幸福の問い

春風月葉

幸福の問い

 今、あなたは幸せですか?

 …。

 では、幸せとはなんですか?

 …。

 返事がないのは知っているのだが、私は意味もなく鏡の中に閉じこもった自分に問いかけた。

 返事がないのは知っているのだが、私は意味もなく鏡の中に閉じこもった私に話しかけた。

 それは痣だらけで、唇は深く切れ、目の下には濃い隈、まだ二十年も生きていないのに髪はその多くが白く染まり、弱々しく持ち上がった腕は骨のように細く、皮膚は所々が剥げて、醜い赤がその奥に光っていた。

 これが自分、これが私、これが不幸。

 かくんと鏡の中の私がゆっくりと左の方へ倒れていく。

 いいな、不幸が終わるのか。

 傾く世界、静かに幕を閉じるその瞬間に、私は思った。

 私はその時、幸せだったのかもしれない。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

幸福の問い 春風月葉 @HarukazeTsukiha

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る