第6話37歳童貞は魔法使い
昨日はとにかく飲みまくった。ウルドのやつもういいって言ってんのにじゃんじゃん飲ませてくるもん。早死しそう。上司に飲まされて飲む酒はクソ不味い。ウルドは前世の上司と似たところがあるな...ユナはお酒は飲まないとキッパリと断っていたからな。そういう所はキッチリとしてるんだな。
「ユナ〜元気か?」
「私は全然元気〜亮一君は?」
ユナはニヤニヤとすり寄ってきて、俺の顔を覗いてきた。
「まあまあ、かな。前世でも年2くらいであんな飲み会があったからちょっとは慣れてる」
慣れてるって言ってもあの雰囲気に慣れているだけで、めちゃくちゃ酒を飲まされるのは慣れてない。
「昨日ウルドさんが言ってたこと、しっかりと覚えているよね?」
覚えてる訳ねぇだろ。ゲ○吐くまで飲まされて、とてつもなく頭が痛いわ。二日酔い万々歳だよ、ホントに。麦がよく取れるからってビールの樽どんだけ出したんだよ。
「いや、なんにも覚えてない。申し訳ない...」
「ふふーん、亮一君に教えて上げるけど...その前に言う言葉があるよね?」
どんな情報なのか知らないけど、知ってて不利益なものはないでしょ、と思い
「教えて下さい、お願いします」
俺は誠意を込めて腰を30度に曲げた。
ユナはふん、と鼻を鳴らして口を開いた。
「素直なところがあるのが亮一君のいいところだよね〜。良いよっ、教えてあげるっ!」
それは有難い。
「どんな話なんだ?」
「まあまあ、そんなに焦らないで。急がせる男はモテないよ。あ、だから童貞なのか...」
ユナは驚いたように口を開き、なるほどと言いながら拳を手のひらに置いた。
何そのポーズ...リアルでやってるやつ初めて見たんだけど。
「ああ、急がせて悪かった。準備が出来たら話してくれ」
「あいよ、今話すね。昨日ウルドさんが昔話で洞窟にいるドラゴンの話をしてね。」
洞窟にいるドラゴンとは俺らを織ってきた変な鳴き声のドラゴンの事だろう。
「それで?」
「そのドラゴン、『チェイスドラゴン』って言うらしいんだけど。チェイスドラゴンは1度でも自分の生活を害した生物を殺すまで、追いかけるらしいんだよ。」
「え?」
まさか、追ってくるなんてことないよな...
「チェイスドラゴンってどんな姿かウルドは言っていたか?」
「うん...私たちが遭遇したドラゴンと同じ姿だった。チェイスドラゴンはペイントボールみたいな液体を体から出すみたいでね、それが体に付着すると、場所が特定されるみたいなんだよ...」
厄介なモンスターに目をつけられてしまったな。ホーミング機能が付いてるドラゴンとか聞いてねぇよ。
「ユナ、ここから洞窟までの距離はどのくらいだ?」
「ええっと、ちょっと待ってね。...8kmくらい」
「ありがとう、一応聞くがユナは魔法を使えるって言ってたよな?」
「うん!」
「攻撃魔法とかは習得してるか?」
「あったりまえだよ〜。これでも女学校ではいつも1位だったんだからねっ!」
ユナは頬を膨らませてふん、と鼻を鳴らした。
攻撃魔法覚えてるとか万能過ぎだな。どうせこの村には魔法を使える人はいないだろうし、ユナに討伐してもらおう。
「もしドラゴンが来たら、お得意の魔法で討伐宜しくな」
「投げやりしないでよ...亮一君も魔法覚えたいでしょ?それともやっぱり剣技?格闘?バトルマスター?」
「いや、俺はのどかに生きていくよ。そういう面倒臭いのは前世で死ぬほどやった」
まあ、実際死んだけどな。
「私だけじゃ倒せるか分からないよ〜ふぇぇ...」
ふぇぇ...って言うやつもリアルで初めて見た。お前は2次元の塊か、おい。
「じゃあここから逃げよう」
追われているならにげればいいだけだるぉ?
「亮一君のバカっ!まぬけっ!いくじなしっ!ウルドさんの家でこの服のまま寝たんだから、チェイスドラゴンの体液がベッドにベットリ着いてるはずだよぉ〜...」
そうか...一日だけだったけど世話になったしな。何しろ関係ない人を巻き込んでもいけないな。
「分かった。元はと言えばチェイスドラゴン?を起こしたのは俺だしな」
チェイスドラゴンが本当に奇襲してくるのか分かんないけど、技は覚えておいても不利益ないっしょ。
「そういう素直な気持ち、好きだよ」
何恥ずかしいこと言ってんだよ。そういう免疫ついてないんだからやめてよ...もうっ!
俺は正直ものすごく照れていた。顔も真っ赤だろう。だってしょうがないじゃん!そういう事言われたことないんだから!
「そうか...」
俺は髪をガシガシとかいて誤魔化した。
「じゃあ、何覚える?チェイスドラゴンが来るかもしれないから、簡単な技しか覚えさせること出来ないけどね」
えへへー、と頭をポリポリとユナはかいた。
「じゃあ初級魔法を3つほど教えてもらおうかな」
「良いよ〜初級魔法なら素人でも簡単に覚えられるしね〜」
ユナは適当に返事をした。
「どんな魔法がいい?攻撃系?」
「水魔法と氷魔法と風魔法を覚えたい」
へー、と適当に返事をされた。何、そんなに興味ないの?
「水魔法は水が出せる程度、氷魔法は水を遠隔から凍らせられる程度、風魔法は砂を遠隔操作出来る程度」
「オーケーです。だけど...亮一君のMP少ないだろうから、連発はできないと思うよ」
「ああ、1発で殺すから問題ない。」
「カッコイイけど...そんな簡単じゃないと思うよ?」
いいや、前世で読んだ先人もといカズマさんが姑息な勝ち方を教えてくれたから完璧だ。ソースはこ○すば、キョウヤでさえ手出しできなかったんだからねっ!
※
そんなこんなで俺は魔法を学び始めた。
「なぁ、魔法を習得するまでにどのくらいの時間を要するんだ?」
「う〜ん。人によるけど私は初級魔法1つを10秒で覚えたよ」
早いのかよくわからないけど俺よりは早い事がすぐに分かった。
「魔法を覚えるのが苦手な生徒はどのくらいで習得したか覚えてるか?」
ユナはうーん、と首をかしげた。あまり覚えてないのだろうか。
「5分くらい、だったかな」
意外と早いんだな。さすが学生。俺はもうオッサンだからおぼえるのが苦手だよぉ〜ふぇぇ...
「俺はオッサンだから、少なくともその子達よりは覚えるのが遅そうだな」
「いや、亮一君の今の見た目17歳くらいだよ...」
そ、そうだったな。37歳のオッサンが20年もサバを読むのはどう考えてもヤバいけどな。
「そうか。じゃあまずは水魔法から教えてくれよ」
俺がそう言うとユナは右手を空にかざして詠唱を始めた。
『アクオリス────』
ものの一瞬で直径1mの水の玉ができ、それを道に向かってぶん投げた。すごい速さで飛んで行ったから流石にビックリした。お前バタコさんになれるべ。凄すぎるべ。アソパソマソもビックリだよ。
ユナはエヘッと笑いならが俺の顔を覗いた。
「どうよ?見直したでしょ?」
「ああ、ビックリしたよ。てか、あんなにデカい玉は初心者には作れないだろ?」
「えへへー、バレた。カッコつけたかったんだ...えへへ」
「それじゃあ見本になんねぇだろ!初級魔法を見せてくれよ」
「おーけー」
ユナは真顔になり再度詠唱を始めた。
『アクア────』
手から凄まじい勢いで水が出てきて、3秒くらいで直径1mくらいの水の玉になった。それを先と同じ道にぶん投げた。速度は同じくらいだろうか。こんな事が俺にもできるのだろうか。
「ユナは凄いな。どうやって水を手から出すんだ?ペットボトルでも仕込んだのか?」
「ぺっとぼとる?何それ。」
「俺の住んでいた地域で発達してた、飲料を保存する容器の事だよ。てか、そんな事はさておき、教えてくれよ。まずはどうすればいいんだ?」
「まずは水を出すぞー!って張り切るんだよ。その後に詠唱して『アクア』と叫ぶ、これだけだよ」
「へー私もやってみよ」
はい、Masu○TVでぇーす...よく見てたな...懐かしい。
まずは張り切るんだったよな。よし!今から体から水を出すぞー!せいっ!
で詠唱をすればいいんだよな...詠唱ってなんだっけ。まあ、いっか。
『アクア────』
その瞬間、体から体力が急に抜けたことを感じた。え?なにこれ。死にたくないよ?
手を見てみると、ふよふよとでっかい水が浮かんでいた。
「うぉ!すげぇー!魔法だ!」
俺は興奮していると、ユナが驚愕してこちたらを見てきた。
「え、そんなはず...詠唱をしないでなんで生成できたわけ...上級者でも詠唱をしなければ生成出来ないのに...詠唱破棄だなんて...ユナでさえ出来ないのに」
ユナはショックを受けていた。そうだろうな。素人が急に詠唱破棄だなんて、前代未聞だろ。俺も正直ビックリしてる。
「まあ、あれだ。ユリスがくれた特典で詠唱破棄があったんじゃないのか?それしか考えられんぞ?」
ユナはまだショックを受けているようだ。
「いえ、こんな言い伝えを聞いたことがあります...30歳まで童貞だと魔法使いになれるって...亮一君はそれで魔法使いになったのか」
ユナはガッカリしてる。いや、俺のせいじゃないじゃん。俺の息子がひきこもりだったのがダメだったんじゃん。
俺は嬉しいのか嬉しくないのか微妙な感情になった。
「つ、次の魔法も教えてくれよ。な、ユナ?」
「え、えぇそうね。次は────」
※
『フリーレン────』
『ヴァンクリマ────』
俺はいとも簡単に魔法を習得した。いやごめんやん。そんなにショックを受けなくてもいいやん。俺まで泣けてくるやろ?
ユナはポロポロと泣きながら、
「私の今までの頑張りより、童貞の方が先に...」
とか
「詠唱破棄だなんて...」
とか呟いてた。その一言一言が俺の心にクリティカルヒットしてんだよ!
こんなほのぼのとした生活を一生送っていきたい...そんな願いを折るかのように聞き覚えのある鳴き声が聞こえてきた。
『ぎえぇぇえぇええぇええぇえぇぇえ』
チェイスドラゴン、ようやく来たな!ぶっ殺してやるよ。
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