埃かぶった幸せ

村山 夏月

結局、私は……

 ---別れた。


 4年間付き合ってきた彼氏に好きな人が出来たと打ち明けられ、別れを告げられた。

 彼に泣き縋るわけでもなく、怒鳴り散らすわけでもなく、ただ何もなく別れを受け入れた。

 正直、長く一緒に居たせいでお互いがお互いに飽きてしまったのだろう。

 今では付き合い初めの頃ような胸を躍らせるトキメキはなくなり、彼に興味なんて何1つ湧かなくなってしまった。

 それでも一緒に居たのは「なんとなく」という、ぼやけた何かが私達の関係を保ってくれたおかげだろう。

 そろそろだと思った。交際を始めて2年経った辺りから、突然、デートや会う回数は次第に減り続けた。たまに一緒に居ても会話はあまりせず、最近では沈黙が時間の大半を占めていた。

 しかし、一緒に居てつまらないわけではない。

 きっと幸せにほこりがかぶって当たり前に見えてしまっていたんだ。

 私がその埃を払って新鮮な気持ちで幸せを噛み締めれば良かったんだが、でも人間は飽きがくるとそう上手くはできない。

 あのまま、お互いに無駄な時間を重ねるよりは別れを切り出されて良かったのかもしれない……。

 なんて、強がりに思ってみたりした。

 彼と別れてショックが無いのはきっと私はまだこの現実を受け入れられてないのだろう。

 傷がついたことに気づかないほどに傷だらけになっていたのかな。

 家への帰り道を歩きながら空を見上げてみた。するとそこには冬の澄み切った寒空が街を包むように広がっていた。輝く宝石をばら撒いたような夜空はあまりに綺麗で少し立ち止まって見惚みとれてしまった。



 いつか、近所のスーパーでお互いに子供を連れて偶然、再会を果たしたりしたらどうなるのだろう。

 一瞬、目が合うけど会話を交わすことはなく、2人にしかわからないくらいの余所余所しい会釈の後、お互いが何事もなかったように隣を通り過ぎていく。



 そして、その帰りに「君も幸せになったんだね。よかったよかった」なんて思ったりして、今日と同じ空を見上げることができるかな。その時の私の顔ってどんな顔なんだろう。



 なんだろ、なんか嫌だな。心が苦しい。

 そう思った時、静かに涙は頬を伝っていった。


 ああ、馬鹿だな。


「会いたいな」

 零れ落ちた言葉は白い息になって冬の夜に溶けていった。


 結局、私は彼のことがまだ好きだったんだ。

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埃かぶった幸せ 村山 夏月 @shiyuk_koi

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