの仮病休暇が取りやすい布石となり、ボーナス加点。


「ときに上司を断り、ときに上司についていく。

 付かず離れずの距離感を保つ技術こそ、日本人らしさです」


「すばらしい。では、次はどうですか?」


次は空から同年代の女の子が降ってきた。

名札には「両思いの人」と書かれている。


「こ、これは……!」


「どうですか? 日本人として正しい異性のアプローチをしてください」


コロッセオを包む観客は次に何が行われるかを食い入るように見守る。


ほかの試験参加者は両思いであることから、すぐに告白へと踏み切る。

相手を待たせるのは失礼だという発想。


しかし、1人だけは違った。


「ちょっと、出かけようか」

「うん」


「あーーっと! ここでまさかのコロッセオからの退出!

 いったいどこへ向かうのか!?」


参加者のひとりは、ロマンチックな場所と、それらしい雰囲気を作ると

キャンドルに照らされた幻想的な場所で告白した。


まあ、両思いという前提で断られることはない。


その様子を中継モニターで見ていた観客は熱狂した。


「これこそ日本人だ!!」

「お互いの気持ちに気づきながらも、シチュエーションを整えて告白する!」

「段取りをしっかり守る姿勢こそ日本人らしさ!!」


大きな拍手に迎えられて、優等生の参加者は戻ってきた。


「まったく、あなたには驚かされますよ。

 コロッセオを出たかと思ったら、ムードのいい場所へ向かったんですね」


「日本人たるもの、こんなコロッセオで告白するなんて

 そんなムードもへったくれもないことできませんから」


「素晴らしい段取り力。では次の試験を――」


そのとき、コロッセオがグラグラと大きく揺れ始めた。


「じ、地震!?」


地面が割れてパニックになった観客が狭い出入り口に押し寄せる。

参加者も試験を中断して必死に脱出口を探す。


しかし、一人だけは違った。


「なるほどなるほど……! そういう構造か!!」


優等生だけは、こんな状況においてもまっさきにマニュアルを読んでいた。

そこに書かれている避難マニュアルの注釈まで読み込む徹底ぶり。


「みなさん、こっちです! そっちの出口はふさがっています!」


マニュアルを読み込み、その通りに案内する。


「なんていう日本人力だ……! マニュアルを完全に実践している……!!」


その圧倒的な日本力に他の参加者も息を巻く。

マニュアル通りの完璧で正確な誘導をしたそのとき。


「きゃっ!」

「危ない!!」


小さな子どもが地面の亀裂に足を奪われ転んでしまった。

その上に落ちてきたガレキを優等生は背中で受け止める。


「大丈夫かい……?」


「でも……でもお兄ちゃん……!」


「早く行くんだ……ここもそう長く保たない……!」


その美しく気高い自己犠牲シーンを見て観客は避難をも忘れる。


「自分を犠牲にしてでも誰かを助けるなんて……!」

「ジャパニズムを感じマース。セップク精神デース!」


重みで今にも崩れそうになったとき、ふと体への重みが消えた。

それどころか地面の亀裂も消えていた。


「日本人検定の参加者のみなさん、お疲れ様でした。

 隠していてすみません、じつはさっきの地震は最終試験だったのです」


「確かに地面は割れていたぞ!?」

「ガレキだって確かにあった!」


「みなさん覚えてないかもですが、ここは現実ではなく電脳空間。

 多少のムリやシチュエーションはいくらでも作れるんですよ」


全員がお互いの顔を合わせ、目を白黒させた。


「そして、最終試験ではピンチの時の対応力を見させてもらいました。

 最終合格点を超えた人は……ただひとりです!」


コロッセオの壁に被されていたカーテンが外されると、

そこには大きな文字で「合格者」と優等生の名前が書かれていた。


それを見てひがんだり、納得いかないと文句つけたりする人はいなかった。

誰もが優等生の完璧なる日本人対応に異論はなかった。


「どんなに窮地に陥っても、手順とマニュアルを熟知し行動する。

 これまでの成績も加味して、あなたが完璧なる日本人です」


「私が……日本人合格……!?」


「ええ、あなただけが合格者です。ほかはみな不合格です。

 胸を張っていいですよ、あなたは唯一の特別な日本人オブ日本人です」


コロッセオは拍手で包まれ、カメラのシャッターがいくつも切られた。

今回の検定で唯一の日本人となった優等生は言った。




「あの、私だけ目立つの嫌なんで、やっぱり不合格でいいです」

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