第2話 次元

 彼女の名前は仲道悠子と言った。最初はコミュ障の一種かとも思っていたが、話していると積極的に話題を振ってくれる。それが普段二人でしか話さない私たちにとってはありがたかった。お互いが腐女子だということが分かると、まずは地雷の確認など、基本情報を教え合う。推しの左右固定はあるか、リバは有りか無しか、好きなシチュエーションは何か、など――

 しかし、彼女は私たちと思考が大きく違う部分があった。

「二人とも地雷がちょっとづつあるんですね。でも、私はないに等しいようなものなので、気にせず話してください!でも、ちょっと心配なことがあるんですよね…」

そう言って顎に手を当てる悠子ちゃん。自然な困り顔がかわいい。そんな思考を一瞬で済ませ、元の話に戻る。

「どうしたの?」

ここまでの会話からリンク率90%以上だと思っていた私は聞く。

「いや、私が話しかけるまでのお二人の会話は、アニメの話でしたよね。」

「うん。昨日の『限界まで求めてみろ』っていうアニメの話だよ」

数秒前の快活に進んでいた会話とは違い、ゆっくり、ゆっくり話していく彼女。それに影響されるように私たちも心配になる。そのせいか、3人の空間の空気が灰色になっていく気がした。彼女もそれを感じているのだろう、流れを戻したいがどうすることもできず、結局そのまま話し続ける。

「確かに、私もマンガとかアニメとかも見るんです。でも、私が一番好きなのは、K-POPアイドル――韓国のアイドルのこと――で、その、3次元ネタになってしまうんですけど…」

直後、私の隣から上品な笑い声が聞こえてきた。日菜だ。ああ、こんな時でも笑い上戸スイッチ入るんだ、と思う。突然の笑いに困っている悠子ちゃんを見て、日菜の笑いを止めようとするが、大きな音を立てて日菜は立ち上がる。

「うん!全然気にしなくていいよ!っていうか最早K-POPとか未知数すぎて興味あるし!私にも今度教えてよ!よろしくね、悠子ちゃん!」

日菜があまりにも一気にまくし立てたため、返事の言葉すら出てこない様子の彼女。しかし、安堵しているようにも見えたので良かったとも思う。


そうしている間に、チャイムが鳴る。私たちは席が前後だが、彼女はほぼ反対側の席だった。そこで私は一人思う。


――ああ、悠子ちゃんとは反応できないんだな。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

腐女子薔薇色生活 橘 蒼 @ao_tachibana

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ