第7話ドラゴンスレイヤー・童貞

『ぎえぇぇえぇええぇええぇえぇぇえぇえぇ────』


村に響き渡ったその珍しい鳴き声の持ち主は俺達が昨日出会ったドラゴン────『チェイスドラゴン』だった。


「来たな...好い鴨。俺の経験値に貢献しにやってくるなんてほんとに愚昧だな...ぶっ殺すぞ!」

俺は威勢よくチェイスドラゴンに向かって、今までにないほどの大声で言ってやった。このイラつきはどこから湧いてくるのだろうか。目の前にいるドラゴンからか前世の上司からなのか、ウルドからなのか...もしくは昨日チェイスドラゴンを起こした俺の怠惰からか。

理由なんてどうだっていい。こいつを殺せば俺の怒りは綺麗に収まる。


「ユナっ!これの合図があったら最大火力の水魔法を奴の喉目掛けてブッパなせ!そのあとは喉に向かって氷魔法をジワジワと効かせろ」

「おーけー。亮一君が何を企んでんのか知らないけど死なないでよね!」


俺は地面に落ちてる砂を両手いっぱいかき集めて、空中に放った。絶対に奴の目に突き刺す。


『ヴァンクリマ────』


俺は風魔法を唱え、空中に放った砂をチェイスドラゴン目掛けて飛ばした。

思いのほかしっかりと固まって飛んで行ったから良かった。分散するかと思ってたから一安心だ。


『きぇ...きゅぇぇええぇぇえぇぇえ...ぐぅぅぅあぁぁあぁああぁぁあああぁぁ』


どうやら目に的中したようだな。チェイスドラゴンは空中でジタバタしてもがいているようだ。チャンスは今しかない。


「ユナ、今だ!」

「うん!」

ユナは詠唱を始めた。


『シュテルクスト・アクア────』


2秒くらいで3メートルくらいの玉が出来てそれを段々と膨らませ、直径10メートル位の玉を作り上げた。それをドラゴン目掛けてぶん投げた。球速が速すぎる。アロルディス・チャップマン超えてんじゃねぇの?

見事水の玉はドラゴンの喉にあたり、ドラゴンはバランスを崩した。やりますねぇ!

「見事だ、ユナ。次は氷魔法だ!」


ユナが詠唱を始めた。俺はその間何をやっているかと言うと、覚えたての水魔法をチェイスドラゴンに掛けまくってる。ラストはこれだ!と意気込み、水をチェイスドラゴンの口の中に放り投げた。


『フリーレン────』

『シュテルコスト・フリーレンス────』


俺とユナは一斉に氷魔法をチェイスドラゴンの喉めがけてぶっぱなした。

魔法はしっかりと当たり、チェイスドラゴンの喉周りが凍っていくのが見えた。呼吸が上手くできないのか、ふごふご言っていた。さらに追い討ちをかけるように俺とユナはジワジワと水魔法と氷魔法を交互に唱えていた。


『ぎぇ...きゅぅ...きえっきえっ...』


ドラゴンは上手く鳴くことが出来なかった。

ドラゴンの怒りは頂点に登ったのか、皮膚が黒くなっていた。そしてドラゴンは火を噴いた。

馬鹿かお前は...

その瞬間、ドラゴンの喉は爆発した。いわゆる水蒸気爆発というものだろうか。何となく学生の頃に授業で習った覚えがある。ドラゴンが火を噴くのは想定外だったな。ジワジワと息が出来なくさせて窒息死に陥らせようとしたが自殺を選んだとは。

ドラゴンの体は顔と胴体で真っ二つに割れて地に落ちた。

チェイスドラゴンはたしかに死んだ。

勝ったのか...

『ぎゅぎゅぎゅ...』

何だこの音...さ○なクンか?

「ユナ、今『ぎゅぎゅぎゅ...』って音しなかったか?」

ユナはキョトンとしながら、首を傾げた。なにか思い出したのか、「あ!」と言いながら俺に指を向けてきた。...人に指を指してはいけませんよ、ユナさん。


「それ、レベルアップした時の効果音だと思う!」


は?なんでこんなダサいの...ド○クエとか○ァイナル○ァンタジーとかなんか幸福感が上がるような音が流れるじゃん...出さすぎでしょ。


「レベルなんて概念がこの世界にも存在しているんだな。どうやったらレベルを確かめることが出来るんだ?」

「脳に直接聞くんだよ。ユリス様が教えてくれるよ」

「マジかよ。面白い仕組みだな。てっきりギルドカードみたいなのがあるのかと思ってた。」

「あ、いや、ギルドカードに本来書かれるのもなんだけど、亮一君まだギルドにかにゅーしてないでしょ...」

「ユナだってしてないだろ?」

「私は女学校入学時に貰ったわ。ギルドに所属するとそこにギルド名が刻まれるのよ」

「なるほど...」


俺は脳にユリスと話をさせてくれと念じた。

『ユリス、聞こえるか』

『はい、聞こえますよ。亮一様お久しぶりですね』

『いや、昨日別れたばっかりじゃん』

『こちらの時間だと亮一様が亡くなってから50日くらい経ちました』

『え...』

えらく時間の概念がズレているのか...そう疑問に思っていると

『いえ、違いますよ。転生手続きをこちら側で処理しなければいけなくてですね────』

要約すると、転生手続きをするのはめちゃくちゃ時間がかかるらしい。申し訳ないな。

『コチラの仕事なので心配しないでください』

ユリスはウフフと笑った。

そろそろ本題に入るとするか。

『ユリス、俺のレベルってどのくらいだ?』

『...大体レベル46くらいです』

『え、高くないですかね』

『元々亮一様のレベルが37でした。ちなみにレベルは転生前の年齢で定まります。ウルドさんに飲まされたお酒に経験値が詰まっていたので、そこで6上がり、チェイスドラゴンを討伐してレベルが46まで上がりました』

えぇ!ウルドの酒凄くね?そんなに上がるなら毎日飲むわ。

『亮一様、健康に悪いのでやめてください』

やだ、ユリスってばもしかして俺の事が...

『仕事が増えるのが嫌なんです』

即答された。ショックだわ。

そんな事はさておき、俺はもう1つ聞きたいことがあった。

『俺に付与した特典って何があるんだ?』

『特典はですね...容姿、言語、詠唱破棄、瞬間学習、剣技、経験値2倍、全属性耐性ですかね...』

は?凄すぎるべ。最強じゃん。これもう死ななくない?まじ感謝。ユリス、愛してるぞ〜!

『も、もう!...調子に乗らないでくださいよ』

『すまないな。ユリス、本当に感謝してる。ありがとな』

『いえいえ、要件が済んだのなら私は仕事に戻りますがよろしいでしょうか』

『あ、ああ。教えてくれてありがとな。これからも頼るかもしれないが、その時はよろしくな!』

『はい、わかりました』


「どうだった?」

「レベルが46だってさ。転生特典は容姿、言語、詠唱破棄、瞬間学習、剣技、経験値2倍、全属性耐性だってよ」

「な、なんだって!凄すぎでしょ!私とあまりレベルの大差ないじゃん!流石は童貞。37年も守っただけはあるな」

「童貞はいじんなよ。俺だって傷つくんだからな」

「ごめんね」

ユナはえへへと頭をガシガシとかいて謝ってきた。


「おーい、リョウイチ〜!おめぇ何やってんだよ」

後ろからウルドがやってきた。

「ドラゴンの始末をしてたんだよ」

「おめぇすげぇな。冒険者になんないのか?」

「これから申請しに行こうかと思っててな」

「そうか...会ってまだ一日だけど、何だか悲しいな」

ウルドは少し寂しそうに呟いた。

「いや、いつでも戻ってくるから安心しろ」

そう言うと、ウルドは「本当か!」と喜んだように俺の肩を掴んだ。

「本当だ」

「そうかそうか。それは良かった!今日は沢山飲むぞー!村1番の酒をたんまり用意してやるけ、俺の家に来るんだぞ!」

「おうよ!」

俺は軽く返事をしてチェイスドラゴンの死体に足を運んだ。

さて、こいつの処理をどうするかな。

「ユナ、剣とかって持ってたりするか?」

「何に使うのかわかんないけど、短剣なら持ってるよ」

「それを貸してくれないか?」

俺はそういい短剣をユナから受け取った。



モンスターを倒したら剥ぎ取りをするって決まってるんだよな。鱗だけでも貰っとかないとな。 高く売れるし。

ユナは俺の行為に不思議な目を向けていた。

「剥ぎ取りとかって、業者の人がやってくれるんじゃないの?」

「そうかもしれないけど、剥ぎ取りは男のロマンなんだよ。許してくれ」


剥ぎ取りに満足した俺はウルドの家に向かった。これから起こることは大体分かっていたが、大仕事した後は酒に限る。これは素直に嬉しい。

そう思いウルドの家に入った。

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ブラック転生 ぺー太郎 @pe_taro2530

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