第18話
またいつもの面白くない冗談のつもりなのだろうか。そうでなければ気が狂っている。部屋の中央に置かれている石の置物に向かって古泉は歩み寄った。
「古泉。確かにお前ら超能力者がハルヒを神と崇めているのは聞いていたさ。だが石のオブジェまでこしらえるは少しばかりやり過ぎじゃないか」
それに作るにしてもそんな表情じゃなくて笑ってる顔にしろよ。何だってそんな苦しそうなツラなんだ。
悪夢にうなされているように苦しげに、四肢を捩り横になりながら、右手で空を掴むように突きだす姿。制作者は悪趣味で美的センスのゼロ野郎だ。うちの妹にでも弟子入りすればいい。
「本物のハルヒは何処だ」
古泉は俺の問いかけには答えず、愛おしさと憐憫の情が入り混じったように石の塊を見つめていた。
「はぁ…。すまんが長門、説明を頼む」
俺はウンザリしながら振り向いて言葉を失った。長門までが、俺でなくても分かるほど、物悲しそうに俯いていた。唖然としたがすぐ我に返りそばへ駆け寄る。
「お、おい長門!どうしたんだよ」
肩をゆすり顔を覗き込もうとするが、長門は俯いたまま俺に目を合わせない。
「どうすることも、………できなかった」
まるで懺悔するかのごとく、それだけ言うとまた黙り込んでしまった。何を言っているんだ長門。お前にできなかった事って何だ。
「キョン君」
振り返ると朝比奈さんが俺を見ていた。いつものようにおどおどしてはおらず、しかし俺の不安を癒してくれることもせず、悲しげな表情をしていた。
「たぶんキョン君も信じられないと思うけど、私も何が何だか分からなくて。涼宮さんが…涼宮さんが」
そこから先は声にならず朝比奈さんは手に顔を埋め嗚咽し始めた。一体何がどうなっているんだ。
「落ち着いてください朝比奈さん。ハルヒがどうしたんですか。あいつは今何処にいるんですか」
嫌な予感がした俺は無意識のうちに朝比奈さんの肩を強く揺さぶっていた。すると突然朝比奈さんは顔を上げ、俺に抱きついた。残念だが幸せな気分には全くなれなかった。
「涼宮さんが…ひっく、涼宮さんがぁ……石になっちゃいましたぁ」
わあぁあぁんと沈痛な泣き声が室内に響きわたった。だが俺は朝比奈さんの言葉の意味を脳内に蓄積されている乏しい知識から理解しようすることで頭がいっぱいだった。あぁ駄目だ、やっぱり意味が分からない。SOS団全員によるドッキリ大作戦という方がよほどしっくりくる。今にベランダ辺りから「まんまと騙されたわね!」とプラカードを掲げたハルヒが馬鹿笑いしながら入って来るんじゃないかとすら思えてくる。だが長門と古泉はともかく、朝比奈さんは嘘をつけるような人柄じゃあない。
「上手く伝えられるか分からない。でも、……私はあなたに伝えなければならない」
無機質な表情の内に、抱える迷いの感情を抑え込もうとするような、不自然な長門の無表情に、俺には身構えた。
「涼宮ハルヒの情報フレアは昨年から減少し始めていた。そしてその結果として、情報フレアはゼロになった。それが月曜の深夜」
長門はふっと俺から視線を外した。その先にいた古泉は未だにぼんやりと、石像を眺めていた。
涼宮ハルヒの帰還 むーらん @muuran
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