楊業宅にて

C国を降伏させたアルーンは、楊業に招かれて楊業の家に来ていた。

「狭いところですがゆっくりしていってください」

「ありがとうございます」

アルーンは礼を言うと広間に通された。

広間は武人らしく着飾っておらずかといって、失礼のないような部屋になっていた。

そこの一席に座るとアルーンはお茶を出されたので一口飲む。

「美味しいお茶ですね」

そういうと楊業は、

「これがD国の名物のお茶なのです、お気に召して何より」

と喜んだ。

「D国ではC国の領土を得られて、万々歳という声が多くてですね、これもアルーン元帥のおかげです」

楊業は礼を言うと、

「何をおっしゃいます、こちらとしても旧領を奪還できたのです、万々歳はこちらが言いたいくらいですよ」

アルーンは謙遜した。

「そう言っていただけると、こちらも元帥と交渉した甲斐がありました」

楊業はホッとしていた。

「今日は是非泊まっていってください」

そういう楊業の言葉に、感謝して泊まらせてもらうことにしたアルーンであった。



案内された寝室からでて、庭を散策することにしたアルーン。

庭を歩いていると、木剣が落ちていた。

それを拾うと、

「覚悟!」との声がして木槍が飛んできた。

木剣で受け止めたアルーンは相手の顔を見ると延瑛だということに気づき、つい顔が緩んだ。

しかし相手がどうやら本気でかかってきていることに気づいて、これはこちらも覚悟してかからねばという気にさせられた。

延瑛が使う楊家槍法は、強力無比な槍の技であったが、延瑛自身がまだまだな使い手なため勝負はすぐについてしまった。

延瑛の首筋に木剣を突きつけると、

「参りました…えへっ」という声がかけられた。

「随分急な歓迎だね」そうアルーンが問うと、

「かの有名な朱雀十九剣が見たかったんです」素直に答える延瑛。

「それならば言ってくれれば好きなだけ見せたのに」そう答えるや否や、木剣で朱雀十九剣の一手目から延瑛に見せることにしたアルーンであった。

技を見せていると、派手に喜んだかと思えば、ぼーっと見つめたり、かと思えばはしゃいだり、反応に困らない子だな、とアルーンは感じて、これだけ楽しんでもらえたなら、技を見せた甲斐があった、とアルーン自身も満足していた。

「凄いすごーい! これがかの有名な朱雀十九剣なんですね!」延瑛も大満足のようであった。

汗をぬぐっているアルーンに延瑛は手ぬぐいを渡した、すると二人の手が重なり、なんとなく両者は恥ずかしくなった。


「ありがとう」

「いえ、どういたしまして」

二人が照れていると、楊業がやってきて

「娘がまたご迷惑をかけましたかな?」

そう娘を見ながらアルーンに問うた。

「いえいえ、私の剣術が見たいとのことで、見せたのですが、喜んでいただけたようなので」

アルーンもまた延瑛を見ながら言った。

「お父様! あの朱雀十九剣を見せていただいたのです」

興奮冷めやらぬ口調で父に伝える延瑛。

すると

「ほほう、それは羨ましい、よければ私にも見せていただけませんか?」

延瑛の持っている木槍を楊業は取り上げて、アルーンにいった。

「まだまだ未熟ですが、楊業殿のお目にかなえば幸いです」

そういって二人は矛を交えあったのであった。

延瑛はそばで見ていて一番喜んでいた。



夜になり、

「今日はいい汗をかいたな」

そう言ってアルーンは寝室のベッドに横たわっていると、コンコンとノックがしたので、起き上がり、どうぞと入ることを許可した。

ガチャっとドアを開けて入ってきたのが延瑛なことに驚いた。

「これはこれは、どうかしたのかい?」

「あの今日のお昼はご迷惑ではなかったかな?と気になって」

急にしおらしくなった延瑛が、アルーンにとってはたまらなく可愛く見えたが、

「迷惑なものか、君の願いが叶えられて良かったと、私は思っているよ」

努めて平静を装うことにしたアルーンである。

するとパァっと花が咲いたように笑顔になった延瑛であった。

「それなら良かったです! その…よければまた見せてください!」

そうおねだりしてくる延瑛に、

「あぁ、まだまだ未熟だがそれでもよければいくらでも」とアルーンは答えた。

「やったぁ!」先ほどまでしおらしかったのが嘘のように明るくなった延瑛であった。

それじゃまた明日新しい技を見せてくださいねっといって帰っていった延瑛であった。

面白くて可愛い子だな、とアルーンは再度認識したのであった。

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エンペラー ウメタロ @Umetaro7

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