第3話 犬の郵便局員

犬の郵便局員は僕と同じボックス席に座ってニコニコしながら色々と話してくれた。始めは動揺していた僕だったが、どうせ幻覚ならもういいやと諦めて、面白そうだし徹底的にこの列車のことを聞き出すことにした。

まず知ったのは、この列車は動物達専用の列車だっていうこと。ほぼ毎日あの駅には停まっているが、人間たちは気付かず過ごしているらしい。だが、ごくたまに気づいた人間が乗ってきてしまうこともあるそうだ。


「いったいどうやって気づかないようにしてるんだ?あんなに大きいのに...」

「さあ...私達もよくわからないんですよ。企業秘密ですからねえ。ははっ!」


そして、この列車は始発駅から終点まで片道で丸1週間くらいはかかる。泊まる場合はベッドやシャワーのサービスが無料でついてくるし、食事も車内販売があるらしいから快適に過ごせるらしい。


「ちなみにあなたの乗ってきた『人会街』は端から2番目なのですよ。まだまだ序盤なのです。」


そして僕が聞いて絶望したのは、動物の国には専用の「アニキャ」という通貨があって、勿論それでしか列車の運賃は払えないらしい。人間が迷い込むことを想定して人間の通貨とアニキャを交換する場所もあるのだが、各駅にあるわけでは無いということ。


「まじかよ!次の駅にはないのか?」


「次のとこには無いですねえ。私もあまり詳しくありませんが、あと5駅はあったような...。」


「5駅か...。困ったなあ...。」


どうせ幻覚だからあまり悩む必要もないけど、僕は頭を抱えてしまった。

その時、彼はニコニコしながら言った。


「非常に困りましたねえ。でも、この現状を乗り切る方法が一つあるのですよ?」


「なんだ?是非教えてくれよ!」


「僕のアシスタントをするのですよ!」


「はあ?何を言い出すんだよ!ふざけんなよ...」


「ふざけるとは失敬な〜。よーく聞いてくださいよっ。」


そう言いながら彼はウインクし、作戦を話し始めた。


彼の仕事は見ての通り郵便局員。人間の世界と違って動物の郵便局員達は電車を使って配達をしている。郵便局員の配達中の食事代や電車の運賃は専用のバッジをつけてればタダ。途中何をしようが、配達をきちんとすれば特にお咎め無しなのだそうだ。

なんてホワイトな企業。人間界では今時無いと思うな。


「だからあなたにバッジを一つお貸しして私のアシスタントとして同行してもらえば、あなたはお金に困らない。もちろんタダでは貸せないのできっちり配達の手伝いはして貰いますがねえ。あなたも私もメリットがありますよ。いかがですかねえ?」


「そんな事して大丈夫なのか?ましてや人間のアシスタントなんて...」


「大丈夫ですよ〜。とりあえずちゃんと仕事してれば何も咎めないんですから。人間への偏見も無いですし。このままだとあなた、終点までズルズル行ってお金が払えなくて牢屋に入れられちゃいますよ?」


「それは困るけど...」


僕は迷っていた。手を貸したらいつ解放されるか分からないし、彼が嘘を付いてるかもしれない。明日からの夏休みに間に合うかも怪しいし。でも、これを逃したら確実に捕まるし、幻覚だとしてもこの世界はなんだか面白そうだ。もっと回ってみたい気もしてきた。


「まあ、夢かもしれないなら何しても一緒だよな。ついていくとするか。」


「ははっ!そう言ってくれると信じてましたよ。」


そう言うと彼はポシェットからキラキラ光るものを取り出して僕に渡した。


「これがバッジです。左胸につけて下さいね。」


バッジは黒い光沢のある石で造られていて、肉球の形をしている。不思議な光を放っていてとても美しい。


「あとは、これを被らなきゃね。」


彼はポシェットの中をゴソゴソして、彼とお揃いの帽子を引きずりだして僕に被せた。

しかしあのポシェット、僕の手のひらくらいの大きさなのにどうやって人間サイズの帽子が入るんだろう。あの中どうなってるんだ。


「あら!私としたことが、ビジネスパートナーのお名前をまだ聞いてませんでしたね。聞いてもよろしいですか?」


「ああ、そうだったね。僕の名前は伊織。新庄伊織だ。キミの名前は?」


「僕の名前はゴン太です。よろしくお願いしますね、伊織。」


ははっ!と笑いながら手を差し出してきたので、僕も手を差し伸べて硬い握手を交わした。彼は握れなかったけど。


こうして僕の旅が始まった。













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特急列車猫街行き 海辺みなみ @nankai3333

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