第45話
僕たちの刻は流れて――――
10月も終わりだというのに記録的な暖かさが続く。神奈川第三グラウンドでは高校球児達が汗をかきながら練習に励む。グラウンドの端でその練習を見学しているだけで汗が止まらない。ここで自分たちが練習してきたことがつい最近の出来事に思えてしまう。
毎年、アメリカから日本に帰ってくるとまずここに足が向かってしまう。河川敷にきて何かが変わるとか、パワーをもらうとかそんなことでは決してない。じゃあ何故きてしまうのかと問われると、昔はここで練習していたからと陳腐な答えしか出てこない。
「誠ちゃん来てたんだ」
ペットボトルを片手に持ったジャージ姿の猛に声をかけられる。陳腐な二人がグラウンドの外から野球を見続ける。彼ら二人がMLBのトップ選手など誰も気がつかない。
「横浜ドルフィンズにいた頃、誠ちゃんの頭にデッドボールが当たったことを覚えていない?」
ここは高校時代の思い出話じゃないと思いつつ
「広島の笹岡選手に当てられたことね」
「いやぁーあのときは誠ちゃんの首が飛んだと思ったよ! メットからボゴって音がして倒れたときはもう……」
「病院に運ばれて、元気なのに検査で大変だったし」
そのときの記憶が鮮明になる。
「院内で笹岡さんにあったとき真っ青になってたぞ」
「そうよね、150キロの早さで投げられた硬球が可愛い女の子に直撃だもの、後遺症が残ったら責任取って結婚させられると思うと青くもなるよ」
二人は笑う。
「あの後、別の意味で真っ青になったと彼から聞いたけどなんだったの?」
「僕に出来ることなら何でもするといったから、壊れたヘルメット代出してくださいとお願いしただけ」
「それだけで??」
首をかしげる。
「請求書の金額が200万円だったかしら」
口に含んだお茶を吹き出す。
誠スペシャルと呼ばれた特注のヘルメットは今では当たり前のようにプロ野球で使われている。このヘルメットを買えてようやくトッププレイヤーといわれるブランドヘルメットだ。頭部に当たっても殆どダメージを与えない画期的システムは、防具を一段階革新させた。
「その当時、年俸と契約金のほとんどを使って試作、考案していたからね」
あの忙しかった時期に自ら企画していたのかと驚く猛 。
「知らなかった……」
「女の子には秘密が多いものよ」
彼女は髪をなびかせながら高校球児を見続ける
「後、何年野球を続けることが出来るんだろう」
「今がピークだから数年活躍できれば」
冷たく答える。
「はぁーサイ・ヤング賞7回目で殿堂入りしたピッチャーが後数年ッて!」
「どんな選手にも終わりは来るし、投手の寿命なんてそんなものよ。自分だけ特別と思う方がおかしいわ」
長年連れ添った
「でも僕はあと十年は頑張らせてもらうわね」
どや顔で答えた。
「俺が引退したら誠ちゃんもいっしょに引退だろォォォォォ」
「日本に帰ったらポンコツでも僕なら使ってもらえるよ」
しかめっ面した猛は可愛い。今飼っているマルチーズのポチコにそっくりだ。
空には綺麗な鱗雲がたなびく。その空に向かって白球が溶け込む
「誠ちゃんは次に生まれ変わるとしたら何になりたい」
そういってペットボトルを僕に差し出す。
「プロ野球選手――」
完
※ 新作始めました 『勇者の友人は引き籠もり』
ttps://kakuyomu.jp/my/works/16816927859869287088
転生野球~僕はどうしてプロ野球選手になれないんだろう…それはね生まれたときから神様が決めていたことだから~ 山鳥うずら @yamadoriuzura
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