3:煽り運転

 運転をしていれば必ず出会うもの。そのうちのひとつとして煽り運転があります。

 ただし今回は僕が煽り運転を受けたのではなく、目の前の車が煽り運転をしていたときの話です。

 前の車はそのさらに前の車にこれでもかと近づき、ぴったりと張り付き離れません。田舎なので片側一車線の道が続いており、ウインカーを出して路肩に停車し避けることも難しい状況でした。

 というか煽られている車の速度もそんなに遅くはないのです。僕の感覚では。僕の正義では。

 それなのに前の車はなぜそんなに相手に圧力をかけ、ストレスを与えるのか。

 煽られている相手の気持ちがわからないのでしょうか。

 自分が煽られても嫌ですが、他人がその理不尽にあてられているのを目の前にするのにも同様に憤りを覚えました。


 だから僕はアクセルを踏み、目の前の車に急接近したのです。


 僕は基本的に煽り運転はしたくなかったのですが、煽られている車のため仕方ありません。

 どうだ、これが煽られている感覚だ。嫌だろう。ストレスを感じるだろう。焦るだろう。

 お前がやっているのはこういうことだ。

 だから今すぐその煽り運転をやめろ。

 そんなことを念じながらハンドルを握る僕の顔は、少し笑っていたと思います。

 ところが、僕の警告、啓蒙、警察活動にはまるで反応をみせず、前の車は煽り運転をやめませんでした。

 僕はため息をつき、わからず屋め、と後部ガラスから見える運転者の影を睨みました。

 するとどうでしょう。前の車はついに左折してものすごいスピードでどこかへ走り去っていきました。僕の鋭い目つきが刺さったのでしょうか。そんなわけはありませんが。

 結局煽り運転はやめさせられなかったなあ、なんて思いながらも、その言葉とは裏腹に僕は少しの達成感を得ていました。




 また別の日のことです。以前同様軽トラが現れました。以前同様とは、軽トラが制限速度以下で走っている状況のことです。

 遅いなあと思いながらも、今回は煽り運転はせず、おとなしく軽トラのあとをついていました。

 そうやってしぶしぶゆっくり運転していると、後ろの車がだんだん接近してきて僕が煽られる形になりました。

 はいはい、わかるわかる、前の軽トラ遅いよね。前に詰めてあげた方がいいのかな……

 そのとき気づきました。

 以前自分が煽り運転をしたとき、前の車は同じことを思っていたんじゃないのだろうか、と。

 僕が煽り運転をしていたあの車に接近したとき、あの運転手は「そうだよな、やっぱり前の車遅いよな」と、仲間を得たような気持ちになっていたんじゃないだろうか。

 それによって自分の行為は正しいと、認められるものだと思ったのではないだろうか。

 僕の思惑とは逆に、煽り運転を助長してしまっていたのではないだろうか。

 と、あの日の光景を思い出しながら想像を膨らませました。

 その想像を、いまじゃなくあの時できればよかったのに。

 僕は後悔しました。




 誰かを助けるために……いや、見過ごせない行為を指摘するために、人の気持ちに立ってみろと同じ行為をして与えることが、むしろ相手への助長になる。

 腹が立ったから殴った、そして殴られて腹が立ちその報復に殴れば、腹が立ったから殴る行為は容認されてしまう。

 目には目を、歯には歯を、なんて言いますが、それで罪を裁いたとしても行為そのものは裁けないのかもしれません。

 だから僕は、そうやって煽り運転をすることはもうやめようと思います。

 そうこう考えているうちに今日も無事目的地に到着したので、ここまでにしておこうと思います。

 今回は、運転時の出来事とその考察がぴったり当てはまっているわけではないですが、報復について考えるきっかけにはなりました。

 煽り運転と報復の話でした。ありがとうございました。

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車道にて 空岸なし @sorakishi

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