南雲静佳は染まらない(仮

東京廃墟

パレットの隅にいる2人

夕焼けが教室を赤く染める中、窓際で頬杖をつく南雲さんの肌は雪のように白く、肩まで伸びた黒い髪は光さえ通さない闇のようだ。

私の眼に映ったその光景は、私とは違う彼女への密かな憧れを加味したものだと思う。

私は赤や青、多彩な色をゴシゴシと筆で混ぜたら結局どの色にも合わなくて、カンバスにのる事なくパレットの隅で固まるだけの醜い地味な色をしているから何にも染まらない南雲さんは素敵だと思う。

でも、染まらないので結局彼女もパレットの上にいるんだ。

高校という名のカンバスの色になりたい私と、なる気がない南雲さん。

近いような遠いような、憧れと共に実は勝手に親近感も抱いている。

南雲さんには迷惑な話だろうな。


後頭部をコツンと突かれた気がした。

振り返って足元を見ると小さくなった白い消しゴムが転がっていた。

「明里ちゃん、どうしたのボーッとして」

机に腰掛けて長い足を組んだ綺羅さんが長くて黒い髪を揺らして微笑みながら言った。

綺羅さんは色で例えると白だ。どんな色でも溶け込めて、けれどしっかりと主張する。

彼女はカンバスを華々しく彩る中心にいる。

「明里は何も考えてないよね」

綺羅さんの隣の席に座り全力で背もたれに寄りかかる久美さんがそう言って豪快に笑う。

「ほんま羨ましいわ、わたしらどの大学行こうかって悩みまくってんのにねえ」

久美さんの横に立っていた沙希子さんは、【いま学食が美味!】というキャッチコピーが映える情報誌の一面をヒラヒラと振って白い歯を見せて笑っている。

だから、私も笑った。

確かに側から見たら私はぼうっとしてたように見えたろうし、南雲さんに見惚れていたなんて言えるわけもなく、なにはともあれ一緒に笑っておけば全てが丸く収まるんだ。

その中で首を傾げた綺羅さんは蕾のように唇を尖らせて私をじっと見ている。

蕾が少し開き、何かを言おうとした時HRの開始を告げるチャイムが鳴った。

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