フェミニズム的に正しい掌編

アリクイ

人機

「今日はベーコンエッグにコーンポタージュか、実に美味しそうだ」


 テーブルに美しく並べられた朝食を前に、僕はゆっくりと伸びをする。朝の爽やかな空気と優しい陽の光、そして執事のセバスチャンが腕によりをかけて作った出来たての料理。久々に訪れた休日の始まりは、実に穏やかで幸福感に満ちたものだった。


「テレビをつけて貰えるかな」

「えぇ」


 絶妙な焼き加減のベーコンエッグとふかふかのパンと口に運びながらテレビの画面に目をやると、都心部で起きた殺人事件が大々的に報じられていた。難病を患った高齢の母親に懇願されて実の息子が殺人を犯した、いわゆる嘱託殺人というやつだ。


「自ら死を望んだり、そんな肉親を手にかけたり……人間の心というのは非常に難解なものですね」

「あぁ、本当にね」


 抑揚のない声でセバスチャンはそう口にする。高度なAIを搭載した最近のロボットはある程度のレベルまで人間の感情を理解したり自身も感情があるかのように振舞えるようになったものの、それでもまだ複雑な心情やそしてそれを司る脳の仕組みを完全に模倣するところには至っていない。それほどまでにヒトの心というものは複雑で高度なものなのだろう。そんな話をしながら、僕は残りの朝食を平らげた。


「ご馳走様、美味しかったよ」

「恐縮で御座います」


 深々と頭を下げるセバスチャン。その動きは洗練された美しさを内包し、決して生身の人間のそれに劣らないほどだ。父の代からずっと面倒を見てくれている彼に心の中で感謝をしながら、僕は席を立った。


「そうだセバスチャン、僕はこのあと少し出掛けるから留守を頼むよ」

「承知致しました。ところで本日はどちらまで?」

「昨日から膝の調子が悪くてね。交換用のアクチュエータを買ってくるよ」


 そう言って、僕は颯爽と部屋を出た。


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フェミニズム的に正しい掌編 アリクイ @black_arikui

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