最終話

 居候が一人、いいえ、一機増えたことで啓助少年一家はまた賑やかになった。ただでさえ色々と騒がしいフレア姫に加えて、新たに加わった転生機ナイトも色々と忙しない。


「プリンセス、プリンセス・フレア! ダメでしょう服をその辺に脱ぎ捨てては! 奥方様からいただいた大切なお下がりなんですから!」


「うっさい! 捨ててたんじゃなくて後でまた着るつもりで置いておいたのっ。っていうか勝手に開けんな! 無礼であるぞ!」


「はっ!! そうでありました、プリンセス・フレア! 大変もうしわけ……」


「ダメだよナイト、ねーちゃんは今ナイトとおんなじいそーろーなんだから、全然えらくないんだよ。だからちゃんとしからなきゃ。甘やかすとろくな大人にならないんだよ」


「こんのケースケーッ、アンタ余計なこと言わないでよね!!」


 基本的には啓助少年に飛び掛かる大人げないうえずぼらなフレア姫のお世話、それだけでなく家の手伝い等々率先して引き受けようとするナイトであるが彼も彼で不器用でこの前は洗面所を泡だらけにしてしまっていた。それ以降この家庭の洗濯機はナイトにとって因縁の相手となっている。


「奥方様ーっ! そろそろこのナイトめにセンタッキとの一騎打ちのご許可を……」


 貧乳を馬鹿にされキレるフレア姫と、お子様と言われ意地になる啓助少年。そしてもう一度洗濯へのリベンジに燃えるナイトは洗濯かごを短い両手に抱えながらがちゃがちゃ足音を立ててリビングへと戻ろうとする。


 ――そんな家族を遙か遠方のビルの屋上から見詰めるモノが居た。双眼鏡を使っても視認は不可能であろう距離、しかしそれの目はそんな物を使わずともはっきりと見えていた。


 背が低く、頭が大きい。曲線と直線が入り交じったそれはまるで転生機ナイトと同じ頭身に思える。しかし全身をぼろ切れに包みその全容は明らかにならず終い。……かに思えたが、高いビルの上に居るものだから吹き荒れる突風に不意に頭に被せた布が取れてしまった。そして露わになったのは鈍い黒鉄色をしたロボットの頭部。


 二枚のフィンが横に並んだ特徴的なその頭部であったが、その体と頭部の比率はやはりナイトと同じ二頭身。ナイトよりも鋭いがつぶらな瞳を持った人間的な目を持つのも共通している。


「――駒が、揃ってきたな……」


 それはいそいそと慌てて布を頭に被せ、続く突風にまた飛ばされないよう両手でそれを必死に押さえながら、しかしその声は低くいたってシリアスな口調であった。


 そしてその直後、トー京にサイレンの音が響き渡った。未だフレア姫とナイトの居る団地を見詰めるもう一つの転生機らしきそれの立つビルの隣を、昔の直立をする恐竜のような影が地響きを起こしながら過ぎて行く。


「……精々足掻くが良い。最後はこの俺が引導を渡してやる。この、テメノスがな」


 再び蹂躙されるトー京に踵を返し、黒の転生機は歩み出す。そして突風にぼろがめくれ上がり眼前を遮ると必死にそれを剥ぎ取ろうとしながら、けれど歩みを止めないものだから段差に躓き転倒してしまう。


 イテテ。そう小さく呟いたそれは紫色の噴射炎を上げ、戦闘機が飛び去った空へと舞い上がった。



 ~END~

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機身転生ナイトキャリバーン こたろうくん @kotaro

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