きみの願い ボクの夢
ある☆ふぁるど
第1話
ボクが彼と初めて出会ったのは、この冬、初めての雪がこの町を覆い、一面真っ白に変えたその日の夕方のことだった。
ボクはこの春に生まれたばかりの子犬だ。まだ生まれて一年にも満たない。この町につれてこられたのも、都会で生まれたボクがだんだん大きくなって居場所がなくなったから田舎のおばあちゃんにプレゼントという形で押しつけられたに過ぎない。おばあちゃんはこの町で一人暮らしだったから、ボクをとてもかわいがってくれた。夕暮れ時にいつも二人で散歩をした。その日もいつものように散歩の途中だったのだ。
夕闇が町を覆い尽くそうとしているそんな時間に、いつもの散歩道で、街角を曲がった瞬間に確かにボクに声をかけたものがあったのだ。
「困ったなあ。誰か? 誰か僕の声が聞こえませんか?」
最初は気のせいかと思った。それはあまりに小さな声で、消え入る寸前のように思えたから。周囲を見回しても、人影など全然ない。
「どうしよう。困ったなあ」
それでも、繰り返し、そんな声が聞こえたものだから、僕は思わず問い返していた。
「誰? 誰かそこにいるの?」
ボクがそんな風に急に叫んだものだから、ボクをロープで引っ張っていたおばあちゃんの方がびっくりして
「どうかしたの?」と声をかけてきちゃった。
でも、ボクにはそのとき聞こえた嬉しそうな声の方が気になっていた。
「聞こえるんですね? 僕の声が聞こえるんですね? ここです。ここにいます。僕はここにいるんですよ」
「何処?」
「あなたのすぐそば。電信柱の陰ですよ」
おばあちゃんの方が、先にそれに気づいたのかもしれない。
「あらまあ、こんなところに、誰が作ったのかしらね?」
そこにいたのは、雪だるまだった。どうやら、彼の声はおばあちゃんには聞こえないらしい。彼はボクに挨拶をした。
「やあ、助かった。やっと僕の声が聞こえる人を見つけることができた」
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