第6話
「完成――!!」
打ち合わせた拳の間に飛び散る火花、リンカーネーションジェムから生じるエネルギーの反応により発生したプラズマを開いた五指に纏わせながら掲げた逞しい二つの鉄腕を掲げ、満ち溢れる力の発散に掲げた両腕を勢い良く振り下ろすと衝撃と吹き飛ばされたプラズマが迸って行く。
額には白銀に輝くリンカーネーションジェム、双眼にも同じ輝きを瞬かせながら今ここに白銀の巨人、世界の守護騎士が完成した。そしてその名は……。
「――機身転生……ナイトキャリバーンッッ!!」
直後にナイトキャリバーンの周囲を爆発が包む。何もそんな演出機能はその機体には備わっていない。これは先手必勝を習うフォーリナーロボが放ったミサイルの雨が降り注いだために起こった爆発であった。
激しい爆発の後に火炎が立ち上り、同時に蒼白いプラズマがばちばちと炎と共に音を立てていた。
「……そんな攻撃が効くものか!!」
その炎の中から威風堂々、無傷の騎士が歩み出る。たじろいだフォーリナーロボはその両腕を機銃へと変形させ、残るミサイル共々集中砲火をナイトキャリバーンへと浴びせかけた。しかし。
「効くわけ無いじゃない、アタシの力で生まれた騎士なんだから!」
しかし! 左手に展開した絶対防御ナイトシールドでその全てを事も無げに受け止めたナイトキャリバーンは攻撃の切れ目に盾を振るい黒煙を千切り飛ばすと一気に走り出す。
再攻撃を行おうと装填を済ませたフォーリナーロボが機銃を再び構えた、が、背中の飛行ユニット。それをブースターとして使用したナイトキャリバーンは残る距離を瞬間的に詰めて見せる。
「プリンセス・フレアが許してあげるっ。やっちゃいなさい、ナイト!」
「――ナイトキャリバーッ!!」
全身が白銀の装甲に包まれているナイトキャリバーン、しかしその唯一の例外として右腕の前腕部だけが真紅に染まり鋭利な形状をした装甲に包まれていた。勇ましいコールと共にその手から紅く輝く剣が生じる。それをナイトキャリバーンは振り上げて、フォーリナーロボが構えた機銃の両方を切断した。
両腕を断ち切られ、そこから流体エネルギーを零し、生じたスパークがそれに引火、小規模の爆発や火花を散らすフォーリナーロボは信じられないと言った様子で後退った。
「――ブースター解放! ドラゴニック・パワー!!」
拳を突き出し、期待と希望に満ち満ちたフレア姫の目に映るのは己の性能を極限以上まで高める秘技を発動して紅く燃え上がるナイトキャリバーン・ドラゴ。
胸部の装甲が展開しそこからはキャリバー・キャリアーであるドラゴンの双眼が覗き、真紅の炎は白銀の装甲を赤く染め上げ、そして掲げた剣に集まって行く。そうして出来上がった燃える様な紅い剣はまるで天を突くかのように巨大化を果たし、ナイトキャリバーン・ドラゴはそれを上段に構えた。
「――必殺……」
そうはさせるか! フォーリナーロボは両腕を肩から強制排除した後、幅広で厚みのあるボディを突き出すと全体が展開をし、中から無数の火器が飛び出した。デストロイド・フォーリナー形態だ。
銃弾にミサイル、ビーム。破壊の嵐が守護騎士へと集中して押し寄せる。これを許せば周囲は甚大な被害を被る事となるだろう。超パワー、超耐久力を誇る今のナイトであれば耐えられるだろうが、フレア姫と啓助少年、そしてここトー京の一角はそうはいかない。
「……ぉぉぉぉおっ!!」
ナイトキャリバーン・ドラゴはその手に構えた天に届く長大な剣を薙ぐ。それはフォーリナーロボを狙ってのものでは無い。それはこちらに向かう破壊に向けて振るわれた。その剣が持つ破壊力はフォーリナーロボのそれを上回る。
一振りで空一面が赤く染まった。弾丸は両断され、ミサイルは衝撃に爆発を誘発させられ、ビームのエネルギーは掻き消えた。今度は剣を振るい上げるとそれで空を覆った爆発やそれに伴う熱が切り裂かれ根刮ぎ空へと昇っては消え失せた。
唖然とするフォーリナーロボを前にしナイトキャリバーン・ドラゴは再び剣を上段に構え直す。するとあまりに長大であった剣がみるみる収縮して行き、元の剣のサイズまで戻ってしまったではないか。心配する啓助少年であったが、フレア姫は大丈夫だとその自信は揺らがない。
チャンスだと踏んだフォーリナーロボが撤退を行うとする中、しかしナイトの目はそれを見逃しはしなかった。剣は元に戻ったのでは無い。剣が長大になってしまうほどの膨大なエネルギーをそのサイズまで凝縮したのである。その証拠に剣その物となった真紅の炎は、炎でありながら鋭い輝きを放つ。
飛行ユニットが展開し、竜の翼が広がったかと思うと直後にはナイトキャリバーン・ドラゴの姿はフォーリナーロボの眼前にまで迫っており、そして跳躍、振り上げた真紅の剣をそれに向けて振り下ろした。
「必殺――極ッ限ッ剣ッッ!!」
着地。そして静寂。立ち尽くすフォーリナーロボへとナイトが背を向け剣を振り払った瞬間、背後のフォーリナーロボは脳天から真っ二つとなり一瞬の間を置いてから爆発した。
ちょうど三分。啓助少年の一家が住む団地のいずれかの部屋でカップ麺の完成を告げるタイマーが鳴り響いた。それと全く時を同じくして、ナイトキャリバーンのドラゴニック・パワーが強制終了する。強制冷却のために機体各所から噴き出た冷気は機体だけで無くフォーリナーロボの爆発の炎も鎮めた。竜の双眼も再び装甲の下に隠れてしまう。
ドラゴニック・パワーは強力無比であるが、それがもたらす限界以上の力にはナイトキャリバーンを以てしても最大三分が活動の限界となる。それが過ぎれば機体が疲労し、大幅なパワーダウンを起こしてしまうのだ。
一度は冷気で凍えた機体だが稼働のために再び熱が戻ってきたことで結露を起こし、それをまるで汗のように流しながら佇むナイトキャリバーンにあびせられる住民たちの歓声。駆け寄って行く者たちに交じり啓助少年も彼の元へと走って行く。一人残るのはフレア姫。彼女はナイトキャリバーンを見上げていた顔を伏せて、どうしても綻んでしまう己の表情を知られまいと更に背中を向けてしまう。
しかしもう一度だけ、これから自分と共に世界のために戦う事になるであろう己の騎士の勇士を見ようと振り返り、花が咲いたような笑顔を浮かべたその顔をフレア姫はナイトへと向けた。そして――。
「――カッコ良かったよ……ふふっ」
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