第3話

 その朝、久しぶりに太陽が戻ってきて、明るい朝日が差し込んでいたから、ボクはもう気が気じゃなかった。おばあちゃんも僕の気持ちを察してくれたのだろう。

「じゃあ、今日は朝も散歩に行きましょうか」

 ボクは駆けるようにまっすぐに彼の元へ向かっていった。

「やあ。僕はまだ大丈夫だよ。でも、そろそろもう限界かもしれないな」

 彼はその朝、笑顔でそう言った。

「でも、嬉しかったよ。きみが僕の話を聞いてくれて。最後までちゃんと聞いてくれて・・」

それは彼の別れの挨拶だった。

「僕はね、聞いて欲しかったんだ。僕が旅してきた世界のこと。僕が見た美しい世界のこと。こんなにきれいなものを見たのに、それを誰にも伝えられずに消えていくのは悲しいことだろう?」

 たぶん、だから彼らは一つになったのだ。たくさんの氷の粒の精たちが一つの雪の固まりになって、ボクの町に舞い降りたのだ。それが言葉を持ち得たのは、たぶん、それが人の形になったから。そうして彼らは待っていた。話を聞いてくれる人を・・。


「僕は消えるのは怖くないんだ。僕が消えるのは、もう二度目だからね。僕らは消えて、空に帰り、また新しい命を経て戻ってくるんだと思う」

 それが本当かどうかはもうわからない。でも、わかったのは、人の形が崩れてしまったら、彼とはもう話ができないだろうと言うこと。


「さよなら。短い間だったけど、楽しかったよ」


 夕方、同じ場所へもう一度行ったけど、もう雪だるまの声はしなかった。日中、太陽の照り返しに長時間さらされた彼の体はもう無惨にも崩れ落ちようとしていたから。

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