第2話

 今年の冬の寒気は強烈で、滅多に雪の降らないこの町でもしばらくは太陽が拝めそうになかった。雪だるまにとっては好都合だったろう。

「せっかく生まれたんだから、話し相手が欲しかったんですよ」

 彼は自分の寿命が太陽が照ってその体を溶かすまで・・だとすでに知っていた。ボクは散歩の度に、雪だるまと会って、彼の話を聞いた。話し相手になるのは、基本的にボクの仕事だったから、苦痛ではなかった。いつもおばあちゃんの話を聞いていたし、むしろ人の話を聞くのは好きだった。雪だるまの語る物語は面白かった。

 彼が冷たい風の吹き付ける凍った大地の上で最初の意識を持ったこと。彼はもともと氷の粒の精だったのだ。風の中を彼は仲間たちと駆けたと言った。風に乗って北の果ての大地をずっと東に向かって旅をしてきたのだという。


「世界は本当に美しかったですよ」

 彼は何度も繰り返し、そう言っていた。雪の中を走る列車を追い抜いて飛んだ。彼らが近づくと、人々は寒そうに身を震わせ、家の中に入り、扉を厳重に閉めた。それが楽しかった。

「一番きれいだったのは、初めて見た海かなあ」

 氷の大地が突然とぎれて、彼らは光の中に青い世界を見た。東の空が明るくなって雲の切れ間から光がまっすぐに降り注いでいた。青い海に・・。波頭は荒れ狂い、北の海は冴え冴えとしていたけれども、彼らは初めて見る景色に感動して、みんなでくるくると舞ったという。


 彼と話ができるのは、ほんの数分だったかもしれない。なにしろ、おばあちゃんとの散歩の途中なのだ。いくらボクが雪だるまと話をしたくても、彼女をそう長く待たせるわけにも行かない。

 おばあちゃんは笑っていた。「おまえは本当に、この雪だるまが好きなのね」と。まさか僕らが話し込んでいるとは知らなかったろう。でも、彼女はいつも待っていてくれた。ボクが立ち止まると、一緒に立ち止まり、雪だるまのそばにいてくれた。


「僕の旅が終わったのは、北風の力が弱まって、太陽の照り返しがだんだん激しくなって、僕らを溶かし始めたからですよ」氷の粒の精たちにはそれがもう自分たちの限界だとわかっていたのだろう。

「それでね、みんなでお別れを言ったんですよ。楽しかったね。さよなら。さよならって」

 彼の旅の物語が終わりに近づいた頃、この町にも暖かい空気が戻り始めようとしていた。冬の寒気が去ろうとしている。

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