排他的な街の雰囲気と親のいない兄弟、それから化け物。なにか起こりそうで、変化しそうで、それでいてこの町ではきっと通常運行なんだろうな、と思います。まだまだ残暑の残る、寝苦しい夜のお供にぜひ。
突如、集落に化け物が入り込んだ報せが主人公へ訪れる。村の大人たちは銃を持って化け物退治に出向き、主人公もそれを探しに森へ入る――というのが大まかなストーリー。村を包む怪しげな雰囲気と、徐々に明らかとなる村の過去。少し不気味な後味を残した作品です。
とても魅力的な幻想短編です。舞台は閉塞した谷底の町。「僕」こと沙門と、その兄の赤名が化け物を追い山に入っていくところから物語は進んでいくのですが……。想像を掻き立てる静かな一人称単視点の文体、それでいて、邂逅する少女と呼応するようにやり取りされる会話部分は軽やか。緩急があって重苦しくなり過ぎず、しかし軽薄にもならず、読みやすい。古日本めいた町の情景描写に引き込まれつつ、夢の中を彷徨うような怪奇的臨場感が素晴らしいです。後に引くような読後感が絶妙。おススメです!