お仕着せのひと 予告:赤い公園にて

「それでアナタは、アナタのご主人様たちをどうするつもりなの?」

 と、私は彼女に問い掛けつつ、赤いペンキで塗られたベンチに腰掛ける。

 まさか奇妙いびつな主従関係をこのまま続けるつもりもないでしょうし、そもそも彼女の本来の仕事と性格からして、それは難しそうだもの。

「どう、とは?」

 と、彼女も問い返しつつ、私の隣に腰掛けてきた。

「そのままの意味――そのメイド服、いつまで着てるつもりなのってコト」

「…………」

 考え込んじゃった。もしかしなくても本当にご主人様たちふたごのメイドもどきを続けるつもりだったとか、いや、それが無理なコトは本人でも解っているはず。――

 なんて考えている間にも、彼女の答えは未だ出ないみたい。どんな顔をしてるのかと見てみると、集中する時の姿勢――彼女のクセで、こめかみを両人差し指でぐりぐりと圧しながら、眼鏡のつるをくいくいと上下させる。壊れるから早々にやめた方がいい――をとっている。

「……はぁ」

 待つしかないか。

 気がついたらもう夕暮れ。海の見える公園は、夕日の赤色で染められている。逢魔が時が近いのだ――当然あたりに人気はなくなっていた。

 夕暮れ時、赤色の公園、赤いベンチに座るふたりの人間。

 幻想的といえば幻想的な光景なのかしら――いえ、よくて都市伝説って感じかな。

 そんなとりとめもない空想に耽っていたら、彼女の方もやっと考え終わったみたいで、

「整いました」

 と、眼鏡のずれを直しながら言った。

 それにしても良い顔で言うわね。夕日に照らされた端正な、それでいて少し幼さを残す顔立ちを見ていると、魅入られそうになる。

 だから、私はあえて声を励まして、彼女に言葉の続きを促した。

「それじゃあ、聴きましょう! ずばり、アナタのこころは?」

 彼女が、言葉を紡ぐ。

「ワタシは、マスターを――」

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町のハナシ 都下月香 @moonscent

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