一人称の小説を書いてみる
目が覚めた。
意識は明瞭だった。
だが状況は不明だ。
私は辺りを見回した。
真っ白な平面が広がっているだけだった。
……ここはどこだろう?
考えていると、ととととと、と天井……あるいは白い空……から音が聞こえていることに気づいた。
見上げると、のっぺりと絵の具を塗ったような白。
この空はどうもどこかとつながっている。そのことに気づいた私はなんとかならないか考える。
「なんとかなりませんか」
声を発してみる。
なんとかなりますよ。
返事が聞こえたと思うなり私は、ナイフを握っていることに気がついた。
いつから持っていたのだろうか。
グリップは体温を帯びて暖かい。
もしかしたらこの天井はカーテンかもしれないと同時に思った。わけもなくそう思った。
布なら、断ち切れる。
不思議と、投げてみる決意を固めるまでそう時間はかからなかった。
私は右腕にグッと力を込めて、野球の時間を思い出すようにしてナイフを投げた。
刃は一直線に天井へ、鋭い音を立てて突き抜けた。
天井がひび割れると同時に断末魔がした。
「ギャッ」
どさ、と倒れる音。天井がこちら側にたわんでいる。ひび割れた天井が真っ赤に染まる。
なんだこれは。
立ち尽くしていると、天井がぱりんと割れて、かけらがパラパラふってくる。
しかし私は視線に縫いとめられて動けなかった。
天井の向こうから私を覗き込む大きな目。瞳孔は開いており瞬きもしない。死体の目。
私は意識が薄れてきた。そしてかけらがまだ落ちてこないこと、聞こえていた小さな音がしなくなっていることに気づいた。
そして、どうも私はこの男の自殺を手伝わされていたらしいと気づいて、深くため息をついた。
小説のための小説 犬井作 @TsukuruInui
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