東京小夜曲(Tokyo-city serenade)
フカイ
掌編(読み切り)
かもめ、はぼくのともだち。
大学の時から、もうかれこれ二〇年近く。
ショートカットで、おてんばだったかもめ。
学生の頃は、仲間と飲んで、ぼくの部屋で雑魚寝してたかもめ。
畳のあとをほっぺにつけて、土曜の朝、目を覚ましたかもめ。
土砂降りの雨の日に、彼氏と別れて、朝までずっとふたりで飲んだっけ。
ぼくが彼女にフラれたのも、かもめのことを誤解されたせいだ。
ぼくはどうあれ、かもめはぼくのこと、ちっとも男としてなんて見てなかったのにな。
それからぼくら卒業して、社会人になって。
会社に入っても、時々会って。
最初の頃は、アパートのコードレス電話。
恋人との長電話のときは、キャッチホンで詫び合って。
それから、ポケベル。
つぎは、パソコンのeメールでやりとりして。
いつかそれが携帯に変わり、だけどLINEよりもメールのほうがぼくらにはしっくりくるから。
そんなかもめとは、ずっと友だちだった。
長い付き合いのなかで、一度だけ、かもめに告白して、
そしたらあいつ、『ゴメンね』なんて。
謝られても、こまるよ。
それでもぼくら、ずっと仲良しだった。
ぼくに彼女ができて。
かもめはずいぶん年上の、妻子持ちの男とつきあって。
ぼくは結婚して。
子どもができて。
かもめとは、すこし、疎遠になった。
でもあの時とおんなじ。
やっぱり雨の降る晩、かもめはぼくの携帯にメールして来た。
嫌な予感がした。
妻には何も言えず、タクシーを飛ばして、かもめの部屋へ。
かもめは、その日、あの男の子どもを堕ろしてきた。
いつのまにか、アンラッキーな人生を歩みだしたかもめ。
19で知り合って。
かもめのことを想いながら、
かもめのことを忘れようとして、いろんな子と付き合った、20代。
お互いの距離をおいて、でも連絡をとり続けた30代。
かもめの部屋で。
ホロホロ泣くかもめを抱き締めて。
何も言ってあげられないまま、青い朝が来て。
それで、かもめは、東京を離れた。
長崎に帰って、実家に帰って、出直すんだって。
そうだね。
それがいいよ。
この街は、時々冷たすぎるから。
いまでも大好きだよ。
すこしおやすみ。
ぼくの、愛しいかもめ。
ずっと忘れない。
東京小夜曲(Tokyo-city serenade) フカイ @fukai
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