カクヨム小説マーケティング部のフルパワー

ちびまるフォイ

あなたが入れば最高の分析ができる

「くそぅ、なんで人気出ないんだ……」


サイトに登録してから1年以上も経過しているのに、

自分の投稿作は未だに底辺を胴体飛行続けていた。


「才能がないのかな……」


諦めかけたときに、サイトで新しい表記を見つけた。


>小説マーケティング部開設のお知らせ


申し込んだ翌日にはすぐにマーケティング部の人がやってきた。


「はじめまして、私は小説マーケティング部の

 仕事出来留です。これからよろしく」


「あんまり内容読んでなかったんですけど、

 具体的には何をするんですか?」


「説明するより実践したほうが早いでしょう」


出来留は持参したノートパソコンを開くと作業を進めた。

画面にはみるみる知らないグラフやら数字が飛び交い始める。


「あなたの小説の分析を行いました。

 1話のデイリーアクセスユーザーは多いことからタイトルおよび

 キャッチフレーズの設定は問題ないでしょう。2話継続率も67%と高い。

 3話離脱率が45%で急に増えていますね。ヒロイン登場回からですね。

 おそらく、ヒロインのテンプレ加減に読者が読み切ったのが原因でしょう」


「お、おお……!」


「その後のユーザーはあなたの作品を見る人が多いですね。41%。

 あなたの他の作品なら期待できるのではと、作者そのものに興味を持っているようです。

 特に多いアクセスは短編『妹が兄を生みました』ですね」


「あわわわ……」


「あなたへのマイページへのデイリーアクセスユーザー数は35人。

 うち、フォロワー外が12人。検索用語は「異世界」と「バカ」です。

 3話以降の読者からのお気に入り率が2%で作者率が7%と高めです」


次々に繰り出される数字の情報に頭がパンクしそうになった。

それ以上に尊敬の念が上回った。


「す、すごい! そんなにも詳しく分析してくれるんですね!」


「当然です。ビッグデータを扱い分析して次に活かす。

 仕事ができる人間というのは常にそうやって成長していくのです」


「ありがとうございます!」


「次は市場調査と行きましょう。私の言う通りにやれば問題ありませんよ」


出来留は次々にサイトのデータを分析していった。


「今はこのジャンルのアクセス数が多いです。

 トレンドのキーワードはこれなので、タグに入れておいてください」


「でも、あんまり俺の文章にこれは関係ないような……」


「読まれなきゃそもそも評価すらされませんよ」

「デスヨネー……」


「1話目にはこの展開を入れて下さい。ここで読者を引きます。

 2話目もある種のテンプレを守ってください。

 想像を超えるような展開を打ち込んでくるのは読者が慣れてからです。

 3話でこういった変化をつけてください。やりすぎはNGです。

 提出前には要素解析するので私に提出してください」


「は、はい……」


数日後、投稿した作品は鳴かず飛ばずで、見事にデータの海のもくずとなった。

俺より驚いていたのはマーケティング部の出来留だった。


「なぜだ!! 私のデータ分析が間違っているはずはないのに!!」


「まぁ、ほらデータって過去のものですし……。

 今この瞬間にも世界は新しくなっているということで……」


「そんなわけあるかぃ!! ちょっと見せてください!!」


出来留は投稿されたものを確認するなりブチ切れた。


「なんですかこれは!! 私に提出したものと違うじゃないですか!」


「なんでもかんでもデータに頼りすぎるのも創作と呼べない気がして、

 ちょっとだけオリジナル要素を入れてみたんです」


「どうして余計なひと手間を加えるんですか!! おかげで台無しです!

 私のデータ通りにやればうまくいったのに!!

 次はちゃんと言うとおりに投稿してくださいね!」


「はい……」


今度は投稿ボタンを押すその瞬間まで監視されていた。

マーケティング部に完全監修された小説が投稿された。


けれど、やっぱり人気は出なかった。


「なぜだ……」


俺は心底落ち込んだ。

ここまでデータにおんぶにだっこで人気でないんじゃ、

もはやどうあがいてもクソ作家と言われているような気分だった。


「まぁまぁ、そう落ち込まないで下さい」


「出来留さん……。どうして今回は取り乱してないんですか?」


「今回はデータ通りにやって失敗したからに決まってるじゃないですか」

「……え? どういうこと?」


「データ通りにやって失敗したということは、

 間違っていたというデータが得られたということです。

 これ以上に有益な情報はありませんよ」


「単に俺の才能がないからじゃ……」


「バk……凡人はすぐに才能だとか天才だとか、そういう言葉で逃げますね。

 才能がないからと諦めれば努力しないでいいと思ってるんですか?」


「今バカって」

「言ってません」


「俺はこれからどうすればいんでしょう」


「やることは決まっているじゃないですか。

 より精度の高いデータ分析をして、それを実践していくだけです」


「精度の高い分析……!! それはどんな方法なんですか!?」


「まぁ、任せてくださいよ」


言いなりといえば聞こえが悪いが、俺はマーケティング部出来留の指示に従った。


ヒロインが可愛くないと言われれば書き直し、

内容がつまらないと言われれば展開を変え、

作者がムカつくと言われれば整形外科まで言った。


そしてついに――。


「やった! ついに、ついに人気が出たーー!!」


「おめでとうございます。これもすべて私のおかげですね」

「否定はしませんけど……」


出来留はそら見たことかとばかりに鼻息を荒くした。


「しかし、精度の高いデータ分析のおかげです。

 新しい方法を試してから、実践後の結果がつくようになりました」


「そうでしょうそうでしょう。

 優れたデータ分析を行えば間違うことなどないのです」


「教えてください。どうやって制度の高い分析をしたんですか?

 なにか新しいツールを導入したとか!?」


「ノンノン、そんなものじゃありませんよ」


出来留はドヤ顔で答えた。




「私の分析が合っているかどうかを、

 別のデータ分析班にチェックしてもらうようにしただけです!」



その後、俺はすぐに別のデータ分析班に直接依頼するようになった。

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